そして氷塵が到来する 【3】
路地に熱い滴が落ちていた。滴は路面で弾けて赤い血痕となる。聞こえるのは足を引きずる重い音。
ゴルタギアのどことも知れぬ路地を、レックは荒い息遣いで歩いていた。
「あいつ、どういうつもりだ……?」
レックは罵倒を口にしながら進んでいく。レックの手は路地の左右に屹立するビルの壁を這い、粘つく音を上げて血の手形を残していく。
レックの全身は護衛たちの返り血と、それ以上に謎の銃撃による負傷で真っ赤に染まっていた。一歩進んでいくだけで全身を激痛が駆け回る。
金属音。レックの左手は無造作に銃をぶら下げていた。銃には弾丸が突き刺さっていたはずが、自然に抜け落ちて路面に転がっている。
すぐに銃の破損部分が軟体生物のように蠢いて表面が傷一つなく再生した。生物兵器である葬星器は小さな破損なら瞬時に再生させ、大きな破損でも失った原料さえ足りれば長い時間をかけて完全に再生させてしまうのだ。
同様に剣が刃毀れを起こしても瞬時に再生する。理論上は無限に切れ味が落ちることのない理想の刃物だ。
路地の終わりに達して、レックは一安心の息を吐き出した。懐に手を伸ばして、舌打ち。取り出した煙草の紙箱は空だ。苛立ち混じりに空箱を握り潰して地面に叩きつける。
「投げ捨ては感心しないわね」
投げ捨てた紙箱が靴に当たった。視線を上げていくと、褐色の肌に、桜色の髪を頭の上で一括りにした女が、レックの前に立っていた。宝石のように力強い翡翠の瞳が非難を含んでレックを見据えている。
その瞳が全身血塗れのレックを確認して怪訝さを宿した。
「それ、どうしたの……?」
「ああー、これは……」
早速の面倒臭い事態だ。レックは煩わしさ全開で顔を歪めた。
「取りあえず、煙草あるか?」




