屋上にて
「あ。」
空を見上げる。
「青い。」
どこまでも澄み渡る青に、一本孤立してのびた飛行機雲がよく映える。
学校の屋上で寝転がりながら、どこまでも広がる空に、ほぅとため息をついた。コンクリートの熱が薄手の制服を通して背中にまで届く。
「あのさ、桔梗口梓杏 。俺たち何で屋上にいるのかな。」
隣で寝そべる男が、そう口にした。
「何かな、縹田千草君。私に【何故屋上にいるのか】と問うたのか。」
「ああ、はいはい。問うました問うました。」
さも面倒くさそうに、千草は頭をかきながら答える。すると、梓杏は眉尻を上げて言った。
「はて、【問うました】とは日本語になっていないのだが。」
流れる沈黙。
「だあああああああ!!面倒くさいよ梓杏!」
そう言いながら、上半身を起こす。
「うるさい・・・」
二人とは違う声がそう囁いた。
「おひるで・・・あたたかいんだから・・・」
だんだん怠くなってきたのか、語尾が小さくなってくる。
「うむ、ようやく起きたか、藤浅葱。」
「ん、おはよう、しあんく・・・」
何かを言いかけたまま寝てしまった。
「器用なやつ・・」
そして千草は元のように寝そべる。
空を見上げた。
ずっと屋上に居たからか、不思議と夏独特の暑さは感じられない。心なしか心地よくもある。
「ていうか」
千草がゆったりとした口調で語りかけた。
「本当に、何で俺ら、屋上にいるの?」
「ねむたいから・・・」
ボソリと浅葱が呟く。
「惜しいな。それもあるが、今は昼休みだから、だ。」
彼には眠気というものは無いのか、いつもと変わらぬハキハキとした口調で、梓杏は返答した。
「あー・・・そっか。」
それ以上追及するまいと、千草は口を閉ざす。
しんと静まり返った辺りは、校庭で遊ぶ生徒の声と、風の音以外響かない。
刺すような夏の日光を全身で受け止めながら、何人かの寝息が重なる。
「いやぁ・・・青春、やねぇ・・・」
「お前いたのか、菫紫苑。」
「いや、教室にみんながおらんから、どうせ屋上だろうと思うてな。」
「つまりあれか、音もなく現れるとは、影が薄いのか。」
「ひどいやーん」
それきり、言葉を発する者はいなくなった。
何分か経つうちに、意識が朦朧としてきて、目を開けられなくなるまでに、睡魔が4人を襲った。
「ん・・・・。」
肌寒くなってきた。
先ほどまでの明るさはなく、暗い。
「・・・暗い!?おい、起きろ・・・っていない!?」
後ろでドアを開く音がした。
急いで振り返る。
「やっと起きたか千草。」
「もう・・げこう・・・」
「お前、結構バカやんなぁ」
「お、お前ら・・・・・」
夏の夕暮れに、千草の怒声が響いた。