⑨
若干の苛立ちを抱えたまま事務所に戻った時ちょうど店長が出勤してきた。
…ダメだ、どうしても気になる。
非常識と思いながらも俺は店長に挨拶されるなり頭を下げ今日急な用事が出来てしまったので休ませて下さいと懇願した。
「え、ちょ、どうしたんすか俊介くん急に。何かあったんすか、さっきの電…」
「店長、こんな事言って本当にすみません!宏紀もごめん!後できちんと話すから!!」
ポカンとした二人に最後まで言い終わらないまま店の扉を飛び出していた。
香織に連絡した直後、そしてたった今かかってきた電話は今まで俺が気持ち悪がっていた《通知不可能》のイタ電と同じ奴がかけてる可能性が高い。
もしかしてそれに香織が関わっている可能性もあるかもしれない。
となるとこれは俺にとって平然としていられることではないのだ。
香織が俺にイタ電してるとは思えないけれど、何らかの理由で既に巻き込まれているとしたら?
駐輪場に駐めた原付まで戻ってすぐ香織に電話をかける。
おかけになっている電話は
電波の届かない場所にあるか
電源が入っていないため……
機械的なアナウンスが流れてきた。イライラを募らせるがその一方でもしかしてまだ企業見学が終わらず電源を切ったままにしているのかもしれないと思い込もうとしている自分もいる。まだアナウンスの流れる携帯を切りポケットに突っ込んだ直後
ピピピピピ…
着信音とバイブに少しビクッとする。恐る恐るディスプレイをみると
《通知不可能》
……………
香織の携帯は繋がらないのにどうもタイミングがいい。
まるでどこかに隠れて俺の様子を伺っているかのように。
さて、どうする?出るか?無視するか?