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「あ、俺には新しい番号教えてくださいよ、俺イタ電なんてしないっすから。」
いたずらっぽく宏紀が笑った。笑顔はやはり香織とよく似てる。こいつに対してときめくことはまったく無いが。
「もちろん!んじゃ宏紀の携帯かけるから登録しといて。」
俺もつられて笑いながら宏紀の携帯にコールしようとしたその時。
ピピピピピ…
《通知不可能》
!!!
またかかってきやがった。
「宏紀ごめん、ちょっと電話してくる!」
足早に事務所の外へ出て《通話》ボタンを押す。
「もしもし!」
……………………
返答は無い。少し迷ったが意を決して聞いてみる。
「え…っと、違うと信じたいけど香織…?」
…ザーー…ジジッ…
「…じゃないよな。なぁ、何か答えてくれよ。あんた誰?もしも…」
プッ
ツー ツー ツー ツー
…何なんだお前、誰なんだよ鬱陶しい。
そしてあの雑音。
やはり電波の悪いいつものイタ電?
しかし今現在この携帯の番号を知っているのは香織しかいない。
万が一俺狙いの物好きなストーカーがいたとして、こうも早く替えたばかりの番号を知ることができるとは思えない。
LINEでの着信なら相手の名前は出るはずだ。
しかし、香織が俺にこんな電話をするってのも理解しがたい。
ケンカをした時でさえこんなことされたのは一度もないのだ。
第一、香織はこんな陰気な事はしない。