⑤
徐々に涙と涎が溢れ出し歪む少女の顔が微笑んで見えた。
ごめんね、今まで待たせて
ごめんね、約束忘れてて
苦しかっただろう?
どうかもう泣かないで…
一緒に行くから…
遠ざかる意識と共に俺は静かに目を閉じた。
……ゅんすけ…しゅんすけ
目を覚ましてちょうだい
ママを一人にしないで…
あぁ、どうか俊介が
私の元へ戻ってきますように
どうか、この願いを叶えて…
どうか、この想いよ届いて…
俊介…帰ってきて…
ママの元に…
感覚が鈍ってきたのか何も苦しくなくなった。
俺、死んだのかな…
悶える程の苦しみから解かれ静かに深呼吸をする。
……深呼吸?
まだ、生きてる!
慌てて飛び起きると少女を背後から抱き締める優しく、たくましい腕が見えた。
その手にはくしゃくしゃのシロツメグサで作られた白い冠と四ツ葉のクローバー…
「母ちゃん…!!」
体を捩り暴れる少女を抑えるようになだめるように抱き締めながら母親は囁く。
「未央…未央……ごめんね、ごめんなさい…ママは未央を守ってあげられなかった。もう未央を一人になんてしないから。ママがずっと一緒にいて今度こそ未央の事守るから…」
それでも少女は真っ赤に染まったままの瞳で俺だけを見つめ細い腕を目一杯俺に向けて伸ばす。
俊チャン…私ダケノ俊チャン…
「ねぇ未央、お願い!俊介は連れていかないで…ママを一緒に連れていってちょうだい!未央にとって俊介が最愛の弟であるようにママにとっても命より大切な息子なの。ママから俊介を奪わないで…お願い、未央…お願い!!」




