⑦
不安と疑問を感じながらLINEアプリをダウンロードしログインし直す。
香織の名前をタップしてメッセージを送った。
"さっき、電話した?間違ってたらごめん"
そのまま携帯をポケットに突っ込んで愛用の原付にまたがり、予定より少し早いがバイト先へ向かうことにした。
シフト早入りが出来なければ事務所で暇潰しでもさせてもらおう。ぼーっとしてても気になるだけだし香織にはまた夜に電話してみればいい。
原付を15分ほど飛ばして小洒落たイタリアンレストランへ着いた。
都心部でもないこの地区の店はたいていピーク以外はヒマだ。
「っはよーございまーす。」
店の入り口から入って奥にある事務所へ挨拶しに行くも店長がまだ不在だったが
「あ、俊介くん!おはよーっす。」
高校生だが何かと気の合うバイトの宏紀がモップで床を清掃しながら挨拶を返してくれた。
宏紀は香織の弟でもある。あんな小さな香織の弟なのに俺より10cmも背が高くこの店の小洒落た制服が一番似合う男だ。そして悔しいことに(?)笑顔が香織に似ていて可愛い。背が高いのに子犬系男子っていうのか?明らかに宏紀狙いの女性客もいるほど女子ウケがいい。
しかしそんなこと鼻にかけるでもなく嫌味も裏表もない宏紀は、香織の弟だからと言う理由でなくても可愛い弟のような存在で、勤務態度も真面目な事からみんなの信頼も厚い。
直哉ともよく遊んでいてこの前三人で行ったカラオケやボーリングの時の雑談をしながら携帯を取り出した。
「あれ?俊介くん携帯替えたんすか?」
新しい物好きで携帯にも詳しい宏紀は俺の携帯を見るなり興味津々で聞いてきた。
「ああ、前言ってたイタ電が止まなくてさ。番号も全部変えたんだ。」
「そいつ、全く心当たりないんすか?でも変えたならもうかかってこないっすよね!」
少し安心したような表情をした宏紀に、いや…と言いかけて止めた。新しい携帯を香織に教えた直後にイタ電(らしきもの?)がかかってきたなんて弟に言えるわけない。そうだな、と軽く返すことしか出来なかった。