⑦
これは、ガラスの破片…?
母親は静かに悶えながら吐血した。
俺は目の前で起きたことを理解出来ず、その場にへたりこみ母親を抱き締めながら呆然と男に目をやる。
グフッ…グフフ…フフ……
グッフッフッフッフフッフフフフッフフ
男は俺達を見下ろしたまま不気味に、満足そうに笑った。
身体の底から震えるような黒く、熱い怒りが沸き上がり俺の目から溢れ出してくる。
「どう…し…て、こんな……」
しかし男は、俺の堅く握りしめた拳にぽとりぽとり落ちる熱い雫を嘲笑うように部屋の中に消えていく。
「て…めぇ…この糞がぁ!!!」
俺は男に殴りかかった。
しかし拳は男を捕えられない。
それでも男を追いかけ何度も何度も手足を振り回す。
グフフフフ…
男は変わらず笑い続ける。
子供をからかうように俺の拳を避けながら。
キラリ
ゆらゆらと避け続ける男の体の一部が光った。
キラリ
母親が刺された箇所と同じ腹部の辺りだろうか。
男の行動を示すようにゆらゆら揺れる度その光は控えめな輝きを放つ。
俺は無意識にそこ目掛けて体当たりで突っ込んだ。
ドンッ!!
ヴアァァァ!
「ッツ……?!」
光っていたそれは男だけでなく俺の肩の肉にも食い込んだ。
熱い痛みが走る。
しかし間髪入れず床に転がり、のたうち回る男に力ずくで馬乗りになったままその腹部に光るもの目指して手を突っ込んだ。
ブシュウ……
男から抜き出したのは血で真っ赤に染まっている大きなガラスの破片。
かなりの長さがありその先は奥深くまで潜っていたと予想できる。
覆い被さる俺から逃れようとする男を押さえつけながら破片を強く握り直し高く振り上げた。
ギャアァアァアアァアアァ!!
ギョロギョロと動く目のひとつを破片が仕留めた。
もう二度と動くことがないよう奥深くまで。




