⑥
ドスっ!!
「……ウグゥ…ゥェ…」
腹の底から突き上げるものが口の中に広がり、含みきれないそれが溢れて床を汚した。
母親をあんな姿にしたのもこいつに間違いないのに…
抑えきれない怒りとは裏腹に足元がふらつきよろめいてしまう。
ドン!クチャ…
…グゥ…ォォオ……
男が小さく呻き声を上げた。
ふらついた拍子に身体が当たった…?
その衝撃を感じた肩には男の血らしきものがベッタリと付いている。
そして更に顔を歪めて睨む男。
もしかして…体当たりなら奴に触れられる?
「てめえ、よくも母ちゃんを…」
口から垂れたものをTシャツの裾で拭うと奴に突進した。
「うぅあああああ!!」
ドン!
男目掛けて思い切り自分の体をめり込ませる。
確かな衝撃の手応えと氷のように冷たくぐにゃりとした臓器の感触を痛いほど感じながら
ドカッ!ドカッ!
男を壁に数回打ち付けた。
血のような影が飛び散るように闇に溶けていく。
…ゴブッ……
男の影はうねうねともがきながら地面に崩れ落ち、うずくまった。
体を細かく震わせている。まるで泣いているかのように…
かなり効いているに違いない。
……ォオ…
今のうちに早く逃げなければ!
俺は奴の血にまみれた腕で母親を抱き上げ庭に飛び降りた。
…ォオ…ミオオォォ……
ミォオォォォオオオオ!!!!!
ミオォォ!!!ミオオオオオォッ!!!!
ザクッ!!
「…………?」
赤黒い影が母親の腹に伸びていた。
「あ…ぁぁあ………」
朦朧としていた母親は目を見開き空気を求めるように声を漏らす。
母親の腹には弱い月明かりに照らされた、キラリと光る何かが突き刺さっている。
そしてじわじわと赤い染みが放射線状に滲んでいった。




