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③
荒い息遣い
そして啜り泣く声
おねえちゃん…?
声がする方に歩いていく
そこから見えたものは太く大きな柱と
萎れた花が入ったままの花瓶、古い壁掛時計
そして…ゆらゆら揺れる男と涙を流す長い黒髪の少女
あぁ、そうだ
俺はあの時この場所で見てしまったんだ
姉貴が、親父に……
ボーーー…ン
!!!?
突然の重々しい音に我に返り辺りの暗闇を見渡す。
ボーーー…ン
部屋の闇の中にぼんやりと見える壁掛時計が鳴って…いる?
ボーーー…ン… ボーーー…ン
まるでこの時を待っていたかのように厳かに。
ボーーー…ン
携帯で時刻を確かめるとちょうど深夜0時になったところだった。
「な…どうし…て……?」
十数年使われていない家に掛けたままになっていた時計が動くことなどありえない。
少なくとも昼間は全く動いていなかったはずだ。
ピピピピピ…
壁掛時計が12回目、最後の声をあげたその時呼応するように俺の携帯が鳴り始めた。
ピピピピピ…ピピピピピピ…
《通知不可能》
「……………。」
携帯は俺が出ることを急かすように鳴り続ける。
出なければ、きっと悪夢は終わらない。
俺は深呼吸をして《通話》を押した。




