⑥
混乱しつつも、文章を打ち込もうとしていた手が通話ボタンを押してしまっていた。仕方なく携帯を耳に押し当てる。
「も、もしもし?」
………………
少し待ってみたが相手は無言だった。
「もしもし、どちらさんですか?もしもし?!」
…ザーーーーー…
プッ
ツー ツー ツー ツー
切れてしまった。何だ、今の?
俺の番号を知らせたのは数分前電話をした香織だけだ。
まだ親にも直哉にも教えていない。
なら、今かけてきたのは…でも通知不可能ってどういうことだ?
このままでも気持ち悪いので香織にもう一度電話をかけてみる。
トゥルルル…トゥルルル…
トゥルルル…トゥルルル…
なかなか出ないな。忙しい?もう訪問先へ着いたのだろうか。でも今現在俺の番号を知ってるのは香織しかいない。たった今かけてきたのは香織じゃないのか?
トゥルルル…トゥルルル…
もしかして俺に伝えそびれた事があって電話してきたのかもしれない。よくわからんが電波のトラブルやら携帯の設定やらでああいう表示が出ることがあるかもしれないし。操作を間違えたのかもしれないしな、うん。
トゥルルル…トゥ……プッ
ツー ツー ツー ツー
「あれ?」
コール音が消えた。電車に乗った?それとも、意図的に電源を切ったのだろうか。
どうしたんだろ、香織。何かひどく引っ掛かる。