①
目的地に着き慌ただしくタクシーを降りる。
周りは静かで、タクシーが走り去っていく音だけが遠くまで聞こえた。
「母ちゃん…!」
俺はあの家に戻ってきたのだ。
周りは街灯も少なく暗くてよく見えない分黒くシルエットになった家全体が浮かび上がってるようで何とも気味が悪い。
焦って飛び出してきたため懐中電灯さえ持ってこなかったことを後悔した。
門から玄関にたどり着くまでの道すら真っ暗で何も見えない。
俺は携帯のフォトライトで地面を照らしながら玄関に近づいた。
「あれ…?」
開いたままのはずだった玄関の扉が閉まっている。
左にスライドさせようとするが全くびくともしない。
鍵がかかっている…?
「母ちゃん!おい、母ちゃん!!いるんだろ?ここを開けてくれよ!」
…おねえちゃあ~ん!どこ~?
ガン!ガン!ガン!
玄関を蹴り壊そうとするが扉自体は思った以上に頑丈で生身の体では壊せそうにもない。
早く母親を見つけて病院へ連れ戻さなければ今度は本当に深刻な事態になってしまうことは間違いないのに。
「くそ!一体どうしたら…」
他に入り口がないか家の周りを見回した。
しかしただでさえ真っ暗なのに家を取り囲むように鬱蒼と生い茂った雑草は遠慮なしに俺の行く手と視界を遮ろうとする。
焦りと苛立ちから乱暴に雑草をかき分け庭らしき場所へ足を進めた。
…おねえちゃん、どこにいっちゃったのかなぁ
すぐもどるっていってたのになぁ
!!!
あそこ…戸が開いている?!
どこの部屋かは分からないが月の光にうっすらと部屋の一部が照らされている。
背丈ほどに伸びた雑草にもまれ苛つきながらも急いでそこへ向かう。
おねえちゃん…?
「母ちゃん!どこだ?!母ちゃ……え?」
ようやくたどり着いたそこから見えたものは
太く、大きな柱に古く、大きい壁掛け時計。
「こ、この部屋は…」
キィ…ン




