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「ちょっと!大丈夫ですか?!」
「救急車、救急車!早く!!」
突然の大声に驚いて振り向いた。
見ると、クローバーが茂る緑の絨毯の上で人が倒れている。
「か、母ちゃん!!!!!!」
横たわる母親に駆け寄ると母親は大きく息を切らせながら右手を庇うように左手で覆い、ぐったりしている。
顔は真っ赤で大量の汗が滲み右手は赤紫色に変色してパンパンに腫れ上がっていた。
「さっき錆で切った傷が…!こんなになるまでどうして黙ってたんだよ!」
母親の身体を抱き起こし支えながら救急車を呼ぼうと急いで携帯を取り出すが手が震えて地面に落としてしまった。
慌てて拾うも頭が真っ白になり何番で呼ぶのか思い出せない。
「今、119番通報していま…あ!もしもし?!花丘町の公園内で突然女性が倒れて…」
居合わせた小さな子供を連れた若い女性が救急車を呼んでくれている。
「母ちゃんしっかりしろよ!母ちゃん、母ちゃん!」
「未…央…未央…み…ぉ…。」
遠くから聞こえる救急車のサイレンがとてももどかしい。
何故こんなになるまで気が付かなかったんだ、俺は…
早く、早く来てくれ!!
自分の無力さと愚かさを呪いながら叫ぶように母親を呼び続ける。
母親は譫言のように姉貴の名前をつぶやき続けた。
腫れ上がった右手にシロツメグサと、四ツ葉のクローバーをくしゃくしゃに握りしめて。




