⑥
「…ゅんすけ、俊介!俊介、しっかりしなさい!分かる?母ちゃんが分かる?」
「……………?」
顔面を打った痛みで意識がはっきりしていくにつれ歪みがなくなっていく。
全身の痺れや脳を砕くような頭痛と共に。
あの『影』はどこにも見当たらない。
目の前には心配そうな母親の顔が俺を覗き込み、強く抱き締めながら大量の塩を俺に振りかけまくっている。
「うぇっ…しょっぺ!!止めろよ母ちゃん!」
「大丈夫なの?アンタ…」
母親には見えなかったのか?
あの『影』が…
しかし俺自身もよくわからない。
幻覚?記憶?それとも……
「しかし、派手にやったわね。」
回りを見ると境目の襖を大きく破り一角に置いた盛塩の皿をぶちまけおまけに左足が痛んだ畳を突き破ってはまったままになっている。
抜け落ちた穴からは更に強い腐った畳の異臭がし、ウジのような細かな虫がちょろちょろと湧いてきたが着地した穴の底は思った以上にしっかりしているように感じた。
腐って抜けたなら床下の木のささくれや土、鉄屑などで不安定なものなのではないのか?
抜けた畳をよく見るとそこだけ一畳の半分の大きさになっている。
「なんで、ここだけ?」
気になって細かい虫を払いながら畳をべりべりと力ずくで剥がしてみると畳下に小さな収納庫のようなものを見付けた。
収納のための空洞があるため他の部分より床が脆く俺の重みで抜けてしまったのか。
蓋の部分も一気に抜けて既に存在意味を無くしている。
「こんな所にこんなものがあったなんて。」
母親もこの存在を知らなかったらしい。
収納庫を覗いてみると底に何やら薄いビニールに包まれた布のような固まりがある。




