④
「ぐ…ぅわ……。」
他の部屋とは全く違う空気、雰囲気に俺は声をくぐもらせた。
この和室の片隅には雨漏りとは思えないほどの大きな、どす黒いシミがべったりとついている。
そのシミが何であるかはすぐ理解出来た。
あの事件から約十五年経過しているはずなのに『それ』はまだ乾ききっていないように見える。
臭いは…何とも説明しにくい。
出来ることなら呼吸を止めていたいほど本能的・生理的に受け付け難いものだった。
「…………………。」
母親は黙ったまま、淡々と部屋の四隅に小皿に盛った塩を置いている。
塩には邪気を祓う力があると聞いたことがあるが母親の場合、姉貴よりも親父を警戒しているように見えた。
キィィーー…ン…
まただ、この頭の痛み。
サイレンのように痛み出す。
思い出してはいけない、と。
頭痛を振り切るようにぶるぶると頭を振り、手に持ったままだったペーパーに包まれた塩をジーンズのポケットの中に突っ込んだ。
そして改めて部屋を見渡すと隣の部屋との境目にどっしりと構えている太い柱に掛けられた、もはや動いていない古くて大きな壁掛け時計を見つけた。
この時計、見覚えはある…
時計の向かい側には雨戸の隙間から漏れる光が少しだけ差し込んでいた。
庭があるのだろうか…?
雨戸に近寄り開けようとしてみるものの、ここも錆びていてびくともしない。
諦めて時計に向き直った時、突然 目眩がした。
ぐにゃり。
部屋が大きく歪んでいく…
そう、あの赤い夢のように。
キィィィーーーーーー……ン
・
・
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ギイイィィィィィイイン!!
「うっ……ァアアアア!!!」
「俊介!!?」
まるで頭を砕かれるような痛みが脳内を駆け巡る。




