②
俺もつられて周りを見渡す。
ここにはマグカップやグラス、子供用のカップがきちんと棚に整頓されているが古びたヤカンや炊飯器、鍋などはシンクやコンロに置いたままになっている。
そして三脚の椅子と一脚の小さめの椅子に囲まれたテーブルにはラベルが剥げ茶色く変色している缶ビールが5、6本転がっていた。
誰かがここで酒を飲んでいて突然姿を消してしまったかのような生々しい光景に見える。
ぶるるっと身震いした俺は気合いを入れ直し他を探索することにした。
どうやらキッチンの向かいにも部屋らしいものがあることに気が付いた。
…しかし蒸し暑いな。
蒸し暑いのに埃っぽく息苦しい。
廊下に出て、たった今入ってきた開けっ放しの玄関を振り返ると外の弱い光が愛おしいほど輝いて見える。
外の世界と繋がっているようでチキンな俺は少しだけ安心するものの、外の世界が恋しくてたまらない。
…正直、こういうのはちょっと苦手なクチだ。
男として情けないが母親が頼もしく思えてしまう。
そんな思いを悟られないように母親から離れ、俺は先程見つけた部屋に近付いた。
この部屋もさっき見た和室と同じように襖で仕切られている。
俺はフゥゥウと深く息を吐き心を決めて襖に手をかけた。
がしっ!
「ヒャァアアァァアッ…?!」
突然腕を捕まれた!
俺の右腕に白い手が伸びている。
恐る恐るその白い手を目で辿っていくと…
たぷたぷの二の腕
たくましい身体
とれかけたパーマ……あれ?
「ちょっと、何情けない声出してんのよ、まったく頼りないわね!」
母親が襖を開けようとする俺を制していたのだ。
腰が抜けそうなくらいびっくりして既に膝が震えている。




