①
小狭い玄関の扉を潜るとむせ返りそうな異常な湿度が俺たちを包む。
外でさえ薄暗く感じさせる家だ。
室内は更に光が少ない。
そして不気味なほど静かだ…
「木の腐った臭いが酷いわね…床が抜けやすくなってるわ。気をつけて。」
母親は土足のまま玄関にある20センチほどの段を上がった。
俺もその後ろを続く。
見回すと壁、天井、廊下の所々で自然に還ろうと砂と化した部分が見受けられた。
当然床の損傷は酷く俺達が動く度苦しそうにキシキシと軋む。
完全に腐って抜け落ちている所を避けながら慎重に進まねばならない。
玄関を上がり数メートル先にて左右に部屋を見つけた。
右にある木の扉は押入れ、左は襖で仕切られた和室のようだ。
まず先に押入れの扉を開けてみようと試みたが
木の腐敗のため形が歪んでいる。
もし無理に開けようとすれば外れておそらく倒れるか崩れてしまうだろう。
気にはなるが危険なためこの中を調べることは断念した。
押入れの向かいにある和室の襖は少しだけ空いている。
そこから中を覗くと部屋いっぱいにこもった腐って痛んだ畳のカビくさい臭いが俺の鼻を刺激した。
雨漏りなのか、天井や畳みにシミがいくつかついてる以外はただの空っぽの部屋らしい。
和室を離れ、奥へ進んだ所には古びたキッチンがある。
母親はそこで周りを見回しながら棚や引き出しを開けゴソゴソと何かを探していた。




