⑦
俺もポストの中を覗き込む。
暗いポストの中には俺が空けた穴からの光に
照らされる鍵らしきものがポツンと横たわっていた。
母親は慎重にポストの中へ手を入れる。
「…痛っ!」
ポストの中にあった鍵を握る母親の右手には太く短い赤い線がついていた。
「母ちゃん?!」
「ごめん、ちょっと中の錆で切っちゃったみたい…でも大したことないわ。」
ちょっと、と言う割には深く傷を負っているように見える。
覗きこんだ時は尖ったものなど気が付かなかったが…
母親の手からポタポタと血が滴り落ちてきた。
「大丈夫?早く消毒しないと化膿するぞ。」
「本当に大したことないってば!あの子の苦しみに比べたら…」
そう言いながら出血する傷を強く吸い、血液をぷっ、と地面に吐き出して持っていたハンカチを右手にぐるりと巻いた。
「そんなことより、これで玄関を開けてみてちょうだい。開けられるか分からないけど…」
母親から手渡された鍵も茶色く錆びていて先端は特に脆そうだ。
俺は母親を気にかけながらもその剣幕に負け、玄関の鍵穴に茶色い鍵を差し込む。
………回るわけがない。
鍵穴自体も酷く錆びているのだ。
ここは力業と思い切り強く鍵をひねると
ボキン!
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!」
先端を鍵穴に突っ込んだまま鍵が折れてしまった。
「バカ!もう、何してんのよ!そんな無理矢理に回して開くわけないでしょ!!」
…カチャリ
「え…?」
今、鍵が開くような音がしたけど…
母親と顔を見合わせながら玄関に手をかけゆっくりと左に力を加えるときごちなく扉がスライドする。
「開い…た……?」
鍵は回らないまま壊れてしまったのに。
…深く考えるのは今はよそう。
俺は俺たちが入れるほどの隙間を開け、家の中へ足を踏み入れた。




