⑥
母親の視線の先に目をやるとそこには敷地を取り囲む石塀の隙間から突き出ている伸び放題の雑草の奥にひっそりと建つ木造・平屋建ての小さな家が見えた。
まだ昼間だと言うのに家を取り囲む空気は重々しく何年も太陽の光に当たっていないかのように薄暗い。
妙な威圧感と共に佇むその様はまるで誰かが家に近づくのを拒んでいるように見える。
昔の姿から変わり果ててしまったのだろう、この外観に見覚えなんて微塵もなかった。
「外から見るだけじゃわかんねぇよ、残念ながらこの家に見覚えなんて全くない。」
「そうね…ちょっと待って、もしかしたら…」
そう言って母親は家の玄関へ歩み寄り入り口横に設置された、昔ポストの役目を果たしていたと思われる茶色い錆びだらけになった鉄製の箱に手を伸ばした。
下の扉が開くタイプのポストのようだが、何年も開けられなかったせいか錆びきって固く口を閉じている。
母親が扉をこじ開けようとつまみに力を入れた瞬間ぼろん、とつまみが取れてしまった。
「あちゃー…取れちゃった。」
「ちょ、代わって?」
黙って母親の様子を見ていた俺は地面に落ちていた手頃な石拾い、ポストの脆そうな場所に照準を定めてコツンと一突きした。
カラン…
ほとんど手応えがない程呆気なくにぎり拳大の穴が空く。
「ちょっと!そんなあからさまに壊さないでよ。」
「もう母ちゃんがつまみ壊しちゃったからいいかと思って。」
悪気なく言った俺を少し睨んだ母親は穴が空いた所から中を覗き込む。
「……あった!!」




