⑦
「それを旦那に問い詰めた時彼は泣いて否定した。母ちゃんを殴りながらね。
顔が変わるくらい殴られて胃液を吐き尽くすくらい蹴り上げられた。
元々の性癖もあったのかも知れないけど、今思えば精神的にも壊れてたのかもしれない。
迂濶だった自分を責めながらも急いで家を出る支度をしたわ。旦那にバレないようこっそりとね。
今まで信じていた分、恐ろしくて子供達を守る事しか考えられなかった。
だから旦那が眠っている朝方にまとめた荷物を抱えて未央と俊介を連れて家を出た…
事件の事を知っていた母ちゃんの両親は私たち3人を迎えてくれたわ。
近所からの冷たい視線や毎日のように続く嫌がらせなどの悪夢からようやく解放されたような気分だった。
これが最悪の事態を招くとも知らず…ね。」
最悪の事態…悪夢…
あの赤い夢が頭を過る。
「母ちゃん、実家に逃げて来てすぐに『ある物』が手元にない事に気が付いた。とっても大切なものよ。
すごく焦ったわ、持ってきた荷物を全てひっくり返して必死に探した。
でも、いくら探しても見つからなかった…
あろうことか、あの家に置き忘れてきていたの。
その時は取りに行く事が、あの男に会う事が恐ろしくてたまらなかった。
そんな母ちゃんの様子にすぐ気が付いたのは未央だった。…その翌日未央と俊介が実家からいなくなったの。」
「え、俺も?」
「ええ。俊介は未央の姿が見えないと泣いてしまうようなお姉ちゃん子だったし未央も俊介の事を本当によく可愛がっていたからね。
未央自身、一人だけでは行けなかったのでしょう…。母ちゃんが行くよりずっとずっと怖かっただろうに…。」
ズキン… ズキン…
俺を襲う鈍い頭痛。
割れそうなくらい痛む…




