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⑨
「…ったく、鍵くらいかけときなさいよこの寝坊助」
「か、母ちゃん!?」
驚きのあまり開いた口が塞がらない俺を仁王立ちして見下ろす母親は怒ってるようで少し笑ってるような表情をしていた。
「心配してたのよ、アンタ。ちゃんと食べてるのか。ちゃんと学校行ってるのか。電話しても『大丈夫』の一点張りじゃ余計に心配になるじゃない。香織ちゃんの事もあったしね…うん、来てよかったわ。」
そう言うと母親は申し訳程度に設置された小さなキッチンへ移動し、どこかのスーパーで買い物してきたのかガサゴソとビニール袋から野菜やら肉やら取り出し始めた。
「とりあえずシャワー浴びるなり顔を洗うなりしてきなさいよ。我が子ながらアンタ、ヒドイ顔してるわ。」
俺は全身汗だくで服がびっしょり濡れていた。
鏡で顔を見ると涙のあとが幾筋か白く残っている。
…それと幾筋のヨダレあとも。




