③
「あーーー…うん、まだかかってくるわ。
"通知不可能"って表示されて誰かわかんねぇからなんか気味悪りいんだよな、どこからかけてんのかも…相手が女の子ってのはわかってんの。
ただ、俺よか随分若い感じ?小学生…はないか、中学生くらいかも。
電波がいつも悪くてはっきりは聞こえねえんだけど『もうすぐ会える』、だの『忘れてないよ』だのぶつぶつ呟いて切られちまうんだよ。」
「それってもしかしてストーカーぽくないか?しかも子供?よりタチ悪いな。
でも意外とモテるんだねえ俊介クン。」
「茶化すなよ、俺がストーカーされるような男に見えるか?」
「蓼食う虫も好き好きって言うだろ。余程の物好きか。」
「…それならあり得る。」
はは、と軽く笑った直哉はまさに時代錯誤と言えるほど機械音痴な俺に代わって拒否設定してやるから携帯貸せ、と右手を俺に差し出した。
「しかし俊介のケータイ結構古いな。…げ。」
慣れた手つきで携帯を操作していた直哉の表情が急に曇った。
「なぁ、これその着歴?」
直哉はディスプレイに表示した着歴を俺に向け怪訝な顔をして俺を見た。
「おいおい、勝手に見るなよ。香織だって俺ちゃんの携帯見ねえんだから…ったく。」
渡したばかりの携帯を奪うように取り返す。
しかし改めて表示された着歴を見てため息が出た。
「しつこい時は俺が出るまで何度も何度もかかってくるんだ。
香織と母ちゃん以外の着信は全部"通知不可能"。多いときは数十件。
必ず毎日かかってくるってわけじゃねんだけど、さすがにこう続いてると着信恐怖症になりそう。」
うーん、と唸った直哉は少し考えた後真面目な顔で俺の目を見た。
「今の時代こういうのが事件になる可能性もあるから本当に警戒したほうがいいんじゃないか。
お前さ、この際思い切って番号変えちゃえよ。そうすりゃ少しはおさまんだろ。
ガチのストーカーだったとしてもこのままじゃエスカレートしてく可能性高そうだし出来ることからやんねぇと。」
「うーん…やっぱそうするか。くだらねぇただのイタ電だったら金なんかかけたくねぇけどどちらにしろ気持ち悪いしな。
じゃ、今から替えてくるわ。」
「あぁ、それがいい…って今から?!午後の講義どうすんだよ?」
「さぼる!!レポートよろしく、じゃーな!」
サボり宣言をしながら立ち去る俺の後方から直哉の声がうっすら聞こえた気がしたが俺の頭の中は既にどんな機種にするかや予算で頭がいっぱいだった。
あ、新しいメアドも考えねば。