⑥
「どうした?顔色悪いぞお前。」
「い、いやなんでもない。お前よりマシだよ。」
不自然に笑ってみせた直哉は俺から目をそらしキッチンへ行きカップ麺を取り出そうとしたが明らかに動揺した様子で数回カップ麺を床に落としている。
もしかして、さっきの…電話……
「おい、直…」
「何でもない、何でもないよ!」
ガタッ
ガタガタ!ガタガタガタッ…!
「何だ?!地震か?!!」
急に床が大きく揺れた。直哉愛用のギターや少々マニアックなフィギュアがバタバタ倒れ始める。
「うわぁっ…!」
突然、直哉目掛けて揺れにぐらついた本棚が倒れてきた。
「危ない!!」
…ガターーーン!!!!!
俺は咄嗟に直哉の腕を掴んで思い切り引っ張りギリギリでかわすことが出来た。しかし部屋の物全体が今にも倒れそうに大きく揺らぐ。
「外だ、外へ出ろ!!」
俺達は急いで玄関の外へ飛び出した拍子に倒れこんだ。
…!!
「な…んで……?」
「…どういうことだ?」
立ち上がった俺たちは呆然と外の景色を見渡す。
地震、ではないのか?あれだけ激しく揺れていたのに外は平然として静かだ。遠くで車の走り去る音さえ聞こえる。
「お、おい、俊介…見ろ!」
直哉はたった今飛び出したばかりのドアの奥を指差した。
そこに見えたもの…
それは歪むように大きく揺れ、次第に緩やかになって静止した“直哉の部屋”だった。
信じがたいが、直哉の部屋だけが揺れていたのだ。
「こ…こんなことって……」
口が塞がらない様子の直哉に縋るように問う。
「なぁ直哉、お前にかかってきたさっきの電話もしかして…。」
直哉は再び俺から目をそらし下を向いたまま動かない。
「さっきの電話は何だったんだよ?!」
予想を裏切る答えを待つ俺に、直哉は消え入りそうな声で答えた。
「…お前の名前をひたすら呼ぶんだ、『俊ちゃん、俊ちゃん』 って。」




