③
総合病院とは言え面会時間をとっくに過ぎたこの時間帯は人気もまばらでひんやりと冷たく静かな院内は独特の雰囲気を醸し出していた。
その静寂を破るように香織のいる救急病棟へ走る。
「香織…香織!!」
頭の中で香織の名前をひたすら叫ぶ。
どうか、無事でいてくれ!
事故に遭っただなんて間違いであってくれ!
すれ違ったナースたちが俺を注意する大声にも構わず息を切らせながらようやく香織の父親と宏紀の姿を見つけることが出来た。
「ハァ…ハァ…おじさん、宏紀…」
廊下の長椅子に座った香織の父親は俺に気がつかないのか、放心状態のままゴミひとつない廊下の一点を見つめている。
「ひ、宏紀!香織は?香織は!?」
宏紀の元へ近付き縋るように問うと宏紀は無言のままカーテンで仕切られただけの香織のいる病室へ通した。
「か、おり……?」
素人でも生きているか死んでいるかは一目瞭然だった。
香織の体は小狭いベッドに寝かされていたが、顔まで包帯でぐるぐる巻きになった小さな香織はむしろ本当に香織であるかどうかわからなかった。
こんな体なのに呼吸器や心拍数を計るドラマで見掛けるような機械は全て外されている…。
香織でなければいい。
人違いであればいい。
人違いであってくれ…。
立ち尽くす俺に言葉をかけるでもなく、包帯で巻かれた香織の身体を両手で温めるようにゆっくりとさする香織の母親は別人のようだった。
腫れ上がった目から流れる大粒の涙と真っ赤な鼻から垂れる鼻水でぐちゃぐちゃな顔も、ボサボサに乱れたまとめ髪も気にするそぶりはない。
全ての動きが止まってしまった香織の体温を戻そうとするかのようにただ静かにさすり続けている。
そんな彼女のそばで潰れて形が歪み、ディスプレイも映らない変わり果てた姿で転がっていたものに気が付き拾い上げる。
これは…
形が可愛いと香織がとても気に入っていた、赤い携帯…
その脇で揺れる、酷く削れた俺と…お揃いのストラップ…
-大丈夫、もうお話することもできないよ。
「か…か……香織いぃぃーーーーーー!!」




