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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
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97話:大阪SIDE.D

 朝食を終えたあたし達は、バスで大阪に行く予定だったんだけど……、どうやら三鷹丘学園も同じくらいの時間にバスに乗るらしいわね。でもどうかしたのかしら、少しざわついてるわね。ちょっとだけ向こうに耳を傾けてみるわ。


「桜麻先生、やっぱり天龍寺先生と青葉が居ません!」


 むむ?天龍寺先生ってのは不知火とか雨柄とかが言っていた天龍寺家の人間で今は三鷹丘学園で教師をやっているって人よね、紳司の担任の。それと青葉ってのはたぶん紳司のことよね。


 ……教師と生徒。(ただ)れた関係ね。まったくいやらしいことこの上ないわ。紳司ってば年上にまで手を出して……。


「あ、わたし、少し青葉君に電話してみます」


 そう言って列を外れて、こっちの方に来たのは紳司の仲間の花月ちゃんだった。どうやら紳司に電話かけるみたいね。


「青葉君、どこにいるんですか?秋世も見当たらないし……。取り合えず、もう5分ほどで奈良へ行くんですがどうするんですか?」


 花月ちゃんが電話で紳司と話している。流石に電話越しの紳司の声は聞こえないわね……。


「分かりました」


 おっと、どうやら紳司と花月ちゃんとの話がついたようね。でもまだ何か話しているっぽいわ。


「ええ、そうです。では現地で会いましょう」


 現地集合ってことになったみたいね。なるほど、ね。あっと、ちょっと花月ちゃんと話をしようかしら。


「花月ちゃん」


 あたしが声をかけると、スマホをしまった花月ちゃんがビックリしたようにこっちを見たわ。


「え、あ、はい?呼びましたか?」


 花月ちゃん、慌てすぎよ。かなり可愛いわね……。紳司が手を出してないか心配よねぇ、ホントに。


「花月、静巴ちゃんよね。あ、っと、そうだ……。てかその手に持ってるでかい物は何?」


 あたしが自己紹介しようと思ったけど、花月ちゃんの持つ長細い刀の様な物が気になってそれどころじゃなかったわ。


「あ、いえ、これは……」


 あ、マジで刀っぽいわね。たぶん紳司の私物よ。


「あ、それ紳司の私物じゃない?だとしたら、今置いていこうとしてたっぽいけど持って行くことをお勧めするわよ?行き先が奈良なら司中八家とのいざこざもないから格好付けのために持っていくだろうし」


 あたしの発言に目を丸くして、「何で?」と言う顔をする花月ちゃん。あ、そっか、まだ名乗ってなかったわね。


「暗音ちゃん、バス出るよぉ~」


 はやての声が聞こえた。まずいわね。仕方ないから、バスに乗りながら名乗るとしましょうか。


「あたしは青葉暗音。青葉紳司の姉よ」


 そう名乗りながらバスの奥まで乗り込んでいくわ。








 バスの席に着くと、隣のはやてが楽しみそうに窓の外を眺めていたわ。あたしは、そうそうに寝ることを決意して目を瞑る。


 大阪までの短い間、あたしは夢の中で過ごすことにするわ……。


 そう決意したまではよかったんだけれど、寝た瞬間に、妙な感覚に囚われたわ。何よ、グラムの仕業か何か?


「ちょっと、グラム?」


 あたしがグラムに呼びかけるも、グラムの反応は見られないわ。どうやら、ここはグラムの干渉領域外らしいわね。てことはあたし自身の夢ってことよね。







闇音(あんね)。大丈夫?うなされてたみたいだけど」


 そう声をかけてきたのは……、あたし、八斗神(やとがみ)闇音(あんね)の育ての親にして伯母に当たる七峰(ななみね)蒼子(あおこ)さんだったわ。幼い頃に両親を亡くしたあたしと弟の蒼刃(あおば)(ひかる)の面倒を見てくれたのが彼女なのよ。


 父……、蒼刃(あおば)蒼衣(あおい)父さん。母……、八斗神(やとがみ)火々璃(かがり)母さん。2人は、「魔眼の魔神(バロール)」の所為で亡くなったと聞いている。


 蒼子さんが居なければ、とてもじゃないがあたし等だけでは生きていけなかったでしょうね。まあ、尤も、いつまでも彼女達を当てにすることも出来ないわ。親戚とは言え頼ってばかりじゃダメでしょ?


 だから、あたしも光も早々に仕事を見つけて働きだしたのよ。自立して迷惑をかけないようにね。それでも蒼子さんは時々あたし達の様子を見に来てくれる。


「大丈夫。ちょっと疲れてただけよ」


 そう言うと、あたしは蒼子さんに笑いかける。蒼子さんも微笑み返してくれる。いつものやり取り。


「そう?無理は禁物よ?」


 あたしが言いたくないことは、それを理解して流してくれる蒼子さん。その辺は本当にありがたかったわ。


「光は、護衛の仕事に出て2、3日いないって言ってたからしっかり食事の用意とか自分でしてね」


 この人はあたしをダメ人間か何かだと思っているのかしら?まあ、料理とかもしないんだけどね。あくまで、しないだけであって出来ないわけじゃないのよ。


「じゃあ、わたしは帰るから、しっかりよろしくね」


 蒼子さんはそれだけ言うと帰ってしまった。あたしが寝ている間に来て、起きるまで待っていてくれたのね。まあ、あたしは、仕事柄、昼夜逆転してしまっているから、結構迷惑をかけたわね……。


「さて」


 あたしは蒼子さんが完全に居なくなったのを確認してから、着替えを始めたわ。漆黒のドレス……あたしの仕事着に。

 仕事着がドレス、と言っても夜の水商売に手を出しているわけでも、ましてや娼館に勤めいてるわけでもないわ。確かに、危ないし人に褒められるような仕事ではないけど、そんな自分の身を安売りするような仕事はしてないわ。

 漆黒のドレスを身に纏い、鈍く蒼く輝くイヤリングをつけ、金色のネックレスをして、黒のシルク地の手袋をする。ここまではパーティにでも行くのかなって言うような格好ね。でも、その腰にはキチンと剣を挿すわ。


 漆黒の鞘に収められた、漆黒の刀身を持つ剣。この世に2振りしかない漆黒の刀身を持つ剣なのよ。1つはナオト・カガヤの打った【神刀(しんとう)夜伽(よとぎ)】。そしてもう1つが、あたしの持つ【宵剣(しょうけん)・ファリオレイサー】。

 あたしはの仕事は、暗殺。この【宵剣(しょうけん)・ファリオレイサー】で幾多の人間を暗殺してきた。それゆえに「闇色(やみいろ)剣客(けんかく)」なるターゲットネームまでついて指名手配されるほどよ。まあ、顔バレしてないから名前だけさらされている状態なんだけどね。


 今宵もまた暗殺へと向かう。今度はどこぞの大臣の暗殺だ。まったく嫌になるわ。しかも依頼主がその大臣の秘書だってんだから……。

 そう思いながら、あたしは、自前の蒼髪を結ってまとめる。そして、家に鍵をかけて暗殺へ赴くの。



 あたしは、数時間かけて大臣の屋敷まで辿り着いた。割りと広めの洋館を想像してもらえれば分かるかしら。依頼者が秘書だったこともあり、洋館の部屋割りや大臣の日課なども教えてもらえたから、この仕事は楽そうね。


 忍び足で、大臣の寝室へと忍び込むわ。すると、妙な殺気を感じる。なるほど、……。この瞬間、あたしは全てを理解したわ。


 全ては罠、ね。大臣はどうにかしてあたしのことを突き止めたけど正面から捕まえにきても勝ち目がないと踏んで、自分の暗殺を申し込み、殺しに来て油断したところを自分が雇った別の暗殺者に暗殺させる予定だったってところかしら?


 ただ、その暗殺者も殺されてるみたいだけど。


 あたしが部屋で見たものは、殺された大臣と、若めの男だった。完全にバラバラになっているわ。シーツとかで体を隠して腕とかの偽物を用意したトリックではなく、本当に死んでいる。


「ふぅん、手際いいわね、貴方」


 あたしは、バラけた大臣を見ながら斜め後ろの天井へと声をかけた。なるほど、本当に暗殺を企てていた奴もいたってわけね。そして、今なら、暗殺してもあたしに罪を擦り付けられるから、ってわけかしら。


「貴方、名前は?」


 あたしの声にも無反応ね。ったく、何なのかしら。あたしは、ようやく彼の方を見たわ。そこに居たのは淡い紫の綺麗な瞳をした同い年くらいの男だった。


「俺のことを言っているのか?」


 きょとんとしたような男。は?じゃあ、誰に話しかけてたってのよ。独り言で「貴方」とか言わんわ。


「他に誰がいるってのよ?」


 あたしの言葉に驚いたように、天井から降りてくる男。何なのよ……?


「お前、俺のことを認識できているのか?これはまた奇怪(きっかい)なことだな」


 何が奇怪よ。おかしな言葉遣いしてんじゃないわよ?なんていうの、キャラ作りってやつ?


「【零】の眼で、気配と音を()った俺を察知するとは」


 【零】の眼ぇ?何その胡散臭い目。魔眼って奴?バッカじゃないの?


「知らんわ。てか、普通に殺気は感じ取ったわよ?気配は遮断したけど殺気は遮断してませんでしたとか言うオチじゃないの?」


 まあ、どうでもいいけどね……。


「そんなわけが……。お前、一体、何者だ?」


 何者て、そんなん暗殺業の人間がそうやすやすと名乗るわけないじゃないの。バカねぇ……。


「人に名前をたずねるときは自分から名乗るのが礼儀ってもんよ」


 まあ、名乗らんでしょうけど。


「俺は、七夜(ななや)零斗(れいと)だ。【暗闇(くらやみ)暗殺者(あんさつしゃ)】などと呼ばれているがな」


 うっわ……、コイツ、マジで名乗ったわ。えぇ……、何コイツ、馬鹿なの、死ぬの?


「あたしは【闇色(やみいろ)剣客(けんかく)】よ」


 そう名乗ると、あたしはとっとと帰るわ。長居は無用だしね。








「のんちゃん……!」


 んぅ?


「暗音ちゃん!」


 あたしははやてに揺すられる感覚で目を覚ました。うぅん、何よ、もう……。


「もう着くから起きて、暗音ちゃん!」


 ああ、そういえば、大阪に向かうバスに乗ってたんだったかしら?寝惚けてよく覚えてないわ。


「ふぁあ」


 欠伸が出た。それに涎も垂れてるわね。はしたない……。ああ、何か変な夢を見ていた気もするんだけど……。


「大丈夫か。お前の意識が自身の深奥に入っていたようだが?」


 グラムが話しかけてきたわ。自身の深奥?そういえばグラムに呼びかけても反応がなかったんだっけ?


(大丈夫よ。ちょっと変な夢を見ただけよ)


 こうしてあたし達、鷹之町第二高等学校の生徒は大阪に着いたのよ。……ほぼ着くまでの描写なかったわね?

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