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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
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94話:3日目SIDE.GOD

 俺が目を覚まして辺りを見回すと、見知らぬ部屋だった。家の自室とも、「楽盛館」の部屋とも違う部屋だった。ピンクの壁紙に囲まれた部屋を薄赤の蛍光灯が照らしている。俺が寝ているベッドの他にはクローゼットとベッドの横の電話台兼棚。そして、大きな姿見だ。


 電話もピンク色でやたら装飾してある。半分空きかけの引き出しからはお菓子の箱サイズくらいの箱が2つ見える。


 ……薄々感づいていたが、もしかしてラ……いや、簡易ホテルと自粛しておこう。どうも体がスースーすると思ったら、俺は服を着ていなかった。


 恐る恐る横を見ると……――全裸の秋世がいた。


 どうしてこうなった……。俺はじっくり、昨日の夜の出来事を思い出す。






 夜、……いや、夜更けと表現するのがいいか。もう朝の4時頃だったか、秋世が「流石に初めてで野外は……」などとのたまわりやがって、《銀朱の時》で24時間営業のラ……もとい簡易ホテルに移動。秋世の身分証を見せて部屋を借り、上がりこんで一眠りして今に至る。






 ホント、何でこうなった……。気がつけば、お互い裸で寝ているって……。ああ、もう。しかし、秋世は可愛かった。

 隣ですやすやと寝息を立てて寝ている秋世に添い寝しつつ、髪を撫でてみる。甘い香りが漂う。


「んぅ」


 寝言か寝息か、そんな音が秋世の口から漏れた。それすらも可愛いと思ってしまう。ヤバイ、今、俺にはある種のフィルターがかかって美化しているのかもしれない。


 このまま秋世を抱きしめて、一生俺の物にしたいレベルなんだが……。俺は、そっと手を伸ばす。シーツで見えないが、確かにそこにある秋世の美乳に!


「ぁあん」


 喘ぐようなか細い声が漏れた。俺は、さらに揉んでみる、その柔らかくも大きすぎず、この手にすっぽり収まるサイズの乳房を。


「ひゃっ……って、何だ、紳司君か」


 俺以外に誰が秋世の胸を揉むというのだろうか……。


「おはよう、秋世。可愛い寝顔だったよ」


 一生に一度は言ってみたかった台詞だ。前にミュラー先輩と寝たときや紫炎と寝たときには言うタイミングがなかったので言わなかったが、秋世には言ってみた。


「ちょっ、恥ずっ」


 恥ずかしかったのだろう。顔を真っ赤にしている。そんな秋世は寝顔よりも、もっと可愛いよ。


「もぅ、紳司君てば……」


 照れてシーツで顔を隠す。その仕草が可愛くて俺の胸にグッと来た。もはや、歳の差なんて頭になかった。


「でも、よかった。紳司君の守備範囲が広くて。そ、その、わ、私も恋人になれるんだよね?」


 恋人になれるかって、まあ、別にしてもいいが……。


「まだ、恋人とかそういうのは考えてないんだ」


 静巴……静葉とのこともあるしな。まだ、そう言ったことは何も考えていない。いや、考えないようにしている、と言うべきか。


「それでいいわよ。恋人候補ってことにしといてくれれば、ね」


 候補って……。まあ、候補に入れるくらいなら全然構わないさ。


「ああ、お前のことは好きだからな、秋世」


 俺がそう言うと、頬を真っ赤に染めた秋世がバシバシと軽く叩いてきた。地味に痛い。


「さて、と。速く戻らないと全体見学に支障をきたすな」


 三鷹丘学園の修学旅行3日目は、全体で奈良を見学しに行くことになっている。出発時刻は8時。現在時刻は7時52分。

 あと8分しかない。しかし、秋世に焦った様子は見られない。まあ、《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》を使えば間に合うだろうが。


「え~、だるい~、もっとイチャイチャしてたいぃ~」


 子供かっ!それか付き合いたてのカップルかよ!奴等と来たら「学校なんかだるい。もっとイチャイチャしてたい」とか言ってサボるからな。


「ほら、とっとと精算して出るぞ」


 俺がそう言うと、俺の腰にしがみついてきた。あ、そか、俺等裸じゃん。

 秋世の裸体が露になる。その瞬間、俺の理性が吹っ飛びかける、がかかってきた電話でどうにか堪える。


「うおっ、誰からだ?」


 俺はそれに感謝しつつ自分のスマートフォンを手に取った。ポップアップ表示で「花月静巴」と表示されていた。


「もしもし、静巴か?」


 腰に秋世をぶら下げたまま静巴の電話に応じる。電話の向こうの静巴はどうやら苛立っているようだ。


『青葉君、どこにいるんですか?秋世も見当たらないし……。取り合えず、もう5分ほどで奈良へ行くんですがどうするんですか?』


 ああ、もう、面倒な上に、間に合わせるのはきつそうだ。こうなったら仕方ないな。……気乗りはしないが1つ手はある。


「すまない静巴。俺は秋世を探して、秋世と合流して、《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》で向こうで合流する」


 まだ秋世と合流していない感じで静巴と対応する。まあ、色々と面倒だからな、秋世とベッドが一緒だったとか、裸で寝てたとか知られると。


『分かりました』


 静巴は、どこか納得のいかないような声音で納得の旨を告げてきた。俺は、少し引っかかりを覚えながらも確認を取る。


「確か、奈良公園の正倉院を最初に見るんだったよな?」


 正倉院を外だけパッと見るらしい。時間の関係上、中に入って展示品を見る時間はないかららしい。


『ええ、そうです。では、現地で会いましょう』


 そう言って静巴は通話を終わらせた。「楽盛館」から奈良公園までなら、少しは余裕あるだろう。


「さあ、30分は余裕があるからイチャつこうぜ」


 俺は秋世にそうやって微笑みかけた。腰にしがみつく秋世が、俺のことを思いっきりベッドに押し倒すのだった。







 20分後。俺と秋世はたっぷりいちゃつき終えて、互いに私服で簡易ホテルを出た。昨日も見たタンクトップ……は流石に露出が多すぎないか?


「なあ、秋世。もうちょい露出の少ない格好できないのか?」


 流石に、裸を見合った仲とは言え、目のやり場に困る。それに他の奴も見るだろうしな……。


「へぇ、そゆこと?もぅ、照れるわね……」


 そういいながら銀朱の光と共に、ちょっと大きめのトレーナーが出てきた。どうやら自分の荷物から転移させたようだ。


「そゆとこは、可愛いわよね……。嫉妬しちゃう?独占欲ってやつ?」


 頬っぺたをプニプニとつついてくる。ちょっと鬱陶しい。でも事実なので否定できない辺りが余計鬱陶しい。


「いいから行くぞ!」


「はいはい」


 眼前が銀朱の光に包まれる。《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》、転移の《古具》を使ったのだ。


 目を開けば、鹿がいた。奈良の奈良公園……なのか?


 鹿、鹿、鹿……。何匹いるんだよ!


 奈良公園名物、鹿、か。鹿、可愛いな。


「ひぅっ。ちょ、来なっ、来ないで」


 秋世からめっちゃ可愛い声が聞こえた。なんだ、鹿が苦手なのか?むっちゃ可愛いんだが……、もちろん秋世が、だよ。鹿とかどうでもいい。


「おぉー!アレがタチュヤのフルサトに澄む『シーカー』てユー幻生(げんせい)生物デスカっ!」


 俺等の背後からそんな凄いデカイ声が響いた。鹿も慌てて逃げていく。あ、秋世はホッとしてる、可愛い。


「あのね、僕は辰也(たつや)だって。それにあれは『鹿』だよ」


 俺が後ろを振り向くと、金髪の小柄な少女と、気の弱そうな青年がいた。どうやら今の会話は彼等らしいな。


「タチュヤ、そんなことより『シーカークッキー』は?」


 シーカークッキー?何だそりゃ、意味分からんな。秋世は、後ろのリア充を恨めしそうに見てる。


「鹿せんべいか……。その辺の自販機かなんかに売ってるんじゃないかな?」


 え、自販機に売ってるもんなの、鹿せんべい。てかシーカークッキーって鹿せんべいのことだったのかよ。


「ジハンキ?バンジルギの仲間か何かデスカ?」


 ば、バンジルギって何だよ……。全く分からないんだが。


「あんな超大型の鳥と豚の混ざったような怪物とは無縁のものだよ。物を売ってくれる箱さ」


 あ、凄い簡単な説明をしやがった。てかバンジルギって超大型の鳥と豚の混ざった怪物なのかよ!初めて聞いたわ。


「タチュヤ、ここ凄いデス!一国の姫たるワタシが分からないこといっぱいデスヨ!」


 一国の姫……?ああ、そういう設定か。それで片言……、演技力半端ないな。


「ちょ、ディスターヌ。ここでは軽々しく姫、なんて言っちゃダメだよ」


 そうそう、外で言ってると痛い子だと思われるからな。と思いながら隣を見ると秋世が凄い顔をしていた。


「ディスターヌ、姫……?」


 何か思い当たるものがあるのか、真剣な顔をしている。

「ちょっと、貴方、もしかして【閃紅(せんこう)】のディスターヌ・ミランダ=クルーゼ?」


 ミランダ=クルーゼ?何だ、そりゃ。


「あら、貴方はワタシをご存知デスカ?」


 秋世の言葉にそう返すディスターヌさんとやら。そして、辰也と名乗っていた青年は警戒を露にしていた。


 一体どういうことだ?

 ついに紳司君が秋世にデレました!

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