93話:夜と秋世SIDE.GOD
俺は銀朱の光と共に、どこかに転移させられた。どうやら「楽盛館」ではないらしい。どこかのビルの屋上と言った雰囲気の場所だ。しかし、三鷹丘とかとは違いネオンがあまりない。どうやら京都なのは間違いないらしい。
「秋世……、どこだここは?」
俺は、秋世に問いかけるが、秋世の返事はない。何故か俺の顔を凝視している。何かおかしいか?
「微量の蒼色が残っているわね……」
ああ、そういえば、蒼くなったままだったな。だいぶ色が落ちていると思ったんだがな……。まだ少し残っていたらしい。
「やっぱり、【蒼刻】を使ったのね……」
蒼刻……?蒼を刻むってことか?
「蒼き魂の慟哭……。その力を使えるのは一握りの人間だけなのよ。私が把握しているのは、清二さん、王司君、七峰さん……紫苑さん、そして、紳司君、この4人だけよ」
蒼き魂の慟哭?じいちゃんと父さんと母さんも使えたのか。まあ、基本的にウチの人間はおかしなところがあるからな……。
「今日、ひょんなことから発動してな……。初めてだったが、ようは【力場】を体内に構築して増幅してるんだな」
原理は分かっていた。そのために体内に七つの【蒼き力場】が構築されているのも理解できたしな。
「へぇ、理論まで分かってるあたりが流石よねぇ……。それにしても、《古具》よりも先に【蒼刻】が使えるようになるなんて、変わってるわねぇ……」
いえ、《古具》は相当前から使えてます、とは言えない感じだし、そもそも言う気もないので話を適当にあわせておく。
「なあ、秋世……。お前はさ、じいちゃんや父さんを知ってるんだろ?どんな出会い方をしたんだ?」
以前から気になっていたことを問いかけてみた。すると、秋世は、一瞬きょとんとしたものの、懐かしむような笑みを浮かべて、体を伸ばす。
「んー」
タンクトップの服の脇の部分から横チラしそうになっていたので凝視した。見えそうになっているおっぱい、たとえ秋世のでも視線がいってしまうのは仕方がないことだろう。
「ふぅ、それで、じゃあ、まずは清二さんとの出会いを話そうかしら?」
清二じいちゃんの話か。なるほど興味深いな。考えてみればあったことはないからな、俺。
「そうね、私と清二さんがであったのは……私が10歳くらいのころだったかしら?夏休み前に深紅伯母様が、私と姉様の護衛に雇った青年がいたの。それが清二さん」
へぇ、流石は金持ち、護衛を雇うこともあるんだな。しかも秋世の姉と言えば、現当主の天龍寺彼方さんじゃないか。じいちゃんはそんなお偉いさんの護衛もしてたんだな。
「清二さんは強かったわよ。私の家で雇った男は、深紅伯母様の足元に及ぶくらいの強さは必要ってことで試練があったから。それに唯一合格した男が清二さんなのよ?」
その深紅伯母様ってのは相当な手練なんだろうか?まあ、姉さんなら何とかなりそうだよな……。
「それで、まあ、清二さんは私の……私と姉様の護衛になったんだけど。私って、パーティとかによく顔出してたから、他人の感情を読み取るのがうまくなっちゃったのよね……。まあ、これは静巴も同じなんだけどさ。それで、アホみたいに下心丸出しの嫌な奴ばかりだったのに、清二さんだけは違ったのよね」
ふぅん、俺のじいちゃん、か。てか、まあ、10歳児に下心丸出しってロリコンじゃねぇか。流石にじいちゃんの守備範囲も……、
「ああ、でも清二さん、私のことエロい目で見てきてたけどね」
……じいちゃん、あんたって人は。まあ、ばあちゃんとじいちゃんは1歳差って話は聞いてるから大丈夫だったんだろう、その病気。
「清二さんのおかげで私は友達ができたのよねぇ……。清二さんがいなかったらボッチ街道まっしぐらよ。それに、ウチの一家は、清二さんに命を救われてるしね」
流石だな。変態とは言え、ちゃんと護衛の仕事はしていたらしい。しかも一家全員と来たもんだ。
「清二さんの力は《死古具》と《聖剣》だったわ。《死古具》《殺戮の剣》と《切断の剣》。どちらも凄い力だったのよね。でも、その2つを1つにした《聖覇にして殺戮切断の剣》ってのはまた強かったわ。しまいには【蒼き力場】を制御して、その《聖覇にして殺戮切断の剣》に伝達して《蒼天の覇者の剣》と呼ばれる剣を持つに至ったのよ」
蒼王孔雀?確か、姉さんから聞いたことがあった気がするな。何でも、神に至った者が生前に与えられた剣で《緋王朱雀》、《蒼王孔雀》、《琥珀白虎》と3対の刀剣だったはずだ。
「あ、後で本物の《蒼王孔雀》を異世界から拾ってきたとかで龍神が騒いでたわね」
そんな風に呟いた秋世。何だかんだでじいちゃんとの付き合いは長いらしい。まあ、お互い長生きだからか、腐れ縁だろうな。
「それで王司君との出会いよね……」
次は父さんとの出会いに話が移るらしい。だが、非常に難しい顔をしていた。どうしてだよ……。
「えと、王司君、ねぇ」
なにやら頬に手を当て、悩むような仕草で、暫し間を空けた。どうしたのだろうか、じいちゃんに関してはペラペラ話していたのに。
「あれは……私が25くらいだったかしら?もうちょい前かも知れないけど、そのくらいのときに、私が三鷹丘学園で教鞭をとったのが王司君のクラスだったのよ。清二さんのときといい、私のときといい、何故だか、青葉の人間が在籍している時代に限って《古具》使いが多い上に事件も増えるのよね」
それは、事件の原因が《古具》使いだからではないのだろうか。そして、ウチの人間がいると《古具》使いが多い、と言うのも迷信レベルだ。
「清二さんの頃は……、姉様、美園さん、真琴さん、久々李さんなど。王司君の頃は……、王司君、ルラさん、真希さん、七峰紫苑さん、九龍さん、烏ヶ崎さんとか……。しかも、これ《古具》使いに限定しているだけで、不思議な力を使う人ならもっといるって言う、ね」
初耳だが知っている名前があった。「烏ヶ崎さん」だ。明津灘守劔の旧姓が烏ヶ崎だったはずだ。いろいろとあるんだな……、世間って狭い。
「まあ、それで、私と王司君との出会いは、親友を救おうと奔走して《古具》に開花した王司君と、自殺を決意して飛び降りたことで開花した王司君の親友のルラさんを私が助けたときに出会ったのよ。もう、すぐに分かったわよ、この子は清二さんの息子だってね」
そんなにじいちゃんと父さんは似ているのか……。かなり気になるんだが……。その辺は秋世の主観だからな……。
「あ、ごめん嘘。名前言われて気づいたわ。まあ、王司君は1人で突っ走るタイプの子だったから戦闘に関しては私の知らないとこで凄く戦ってたみたいなのよね。でも、まあ、王司君も相棒さんとは大体一緒だったから、相棒さんならどんな戦いがあったか知ってるんでしょうけどね」
また出た、父さんの相棒。まあ、詳細な話は修学旅行から帰ったら父さん自身が聞かせてくれるって言ってたって姉さんが言ってたからな。そこを期待しよう。
「ま、出会いはそんなものね」
そう言って秋世は肩をすくめて、しばらく俺の顔をジッと見て、考えるようにいう。
「紳司君って、静巴さんと付き合ってんの?」
ブフッ!
俺は思わず吹き出した。この教師はいきなり何を言い出したんだ。
「つ、付き合ってねぇよ!」
俺は否定した。いや、マジで付き合ってないんだから当然のことだ。すると秋世は、何とも白々しいまねをしだす。
「ふぅ~ん、そっかぁ~、付き合ってないんだぁ……」
お前、「いいんじゃないの?紳司君も静巴に手ぇ出したりしないっしょ?」とか言って俺と静巴を相部屋にしたんだろうがっ!付き合ってないの知ってんだろ?
「ね、ねぇ、紳司君」
何なんだよ、一体……。
俺は、秋世が呼びかけてきたので、秋世の顔を見る。すると、秋世がガシッと俺の頬を両手でつかみとる。
「ゴメンね、静巴」
そう呟きながら、がっちりと固定した俺の顔に向かって顔を近づけてくる。え、何事だ?!
近づいてきた秋世の美しい顔……。あ、睫毛長ぇな。それに肌もきめ細かいし……。少し潤んだ微紅の瞳、薄桃の頬と、艶やかな赤い唇。
――チュ
そして、唇と唇が重なりあった。少し肌寒夜で、薄冷えていた顔に、秋世の温かな感触が浸透していく。
妙に病み付きになるような、そんな安堵感を抱く温かさだった。
唇と唇が離れると、暫し見詰め合う俺と秋世。秋世がそっと両手を俺の頬から離した。そして、俺と秋世との距離が離れていく。
何故だかそれが妙に悲しくなり、無性に抱き寄せたくなった。
「秋世っ」
離れていく秋世の体をギュッと抱き寄せる。
「ぁん」
甲高い悲鳴にも喘ぎにも聞こえる声を上げて、俺に抱き寄せられた秋世。その頬は先程よりもさらに赤くなっていた。
慌て半分、期待半分と言った表情で俺のことを見つめている秋世は、まるで少女のようだった。
「し、紳司君……」
抱きしめる秋世の髪を撫でる。艶のある手入れの行き届いた黒髪。ほんのりと朱色の光沢がある綺麗な髪だ。
「や、優しくしてね」
俺は、その言葉を合図にしたかのように、秋世を屋上からビルの内部へ入るドアの近くに追い詰める。まるで「壁ドン」の様な格好だ。
「ああ」
こうして、俺と秋世は、夜が更けるまでの間、屋上で過ごした。何があったのかはご想像にお任せするが、結局のところ何もなかった。
何故か突然の秋世回。どうしてこうなった……?!
前々から不遇の秋世をどうにかしようとは思っていたけど、ノリで書いていたらこんなことに……。
ちなみに地味に作者としては秋世を気に入っています。