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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
92/385

92話:後始末SIDE.GOD

 毒針をキチンと片付けた俺は、家の惨状を見ながらも、ザッと見回して全員が無事なことを確認した。それと同時に、俺の周囲に沸いていた蒼色の粒子が減っていくのが分かる。ただし、まだ、髪と瞳は蒼色が残っている。やや茶色っぽい蒼色くらいだ。


「律姫ちゃん、大丈夫だったかい?」


 俺は、目をパチクリとさせていた律姫ちゃんの元へ寄って、そう声をかけた。俺が庇ったから怪我はないと思うんだけど……。俺の呼びかけに、律姫ちゃんは暫し俺の顔をボーっと見ていた。


「り、律姫ちゃん?」


 反応がないのでちょっと心配になって、もう一度呼びかける。すると律姫ちゃんはハッとなって慌てたように返事をした。


「だ、大丈夫……です」


 頬を真っ赤に染めて上目遣いで……、まあ、座っている律姫ちゃんと立っている俺だから必然的に律姫ちゃんが上目遣いになるんだが……こっちを見てきた。


「あぁ……完全堕ちた」


 姫穿が何か呟いていたが、まあ、気にする必要はないだろう。てか、姫穿と丹月はちゃっかりずっと抱き合ってるからな……。なんだ、あのリア充カップルは。


「律姫、アンタ……。ファンから好きになって、今、大好きになったっしょ?」


 姫穿の言っている意味はよく分からんが、アイドルか何かの話だろうか?何故急に今このタイミングで?


「あ、あの、先輩……。先輩、ありがとうございました」


 お、おう。メッチャ可愛いな、律姫ちゃん。このまま抱きしめたいくらいだ……。しかし、まあ、そこは何とか堪えるとする。


「ああ、俺と律姫ちゃんの仲じゃないか。気にするなよ。いつだって頼ってくれていいんだよ」


 俺はそう言って抱きしめた。堪えてねぇじゃねぇか。何が何とか堪えるとするだよ!


「きゃ、ちょ、ちょっと先輩。みんな見てますよ?」


 見てなければいいんか?って、そんな話をしている状況ではない。


「すまん、ちょっと抱きしめたくなって……」


 はぁ……、てか、これどうすっかな。律姫ちゃんのことではなく、家の惨状と倒れている真呼十(まこと)についてだ。


「悪いが、少し電話してくる」


 俺は、そう言って、スマートフォンを片手に食堂を出る。ついでに帝を無理やり食堂に押し込んでから、無料通話で秋世に電話する。時刻は夜。そこまで遅いわけじゃないが、随分と失礼な時間だろう。まあ、秋世に対しては失礼だとも思わないのでどうでもいいか。


「もしもし、秋世か?」


 ほぼノーコールで秋世が出たのでそう問いかけた。ほとんど様式美ではあるが、仕方あるまい。間違い電話の可能性もあるのだから。


『何よ、紳司君。こんな遅くに電話してくるなんて……』


 秋世が眠そうに電話に対応した。ノーコールで出ているから直前まで寝ていた、なんてことはないだろう。


「悪いが、冥院寺家まで来られるか?」


 俺の問いかけに、電話の向こうの秋世の反応が一瞬止まった。どうかしたのか?まさか……電話中に寝てるなんてことはないだろうな……。


「おい、寝ちゃったのか?」


 夜といっても、まだ11時過ぎくらいだぞ?早寝すぎじゃねぇ?おばあちゃんかよっ!ああ、年齢的にはおばあちゃんよりちょっと若いくらいだもんな。


『ちょっと……?今、変な思念が飛んできた気がするんだけど。まだ、50代だから、おばあちゃんじゃないわよ?ってんな話してる場合じゃなかったわね。何で冥院寺家なのよ』


 秋世の察知能力は、俺を直接見てなくても発動するらしい。マジ怖いんだが……、個々まで来ると超能力レベルじゃねぇ?


「俺が今、冥院寺家にいるからだ」


 俺は、そういいながら食堂の中に入る。そして、そのまま、ぶっ壊れて外が見える壁があった場所まで行った。


『はぁ?何で外いんのよ?!てか、昨日もそんな感じだったの?あんな時間にロビーにいたからおかしいとは思ったけど』


 どうでもいい話すんな。まあ、昨日もそうだったんだけどな、場所は明津灘家だったが……。


「とりあえず来い。来たらすぐ分かるぶっ壊れた3階の部屋だ」


 外から見ても丸分かりだからな……、そう指定すればすぐにこの部屋に辿り着くだろうな。通話を切って待つこと数刻、俺の眼前に銀朱の光が現れた。


「ったく、人をホイホイ呼び出して、一体何よ?」


 秋世は、いくら夏場とは言え露出の高いタンクトップのシャツとデニムの短パン姿で現れた。


「あ、天龍寺先生……?」


 律姫ちゃんが秋世を見てそう声を漏らした。秋世は声の方をしたほうを見て、律姫ちゃんに気づいた。


「あら、冥院寺さん。……平日に里帰り?明日も1年生は学校あるはずよね?」


 そんなことを言っている場合かっ!


「おい、秋世、あそこに転がってんのが天城寺(てんじょうじ)からの刺客だ。とりあえず殺してはいないからお前がどうにかしてくれ。家同士のいざこざだから俺はあまり干渉したくない」


 俺はどっちの家の人間でもないし、司中八家とも関係ないからな。秋世は、元司中八家の家柄だし、人生経験も長いからどうにかしてくれるだろう。


「はいはい、とっとと始末しとくわよ。冥院寺さん、貴方、帰りの電車とかってもう決めてた?」


 始末するなよ?向こうに送り届けるだけでいいっての。それにしても何で急に律姫ちゃんに予定聞いてんだ?


「いえ、まだ……。明日は休むつもりでしたから。まだ学校には連絡してませんけど」


 まあ、そうだろうな。明日の朝一で帰っても学校には途中からになるだろうな。ああ、なるほど……。


「家がこんなになってるからな。寝泊りできる部屋は限られてるし、秋世なら一瞬で送れるからな。頼むよ」


 俺はそう言った。まあ、おそらく秋世が送ってくれるって話だったのだろうから、話を先回りして答えたのだ。


「ええ。じゃあ、送るわよ……っとその前に」


 秋世は先に真呼十(まこと)天城寺(てんじょうじ)家に転送した。そういえば、完全気絶させたままだったけどよかったんだろうか?


「えっと、冥院寺家の修理の方はそっちで頼むわよ。この子はうちの学園の生徒だから送るだけ。それだけだから勘違いしないでね」


 ああ、一応、家の違いで、区別してるんだな。ツンデレかよ、とか思ってしまった自分がいたが、そんな自分は殺してしまいたい。一瞬可愛いと思ってしまったじゃないか。


「さて、じゃあ、行くわよ」


 銀朱の光と共に、秋世と律姫ちゃんが姿を消した。ポカーンとする冥院寺家の人々に、俺は何を言うか迷ったが、適当に言うことにした。


「あ~、今のは、天龍寺家現当主の妹で、転移系の《古具》を持っています。皆さんもどこか生きたい場所がある場合は言ってください。転移させますので」


 しかし、返事はなかった。どうやら転移させる必要はないらしい。なら、俺は、秋世が戻って来しだい「楽盛館」に戻るとしよう。


「1つ聞きたいんやけど、俺の怪我なおしたん、あんたやろ?あんたの《古具》、どないな能力なんや?」


 秋世がいつ戻ってくるかも分からないタイミングで口にしたくはないが、秋世が戻ってきてからもグダグダ聞かれて秋世に露見するよりましか。


「《神々の宝具(ゴッド・ブレス)》だ。能力は、あらゆる神話の能力が使える。お前を治したのはギリシア神話のペルセポネーの力だ」


 簡単に説明するが、またも冥院寺家の人々は目を丸くしていた。何なんだよ、一体……。


「規格外とでも言うべきなんでしょうか、初代の友人さん」


 久那さんがそう呟いた。俺には自覚がないんだがな……。そもそも、初代の友人であったわけではないし、それ前世だし。


「魔王と勇者の混血一族に言われたくないですね」


 俺は肩をすくめてそう言った。魔王、ヴァルガヴィラ・ヴァンデムの娘であるヴェノーチェ・ヴァンデムと勇者の息子にして自身も勇者であったレル・フレール=ヴィスカンテの間に出来た子孫が彼女に当たるわけだからな。しかも彼女の娘であるなら律姫ちゃんも姫穿もレルの直系の子孫に当たるんだよな……。


「そういえば【王刀・火喰(ひくい)】って今どうなってるんです?」


 俺の打った刀だからな……行方が知りたい。なお、【王刀・火喰(ひくい)】を俺が打ったということを知っているのはレルの一族と俺自身だけである。公表せずに秘密裏に打ったからな……。


「えっ……、あ、あぁ~」


 何故そっぽを向いたんでしょうか久那さん?


「き、きっと無事ですよ?」


 きっとって何だ?!

 え、無事じゃないのか?無事なのか?どっちだよ。てか、久那さんが管理してるんじゃないのか?


「い、いえ、【王刀・火喰(ひくい)】自体は、妹の葉那(はな)に譲りましたから……」


 何だ、妹さんが持ってるのか。ビックリさせるなよ、壊したり、折ったり、売っちゃったりしたのかと思っただろ?


「金の亡者の葉那が売っていなければ……どこかにあると思います」


 何か不安になること言うなよ!え、金の亡者だって?妹を金の亡者呼ばわりしてやんなよ、とか、そんなに金の亡者なのか、とか色々思うところはあるが……。


「き、きっと大丈夫。葉那もキチンとしてるところはしてるので……。ええ、きっと、前も私が買ってあげた金の延べ棒はとっていたので……、はい、きっと」


 それは金の延べ棒だからとってるんだよ!てか妹に金の延べ棒買い与えるってどんなシチュエーション?!


「すっげぇ不安になるんすけど?!」


 俺の驚声に久那さんは申し訳なさそうにしていた。


「で、でも、売られてても質屋を捜せばね、どこかに……」


 あるかもしれんが、もう売れてるかもしれんだろ!なんて無責任な奴だ!いや……これも遺伝か?


 ヴェノーチェェェエエエ!全部テメェの遺伝子だぞコラ!


「ああ、もういいです。そんな良作でもなかったですし」


 そ、適当に作ったの献上したんだよな……。いや、だって、知り合いに「刀を打ってくれよ」とか頼まれても、ねぇ?そもそも勇者なら勇者の剣てのがあるだろ。何で刀なんだよ。


「え、駄作を勇者に渡したんです?勇気ありますねぇ……」


 あ、完全に話をそらそうとしていやがる。まあ、いいか。それにしても、なんだって、こんな。


 【王刀・火喰(ひくい)】、その刀には隠された機能もあったんだがな……。まあ、いいだろう。どうせ、あの機能も俺以外には使い道のない機能だしな。


「さて、そろそろ秋世が帰ってくるな……」


 おそらく、そんな予感がした。そして、ジャスト、俺が呟いたのと同じくらいに、眼前に銀朱の光と共に秋世が現れた。


「紳司君、行くわよ」


 そう言って俺の手の肩を掴む秋世。転移するのか。俺は最後に冥院寺の人々に声をかけた。


「それでは、また会いましょう」

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