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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
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91話:姉妹と義兄義弟SIDE.GOD

 地面と屋敷の1階を大きく破壊したことで【殲滅】の効果については分かってもらえただろうか。ドヤ顔で律姫ちゃんの父親の方を見た。すると、律姫ちゃんの父親は唖然として声も出なさそうだった。何でだ?


「君は、…………何者だ?」


 掠れるような声で、そんなことを辛うじて聞いてきた。いや、何者かって聞かれても……。と、その瞬間、不意に殺気を感じ取った。何かが迫る様な圧迫感と言うか、緊迫感と言うか。


「律姫ちゃん!」


 俺は、咄嗟に律姫ちゃんを庇うように押し倒した。すると、俺と律姫ちゃんのいた位置、それから、姫穿の位置、それから律姫ちゃんの父親の位置になにやら妙な黒い球体が迫っていたのだ。


 俺と律姫ちゃんはかわし、姫穿は丹月が庇い、律姫ちゃんの父親は久那さんが《古具》で防いだ。帝はちゃっかり避難していた。


「チッ、みんな無事かっ?!」


 俺は敬語を使っている暇がなかったので普通の口調で呼びかけた。


「丹月がっ……」


 姫穿を庇った丹月だけが負傷したらしい。いや、負傷どころじゃなくかなりの重傷で、即死レベルだ。


「丹月!丹月!起きなさい丹月っ!」


 姫穿が呼びかける。しかし、丹月の反応がない。流石に、俺も血の気が引いた。どうする……。


「《冥女の銀梅花ペルセポネー・マートル》っ!」


 俺は頭に浮かんだ言葉を即座に告げる。またもギリシャ神話系列だ!これに懸けるしかない!


「え、丹月……」


 丹月の傷が治る。まずは肉体の復活。そして、次にギンバイカと引き換えに冥府より魂を呼び寄せる。


「何とかなったか……」


 先ほどの「Persephone. Myrtle」とは、直訳で「ペルセポネ・ギンバイカ」となるのだが、これは、冥界の王ハデス(ハーデースとも言う)に気に入られたコレーが冥界でハデスと婚約させられてペルセポネとなる。コレーはゼウスとデメテルの娘である。そんなペルセポネはハデスの玉座の後ろに控えているのだが、ギンバイカと引き換えに母や様々な人を生き返らせることもあったとされる。その伝承からきているのが《冥女の銀梅花ペルセポネー・マートル》だ。

 《冥女の銀梅花ペルセポネー・マートル》は、唱えたとき、手にギンバイカが現れ、対象の肉体が回復したと同時にギンバイカを地面に落とすことで魂を甦らせる。


「っつ……。丹月ぅ……」


 姫穿が丹月をぎゅっと抱きしめた。なるほど、やっぱり姫穿は丹月が好きだったんか……。まあ、知ってたけど。


「感動の再開は後にしろよ……。復活させられるのも100年1回が俺の限界っぽい」


 それも1人1回きりだからな。もう丹月の復活は無理だ。それにさっきの攻撃を仕掛けてきたのが誰かも分かってないんだから、警戒を怠れない。


「ありゃ?全滅狙ったんだけどなぁ~」


 そう言って俺が壊していた壁の方から入ってきた(※3階です)のは高校生くらいの前髪で目が隠れている青年だった。


「お前はっ、天城寺(てんじょうじ)真呼十(まこと)……」


 天城寺(てんじょうじ)……?【仏光(ぶっこう)】の天城寺(てんじょうじ)か。なるほど、今日、俺たちが集められることを知って暗殺に来たのかよ。


「まあ、いっか。《暗黒の球体ダーカー・ブラックホール》、死ね」


 「Darker. Black hole」。直訳で「暗い・ブラックホール」なのだが、これは相当ヤバイ。おそらく、先ほどの攻撃は、吸い込むのではなく潰す。重力制御の《古具》に違いない。球体に質量があって、その球体にかかる重力を操っているようだ。


 まずい……。このままでは、俺は、死ぬ。《冥女の銀梅花ペルセポネー・マートル》は他者にのみ発動できる。なぜなら、自分は既に冥界の女王となっているペルセポネーになぞらえられているのだから。そもそも自分が死んでいるのにどうやっても《古具》の発動が間に合うわけもないんだがな。


 それに、100年に1回と言ったように俺にすぐに使うのは無理だ。しかも、世界法則を曲げないようにするためには、ギリギリ生きていた可能性がある時間内、つまり死んでから1分以内、死に掛けているときにしか発動できない。


「ハッハ!」


 真呼十(まこと)は、今にも攻撃を飛ばしてくる。この状況、どうにも出来ない。俺の《古具》でも、どうにもできな……


――第六に、冥王の名を持つ冥王印(みょうおういん)の分家の娘の家にて己が殻を破れ。


 ふと、空白の部屋に刻まれていた言葉を思い出した。冥王の名を持つ冥王印の分家の娘の家……冥院寺。では、そこで俺が冥王の妻の力に目覚めたのは偶然か?しかし、これが殻だとは思えない。


 では、殻とは何だ。殻……。


 そのとき、俺の中で急速に何かが芽生えようとしていた。いや、前から予兆はあったのかもしれない。静巴とシャワーを浴びていたときの萌芽するような感覚、胸の奥底に蠢くような、あの感覚が急速に甦ったのだ。


 体の奥底を中心に何かが形成されていくような感覚を覚える。そして、そこから何かが噴き出すような力強さを覚えた。それと同時に冷静さを欠いていく、されど慌てはしない。


 不意に過ぎる、蒼刃の伝承。蒼色にまつわる魂の神話。


 蒼天(そうてん)。蒼き天空は、全てを包み込む蒼色の天国。魂の行き着き先である天国を意味する。


 蒼星(あおぼし)。蒼き星は、明るき証。そして、水の星を意味する。数多ある星々の中で、最も温度の高いことを意味する蒼白い星を意味する。


 蒼空(そうくう)。蒼き空は、全ての天候を司る大空。天候は、人の感情と重なる大いなるもの。悲しき者は大雨と、嬉しき者は晴々と、落ち込みし者は曇りと。天候と感情とを意味する。


 蒼海(あおみ)。蒼き海は、生命の根源。生命を司る大海。全ての根源であり、恵みでもある大いなる優しさを意味する。


 蒼森(あおもり)。蒼き森は、自然の恵み。生命の生きる場となり、生命を支える広く強い地上を意味する。


 蒼葉(あおは)。蒼き葉は、生命の樹(セフィロト)の葉であり、自分の位を表す。そして、位……階級を上にすることを意味する。


 蒼刃(あおば)。蒼き刃は、最強の力の証。鋭く重く強い剛力(ごうりき)を意味する。


 これら《蒼》に輝く《七つ》の力場は、《蒼天の血潮(ブルー・ブラッド)》……蒼き血潮を継ぐ者たちの魂の叫びを体現する。


――ブオッ!


 まるで、体からオーラが漏れ出るかのように、蒼い何かが噴き出した。それは【蒼き力場】だった。


「な、何だ、これは?!」


 攻撃しようとしていた真呼十(まこと)の動きが止まった。それは、俺の周囲から沸き起こる【蒼き力場】のせいだろう。そう、これが「殻」だったのだ。


「な、何なんだ、お前は!髪も、目も、全て色が……?!」


 髪、目?俺は、疑問に思ったが、押し倒したままだった律姫ちゃんの瞳に映る自分を見て納得する。

 髪も、眼も、どちらも鮮やかな蒼色に染まっているのだ。


「気をつけろよ?それと、暗殺ってのは失敗したら逃げるのがセオリーだぜ。それを破ったお前は馬鹿だ」


 そう、逃げていればよかった。それならまだ、俺が殻を破る前に逃げ切れたのだ。だが、逃げなかった。慢心から俺たちの前に姿をさらしたのがコイツの失態だ。


「そして、殺そうとしたからには、殺される覚悟はあるよな」


 そう、「撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ」と言う言葉がある。これは、元々、有名なアメリカの小説家レイモンド・チャンドラー氏のフィリップ・マーロウを主人公とする長編小説の1作目「大いなる眠り」にて主人公のマーロウが発した台詞を日本語で意訳したものだ。


 俺はその言葉を借りて、今の言葉を真呼十(まこと)に放った。


「ぐっ、だが、ただ、蒼色になったところでっ!」


 俺は、なんとなく、この力の操作方法が分かったのだ。自然と、体に馴染むように使い方が理解できる。


 真呼十(まこと)の眼前に【蒼き力場】を展開させる。そして、そこへとショートワープする。【力場】から【力場】への短距離転移(ショートワープ)は簡単だ。しかし、見える範囲内で、しかも【力場】を構築する余力がない限り不可能だがな。


「なっ……!」


 俺が目の前に現れたことで真呼十(まこと)が驚嘆の声を発した。だが、その程度でいちいち驚くなよ。暗殺しにきたんだろ?


「《帝釈天の光雷槍(インドラ・ヴァジュラ)》!《破壊神の三又槍(シヴァ・トリシューラ)》!」


 2つの槍を呼び出し、至近距離で真呼十(まこと)の生み出していた黒い球体にぶつけ爆散させた。


「《破壊神の煌々矢(シヴァ・ピナカ)》!」


 さらに短距離転移で真呼十(まこと)からの距離をとって《破壊神の煌々矢(シヴァ・ピナカ)》に光の矢を番い放つ。


――ヒュン!


 文字通り光速で飛翔する矢が真呼十(まこと)の左肩を射抜いた。さらに、畳み掛けるように、手に《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》を呼び出す。

 俺の全身と同じように、蒼い輝きを纏う《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》。緋色の巻き布も鮮やかな紫へと染め上がっていた。


「ま、まだだ!《暗黒の球体ダーカー・ブラックホール》!!」


 余力がないのか時間がないのか、球体は1つだけだった。しかし、その球体は、俺が《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》を持つのとは逆の方向から迫る。切り落とす時間もない。


「《神王の雷霆(ゼウス・ケラウノス)》!」


 とっさに雷の防壁を築く。敵の攻撃の軽減とカウンターアタックと天罰、これらが行われる《神王の雷霆(ゼウス・ケラウノス)》だ。俺の周りには自動で雷が取り巻いている。雷も蒼みを帯びて帯電している。


 球体の攻撃を緩和し、カウンターアタックで球体を破壊する。そして、さらに天罰の雷が真呼十(まこと)を直撃する。


「ぐがっ……」


 雷が通ったことで痺れて崩れ落ちる真呼十(まこと)。そして、倒れ伏せる真呼十(まこと)の首筋に《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》を突きつける。


「これで、俺の勝ちだ」


 そう、俺は、油断した。


――パスッ


 俺の腰の下当たりに一本の針が刺さっていた。丁度ズボンのポケットの位置だ。まさか、と思い真呼十(まこと)を見やる。すると真呼十(まこと)は笑っていた。


「はっ、油断したな。その針は、刺さると毒を噴き出す仕組みになっている……」


 なんてことだ、毒針か……。まいった……、まいったぜ……


「チッ、最後の最後に油断したぜ……」


 と、俺はそう言ってから、笑った。


「なーんてな。あーあ、今回ばっかりは姉さんに救われたぜ」


 そういいながら笑ったのだった。そう、何のことはない。姉さんへの弁償と言う500円玉が毒針を防いでいたのだ。あ~、ポケットに入れといてよかった。


「な、何で……」


 真呼十(まこと)は驚愕の表情を浮かべたまま気を失った。ほんと、姉さんには頭が上がらないよ。

 クリスマス用に特別企画を考えてたんだけれど、間に合いそうにないので、正月になりそうなんよね。

 いや、去年のクリスマスについて書いたのに何故に正月……とかいう感じになりそうですが……。

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