90話:冥院寺家SIDE.GOD
冥院寺家執事の帝がフェラーリを運転しながら俺に冥院寺家について教えてくれた。それによると、今の冥院寺家は、明津灘と非常に似た状況にあるらしい。いや、状況としては、もっと酷い状況だ。
明津灘家は、長男が《古具》を持って生まれた上に、烏ヶ崎と言うよく分からんが凄い家の人を妻に貰っている。長女は魔法少女な上に《古具》使いの夫を貰っている。そして、次女は《古具》使いの上に《古具》使いの婚約者が決定……て、まあ、その婚約者は俺なんだが。
一方の冥院寺家はと言うと、長女、次女共に《古具》を持って生まれず、長女は地元京都を含む関西圏での《古具》使い捜し、次女は関東圏での《古具》使い捜し。その結果、ようやく姉妹揃って、ふさわしい相手を見つけたそうだ。
長女が姫穿で、次女が律姫ちゃんだ。なお、長女の連れて来た人物は、いろんな意味で手のつけようがない、とは帝談。
「と、そんな感じです」
帝が一通り教えてくれた。俺は、その情報を統合した結果、あれ、俺行く必要ないんじゃねぇ?と言う結論に至ったんだが、まあ、約束だし。
「ちなみに、冥院寺家は、別にクリスマスもありますし、結婚式もウェディングドレスを着て結婚式場でやるんです。他のお堅い司中八家とは全然違いますね」
なるほど、そういえば明津灘とかは、純和風でクリスマスとかそういう西洋風なイベントはなさそうだったよな。そのくせ魔法少女とかいたけど。
「へぇ、そうなのか。まあ、今時どこも西洋文化を取り入れているからな。時代に取り残されないためには、そうしていくのが正解だよな」
俺はそう言ったが、しかし、帝は肩をすくめた。しっかり運転しろ女執事。律姫ちゃんが説明を入れる。
「いえ、祖父が西洋かぶれでして、無駄に西洋文化に染まっただけですよ。何でも久那さん……、母の影響を多大に受けたとか何とか。母は、フランス出身アメリカ育ちでしたから……。それも日本人とのハーフで。今は冥院寺久那と名乗っていますが、かつては久那・フレール=ヴィスカンテと名乗っていました」
ヴィスカンテ?いや、気のせいか……。レル・フレール=ヴィスカンテと言う知人がいたが、無関係だろうな。いや、無関係であってほしい。正直あんな化け物とはもう二度と関わりたくないからな。なお、前世の話である。
「一応聞くが、その久那と言う人物の知人にレル・レルール=ヴィスカンテと言う人物はいないよな?」
俺は念のために聞いた。大丈夫だろう、大丈夫のはず、大丈夫に違いない!
「えと、それが、母のことはあまり知らないんです」
そういえば、「久那さん」と呼んでいたか?なるほど、あまり関係が濃くないのか?しかし、そうなると本人にはあまり会いたくないんだが。
「もうじきつきます」
帝がそう言った。なお、帝は、19歳らしい。俺とあまりないので、帝と呼ぶことにしている。本人は矛弥でもいいと言っていたがな。
冥院寺家は、明津灘に比べれば大きな家ではない。ただし、敷地面積としては、である。明津灘が平屋であるのに対し、冥院寺は3階建ての洋風の物である。祖父がこの家を新たに建てたそうだ。洋館と言えばいいのだろうか?
「あら、来たわね」
そう言って、俺たちを出迎えたのは、俺と同じか少し上くらいの女性だった。彼女は誰だろうか、と律姫ちゃんに目で訴えるが、律姫ちゃんが答える前に女性が名乗る。
「はじめまして、冥院寺姫穿よ。青葉紳司君」
っ?!何で、俺の名前を?俺は、俺の名前を教えたのかどうか律姫ちゃんに目で聞くが、律姫ちゃんは首を横に振った。
「ああ、やっぱり、青葉紳司君なのね。了解。あの人、嘘は言っていなかったみたいやわ」
あの人……?誰のことだ?その人が俺の名前を教えたってことだろう。俺が律姫ちゃんちに行くことは誰にも話していないはずだぞ?
「はい、500円や。青葉暗音さんに渡しといて。ウチの馬鹿がアイス落としたんでその弁償金」
姉さんかっ!なるほど、姉さんならなんとなく知っていても不思議ではない。不知火と言うバックもいることだしな。
「はぁ、渡しておきます」
俺は500円玉を受け取ると、ポケットに入れた。そして、俺は、姫穿の案内の元、冥院寺家へと足を踏み入れる。
なお、念のために言うなら、【神刀・桜砕】は部屋に置いてきている。持って行くと静巴に怪しまれそうだし、物騒なことにならない限り邪魔だし、持って行くといかにも好戦的だと思われかねないからな。
しばらく歩いて、家の中に入ってもそのまましばらく歩く。なお、靴のままでよいとのことだったので靴のままだ。
姫穿の後をついていくこと10分ほどで、大きな扉の部屋についた。ここに人がそろっているんだろうか?てか、こういうときに先導するのは帝の仕事じゃないのか?
重厚な扉が開いた。すると、そこは大きな長机のある食堂だった。よく漫画とかに出てきそうなものだ。そして、その長机の一番奥、上座に50代くらいの男が座っていた。
「よく来たな。お前が、律姫の選んだ男か」
男はそう言った。おそらく律姫ちゃんの父親だろう。しかし、それ以前に、その後ろに控えている女性に目がいった。おそらく、彼女が帝や律姫ちゃんの言っていた冥院寺久那だ。
「なるほど、ヴィスカンテ王妃の血族は健在ということか」
俺の呟くような言葉に、律姫ちゃんはよく分からなさそうにしていたが、絶対に聞こえないはずの位置にいる久那さんはピクリと反応した。
「どうかしたか、久那」
律姫ちゃんの父親が久那さんの様子に気づいて声をかけた。久那さんは激しく動揺していたし、俺にもそれが見て取れた。
「いえ……、しかし、あのことを知っているなんて……。すみませんが、1つよろしいでしょうか?」
チラリと律姫ちゃんの父親の方を見てから、俺の方を見て聞いた。どうやら、やっぱり聞こえていたみたいだ。
「貴方の名前を教えていただけませんか?」
なるほど、俺の素性を探りにきたわけか?全く持って、京都では俺の過去といたるところで遭遇するもんだ。
「青葉紳司。……ヴィスカンテに謙譲した【王刀・火喰】を打った六花信司と言ったほうが分かりやすいでしょうか?」
一応敬語を使った。しかし、まあ、色々と縁のあるもんだ。やはり有名な家には有名人が集うってか、異能は異能を呼び寄せるというか。
「シンジ・リッカ?アルレリアスにいた六花家の直系で天才鍛冶師ですか」
ああ、まあ、おおよそその説明でもあってるんだが。しかし、アルレリアスに関しては、あまり触れたくないんだが。
「しかし、まあ、奇妙な縁もあるものですね。初代王レル・フレール=ヴィスカンテの友人に嫁ぎ先で出会うのですから」
友人って……。あんな化け物、友人であって溜まるか。あれとの関係は知人止まりだ。最強の勇者レル・フレール=ヴィスカンテには敬意を表したいがな。
「まあ、ようは転生体なので別人ではありますがね。しかし、貴方は、レルともヴェノーチェ王妃にも似た美しい方ですね。律姫さんが美人なのにも納得いたしました」
ヴェノーチェ・ヴァンデム。誇り高き人で、何人たりともその体に触れることを許さなかったのに、彼女の父を殺したレルの父の最期を偶然にも看取って、レルを育てたことから親愛を深め婚約に至ったという。
なお、律姫ちゃんを「さん」付けで呼んだのは、敬語だし、一応流れに乗ってであって深い意味はない。ちなみに、美人といわれた律姫ちゃんは頬を真っ赤に染めて、希望に満ち溢れた目でこっちを見ていた。そんなにうれしかったのか?
ついでにこちらを睨んでいた姫穿にも微笑みを向けて言う。
「ああ、姫穿さんもお綺麗ですよ」
まるで、ついでみたいな物言いになってしまったが、彼女も充分に美人である。跳ねる様なカールの茶髪と大人っぽい顔立ち。律姫ちゃんより年上と会って、律姫ちゃんと比べると体付きはグラマラスだ。
「ついでみたいに言われても嬉しくないわよ。てか、うちの馬鹿はどこにいますか?」
うちの馬鹿、と言うのが、彼女の選んだ人物なのだろう。どんな人物なのかは分からないが、馬鹿と呼ばれているのか……。
「真柴さんならどこかに行かれましたけど?」
真柴と言うらしい。どんな人物なのだろうか?俺は気になって律姫ちゃんを見るが、律姫ちゃんも会ったことがないらしい。
「あ~、なんや、見たことあらへん人がおるなぁ~。どうも~、真柴丹月でーす」
アホっぽいのが来た。うん、ゴメン、こればっかりは俺にも擁護できないわ。おそらく馬鹿だろう。間違いない。
「ふむ、揃ったな。では、話を始めようか。っと、その前に、君等の《古具》を見せて欲しい」
ふむ、まあ、《古具》を見せるのか。確か家の特色が【殲滅】だったな。だったら、それに近い系統の《古具》を呼び出すのがいいか。
「《光主の暴虐》」
丹月が手をかざした。その瞬間、眩い光が部屋いっぱいに満ち、部屋の中心に光の雨が降った。
なるほど、あれが丹月の《古具》か。「Tyrant. Lightning」。直訳で「暴君・稲妻」だ。しかし、どうやら光を使う《古具》のようだ。しかもさらに広い範囲でも使えると思う。まさに【殲滅】に向いているな。
「《帝釈天の光雷槍》、《破壊神の三又槍》」
俺の手に現れる2種の槍。その槍に、律姫ちゃんの父親は一瞬、怪訝な顔をした。槍は長いとはいえ【殲滅】向きではない、と思ったのだろう。
どこに投げるべきか、思考し、少し見て、どこに投げるか決めた。一応、確認を取ることにする。
「少し家が壊れますが構いませんか?」
俺の問いかけに律姫ちゃんの父親は頷いた。へぇ、いいのか。ならやっちまおう。ご近所の皆さん、眩い光と騒音によるご迷惑をおかけしますが勘弁してください。
「《降雷光雷》」
――ドォオン!
眩い光と共に雷が迸り、長い食堂の壁一帯を大きく破壊する。そして、さらに、《破壊神の三又槍》を破壊した壁の外へ思いっきり投げる。
――バァアアン!ガシャァン!
地面に落ちた瞬間、周囲を大きく破壊し、その余波で、窓ガラスが次々に吹き飛んだ。ふぅ、流石だな。威力を抑えてこれか。




