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《神》の古具使い  作者: 桃姫
古具編 SIDE.GOD
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09話:古具の考察

「アーティファクトと言うと、古代の遺物の中でも人の手が加わっているもの。そん中でも技術力が高くて、その時代では到底作れないものがオーパーツと呼ばれている。今では転じて魔法道具のことを指すこともある、みたいな意味合いでしたよね。一般的には」


 俺の言葉に、秋世が半眼でジトっと見つめてきた。なんだ、その意味ありげな視線は。お前が知識を目当てに誘ったんだろうが。


「出たわ、歩く図書館三世」


 何だよ、歩く図書館って……。


「まあ、それが一般的なアーティファクトに対する説明よね。でも、私達の間では、昔から存在する宝具と言う意味で《古具》、《アーティファクト》と呼んでいるの」


 なるほど、母さんや父さんもそれを持っていたんだろうな。もしくは知っていた。じゃないと母さんはいえないよな。


「たとえば私の《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》や静巴さんの《紅天の蒼翼ヘブンズ・パラドックス》ね」


 ……、なるほど、そう言うことか。これが、夢へとつながった。ヘブンは天だ。つまり静巴が天使を意味するのか。なら、もしかしてだが、逢う、抱く、この二つの条件からして……。


「では、市原先輩は、『退魔の古具』を。ファルファム先輩は、『炎の古具』を持っていらっしゃるんですか?」


 ほとんど勘に近かったが、聞いた。その発言にさすがの秋世も目を丸くしていた。だが、もっと驚いているのがユノン先輩とファルファム先輩だ。


「ええ、確かに私は、《破魔の宝刀(ブレイク・ダークネス)》と言う魔を消し去る古具を持ってるけれど……」


「あ、あたしも、《赫哭の赤紅アンリミテッド・レッド》って言う古具だよ~!」


 間違いない。ユノン先輩が「退魔の少女」でファルファム先輩が「赤の少女」だ。


「やっぱり、紳司君も予知系の古具かなんか持ってるんじゃ……?」


 秋世の言葉、だけど違う。これは古具でもなんでもない、夢だ。


「いや、予知じゃないさ。しかし、《古具》、か」


 古の宝具、と言った。俺は、そこに少し疑問を覚えた。古ってどんくらい昔だよ、って思ったのだ。


「《破魔の宝刀(ブレイク・ダークネス)》ってのは分かりやすいけど、《紅天の蒼翼ヘブンズ・パラドックス》ってどんな《古具》なんだ?」


 俺は、考えていることとは違うことを聞いてみた。


「分かんないのよねぇ~」


 秋世が半ば諦めていたのだろう、投げやりな返答をした。


「父さんは、紅は【意思を統率せし紅の翼(スローネ)】のルージュ、蒼は【蒼き剣嵐(エクシア)】のソウジ、いや、違う、とか言ってたけど」


「超高域ねっ!」


 母さんと同じことを言った秋世。どうやら、母さんや父さんと秋世はある程度知識の共有をしているらしい。


「ちょう……?何よ、それ?」


 ユノン先輩は知らないらしい。ファルファム先輩も知らない、と言う顔をしているし、静巴も知らないみたいだ。


「あ~、紳司君はお父さんの相棒のこと、どれくらい聞いてる?」


 相棒?そういえば、母さんが時々口走るけど、しかし、誰かは聞いたことないな。


「聞いてねぇよ、何も」


「ちょっと……、何か私への対応がどんどん酷くなってない?」


 秋世のそんな声を無視しようとしたらポケットの中で震えを感じた。おそらくスマートフォンの着信を知らせるバイブレーション機能だろう。


「あっ、静巴、悪い。ユノン先輩もファルファム先輩もすみません。電話みたいなんで少し席を外します」


 無論、秋世には一言も声をかけない。かける必要がないからだ。俺は、応接室の方に足を向け、ソファに腰をかけながらスマートフォンを取り出した。


「ん?姉さんか?」


 俺は、小声で呟きながら電話に出た。


「もしもし?何だよ、こんな時間に。部活に出てるんじゃなかったのか?」


 俺は、姉さんに少しイラついた態度で話したが、それは、ユノン先輩やファルファム先輩、静巴と言った美少女を観賞(かんしょう)している最中だったからだ。


『あ、もしもし紳司?今面白い話を聞いちゃったからあんたにも教えてあげよと思ってねっ』


 面白い話?はて、姉さんが興味を持つような面白い話とはなんだろうか。姉さんが興味津々になったと言うことは、かなり謎めいたものである可能性が高い。


「ふむ、興味深い。話してくれ」


 俺は、せっつくように話に食いついた。姉さんは、その反応を予想していたように嬉々と電話の向こうで話し出す。


『聞いてよ。《古具(アーティファクト)》ってのがあるんだってさ!何でも人智の及ばない力が使えるらしいの!』


 ふむ、《古具》の話だったのか。


「ああ、その話なら年増教師に今聞いた」


「誰が年増よ!」


 俺の電話に対する言葉に対して、作業スペースにいた秋世が大声で怒鳴るようにツッコんだ。地獄耳だ。


「それで、俺の美少女観賞を邪魔したんだ、もっと何か面白い話はないのか?」


「び、びしょっ!」


 なぜかユノン先輩が声を上げた気がしたが、まあいいだろう。俺は、電話の向こうの姉さんの反応を待った。


『あ、そだ。紳司は近々、女と黒衣の男と戦うらしいよ』


 女と黒衣の男?何だその具体的なのか抽象的なのか分からないものは。女ってのはどんな女なんだ?黒衣が文字通り黒い服なのか?


『まっ、その尻拭いはあたしがするらしいんだけどね』


 そんなふうにぼやくが、それは一体どこからの情報だ。まるで予知じゃないか。


「ソースはどこだ?」


 俺の問いに姉さんは、「うひっ」と奇妙な笑いを漏らした。


『《千里の未来(シーン・フューチャー)》。十月(とつき)の《古具》よ。抽象的にだけど未来を予言できるんだって。どういう理論か気になるんだけど、全然わっかんない。

 予知夢とかそういうんじゃなくって、あくまで確定未来しか分からないって条件つきらしいけど、その確定未来が変わることもあるらしいから、そもそも確定未来の定義よね?』


「確定未来ってのは、今、この一刻ごとに変わる未来の中で、予知した瞬間にある流れの未来であって、それが数時間後、いや下手したら数秒後でも変わっている可能性があるってことじゃね?」


 俺は、姉さんに推理を聞かせる。


『な~る。でも、それだと予知してる最中も時間が流れてるわけだから予知してる最中に未来が変わる可能性もあるわけじゃん?その辺は?』


 あ~、なるほど。予知中に変わることもありうるのか。だとしたら、抽象的ってのがポイントか?いや、そもそも、予知している間は、自分の体感では時を感じても実際は時間経過がないとか?


「予知の後、本人の時間経過の感覚はどうなんだ?長い時間予知したはずなのに、全然時間経ってないみたいなことはあんのか?」


『ん~?ちょっと聞いてみる。十月(とつき)~!』


 声が大きくて、向こうでの会話すら聞こえてきそうだ。いや、相手の声は聞こえないんだが。そして20秒位して、姉さんから返事がある。


『普通に経ってるってさ』


「おーけー、りょーかい。たぶん、抽象的にしか予知できないのは、確定未来も変動するから明確なものは無理で不完全な予知になるからだ。だからこそ時が経過する。普通に時間が経過するだけじゃ、激的な未来の急変は起こらない。それこそタイムスリップして妙な変動さえ加えなきゃな」


『親殺しのパラドックスみたいな?』


 親殺しのパラドックスってのは有名な矛盾だ。タイムマシンで過去に行ったAが、自分の親を殺す。すると、親が死んだからAは生まれないわけだ。しかし、Aが生まれなければ親がAに殺されることもない。だからAが生まれる。Aが生まれるからやはり親は殺される。そんな堂々巡り。さて、どうなる。みたいな話な。


「そ。そんなことが起こんなきゃ、そこまで確定未来は変動しねぇってこった」


『つまり過去に影響を与えなきゃさしたる変化はないってこと?』


 しかし、だ。未来予知のシステムと言うのは、一体どういう仕組みなんだろうか。


「なあ、前から疑問に思ってたんだけどさ。未来を予知した時点で、その未来はないじゃん。じゃあ、どうして予知が成り立つんだろうな?」


『あ~、紳司が言いたいのって、未来を予知した時点で、予知した人間の動きは変わってくるわけで、それが些細なバタフライエフェクトになって、少しでも変わるんだから、それは予知したものと違うだろってことよね』


 バタフライエフェクトとは、「アマゾンの蝶の羽ばたきが遠く離れたシカゴに雨を降らせる」などと表現されることがあるもので、僅かな変化が後の大きな変化を齎すことがあると言うものだ。


「そゆこと。いくら予知した方がその通りに動いても、自分の筋肉、無意識の思考、髪の揺れ方から(かゆ)みや(しび)れの感覚まで、全く同じにすることは不可能なんだからさ。そして、もし、それが寸分たがわないのだとしたら」


『予知した未来ってのは、予知をしたと言う前提で動いている自分を予知していることになるのよね?』


 姉さんに先に言われてしまったが、その通りだ。


「もし、その自分とは違う自分なのだとしたら、予知ってのは何を見ているんだ?起こりうる未来予測か?」


『それは違うわよ。いくつか可能性は考えられるわね……。でもまあ、2つか3つが有力なのになってくるわよね?』


 姉さんの言っていることは分かった。俺も同じことを考えていたからだ。


『まず、未来予知で見る自分が予知していないことが前提だった場合を考えて、予知した時点で、予知しなかった場合の5分後と10分後を見るじゃない。すると5分後のあたしはコケて膝を擦りむいた。10分後には擦りむいた膝に絆創膏を貼ってたとするわ。


 じゃあ、予知したことでその未来が消え、5分後に転ばなかったとするわよ。そうなると、さっき見た10分後ってのは存在しないわけじゃない?どっから来たの?って言いたいんでしょ?


 この場合例えば、転ばなかったとして、もう一回予知をすると5分後からさらに5分後、つまりさっき予知した10分後にあたる時間であたしは、何をしているのか。


 結局絆創膏を貼っているのか、それとも別のことをしているのか。


 絆創膏を貼っていれば、それはつまり歴史の修正力……この場合、その出来事はどうやっても起きる。すなわちその時間までにあたしは必ず膝を擦りむくことになる。


 別のことをしていたら、あたしは未来を変えたことになる。つまり未来を変えられるてことね』


 Aと言う時の流れで、ある地点Xで5分後と10分後を見たとき、Xから先の時間は消え新たに構築されるのが後者。消えずに無理やり同じ結果にするのが前者ってことになるわけだ。つまり前者は、常に縦に1つの未来がある。後者は縦に分岐し続けている未来の中の1つに自分がいて、予知はその分岐した未来の中のもっとも現状にあったものを選び見ているという解釈だ。


「あとは、あれだな。常に複数の並行世界があり、予知をしないAと言う世界もあれば、Aと言う世界の未来を予知して動くBと言う世界もある、みたいな」


『それはあれだよね。親殺しのパラドックスの否定論みたいなやつよね。


 親殺しのパラドックスは、世界が縦に1つならば、過去に戻って親を殺した時点で生まれず、戻って殺すことが出来ないんだから生まれるから過去に戻って、の延々ループし続けるやつ。それが起こりうるからタイムスリップは不可能だ、と言う証明になってるよってね。


 でも、今言ったみたいに並行世界あるならば、自分がタイムスリップしたのは、今居たAではなくBの過去であり、Bの世界で親を殺してもAの世界には何の変動も与えないのだからBの世界では自分は生まれないが、Aの世界は変わらないので自分が生まれないことはなく、自分が存在するまま時間が流れていく。Bは、自分が生まれないままただ時間は流れていく』


 単純に人間などでたとえなくても、Aの世界の人間がBの世界にタイムスリップして世界を滅ぼしてもAの世界は変わらずあり続ける、ということだ。


「歴史は変動しないってのも言われているよな。それこそ歴史の修正力ってやつさ。例えば、タイムスリップして親を殺しても殺されなかったことになる、とか、絶対に殺すことが出来ない、とかってやつな」


 他にもこう言った矛盾は数多存在する。

 例えば自分殺しのパラドックス。過去に戻って自分を殺すが、殺したら自分はその時点でいないので、殺しに来れない。つまり殺せないのだから自分は生き続けて、殺しに来る。親殺しと同じ矛盾が生まれる。


 他にも完全な矛盾ではないが矛盾のようなものはいくつでもある。


 例えば、未来に行って自分を殺すとしよう。そうすると、未来のどの時点で、俺は俺に殺されることが分かった。じゃあ、どこでどうやって殺されるかは殺したんだから知っているだろう。例えば、過去の俺が絶対に行けない場所に逃げると、俺は殺せない。その時点で、俺を殺したという事実はないから俺はどこで俺に殺されるかを知らなかったことになる。すると今の自分の過去=過去の自分ではないことになる。


 この場合、俺がどうやっても歴史の修正力とやらで俺に殺されるのか、もしくは、俺以外の誰か、もしくは事故でも何でもいいから死ぬのか、死なないということもあるのか。結果は数多想像できる。ただ、どうやってもその時点で自分の知っていた未来と異なることになる。同じもののはずなのに「≠」なのだ。


 他にも、未来から自分の娘がやってきて俺と誰が結婚するかを言う。その結果、俺と誰かが結婚しないとしよう。そうすると娘は生まれず、結婚するという事実を教えられなかったことになる。すると、俺と誰かは結婚していないはずがない。しかし、結婚すると娘が生まれて、過去に来て俺と誰かが結婚することを教えて、俺と誰かが結婚しなくなる。これも親殺しのパラドックスと同じだ。


 あとは、未来からやってきた娘と結婚したらどうなるか、なんてのもある。娘と結婚すれば、当然娘は生まれないのだから結婚できない。結婚できないのだから娘がいるはずもない。しかし、娘がいるのだから本来結婚していた相手と結婚をすることになる。そして、娘が生まれる。娘は存在するのだから娘と結婚できる。おかしい。


 と、いくつでも似たような話は作れる。


『で、まあ、結論に戻るわけだけど、予知で見ているのは、実際に起こるはずで予知したことで書き換えられる前の未来なのか、並行世界の自分の未来なのか、と言う話ね』


 おっと、話が逸れていたらしいな。


「ああ、そういうことだ」


『ふうん、どっちなんだろう。いや、どっちでもないって可能性もあるしね。まっ、あたしなりに考えてみるわ。じゃ、あっ、あと母さんが晩御飯は夜9時くらいになるけどみんな遅いからいいわよねって言ってたわよ』


 そっか、今日は姉さんも母さんも遅いのか。俺もこの感じだと、8時は過ぎそうだしな。


「まっ、いいんじゃね?俺は8時過ぎそうだしな」


『あたしも8時過ぎっぽい。あっ、じゃね』


 姉さんが電話を切った。俺は、スマートフォンをポケットにしまい作業スペースに戻る。

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