86話:自由行動SIDE.D
さて、あたし、青葉暗音の所属する鷹之町第二高等学校は、2日目に班別自由行動と言う1班4人で行動するのがあるのよ。もちろん、何度か言っている気がするけど、あたしは、はやて、鷹月、友則と一緒の班になっているわ。移動は、徒歩かバスと決められているから、割かし面倒よね。一応、タクシーは使用禁止ってなってるわ。学生らしくバスなどの公共の交通機関を利用しろってね。いえ、タクシーが公共交通機関に入るかどうかは微妙なところだから、電車やバスなどの公共交通機関(タクシーを除く)を利用しろってことね。
さて、あたし達が行くのは清水寺よ。
清水寺……音羽山清水寺だったかしら?「清水の舞台から飛び降りる気持ちで」とか言うときの清水の舞台があるのが、その清水寺よ。
何で舞台があるのかってのは、まあ、色々と説明が面倒になるんだけど……。清水寺の本尊は千手観音なのよ。それで、観音様がいる場所を補陀落っていうインドの遥か南にある八角の形状をした切り立った山だって言われてるの。それが日本に伝わってくると山岳信仰……山の神の信仰とも結びついて、険しい山や崖が補陀落に見立てられて、そこに千手観音を信仰する寺を建ててたのよ。
その寺は、崖に立てるわけだから、普通の建て方は出来ないわよね?そこで「懸造」って言う建て方で建てるのよ。まあ、その「懸造」ってのは別名「崖造」や「舞台造」って言うの。建物を長い柱で地面に固定する建築方法ね。イメージとしてはログハウスって言ったら分かりやすいかしら?ログハウスの木が柱ってこと。
まあ、そんな風に造る特性上、柱の上に乗せる部分を考えて大きな出っ張りが出来てしまったところを舞台にしたって説があったはずよね?
まあ、そういうわけで舞台があるのよ。まあ、そこから、観音様に舞を奉納するってことで舞うみたいに発展してったとかどうとか。
と、簡単な説明はこのくらいにしておきましょうか?まだ色々あるけど、それは実地に言ってからってことで。
と、まあ、そういうことで、バスに乗って清水寺まで来たわ。清水寺の前にある三年坂や清水坂は帰りに寄る予定よ。
「さて、これが清水の舞台ね」
あたし達は、清水の舞台からの光景に圧倒された。そこそこ高いわね、やっぱり。
「うわ~、落ちたら死ぬな、これ」
友則がそんな風に言う。でも確か、……
「江戸時代に実際に234件の飛び降りが確認されたけど、生存率85%くらいよ?下が石とか岩ならともかく草とか木だから」
と、あたしが覚えていることを言うわ。確かそんな記録が残っていたわよね?
「え、割りと生存率高いですね」
鷹月も目を丸くしていたわ。まあ、何か死にそうだものね、ここから飛び降りたら……。でも、まあ、どのくらい信頼できるのか分からない情報だし。
「見て見て、大吉ぃ~」
はやてがおみくじを見せてくるわ。まあ、この手のおみくじってどこにでもあるわよね。おそらく京都の観光地の大半に置いてあると思うわ。
「へぇ、よかったじゃない。そんで、これからどうすんのよ?」
あたしはみんなに問いかける。いえ、だって、もう清水の舞台見たし、特にこれと言って……。
「う~ん、そうだなぁ……、暗音ちゃん、どこか清水寺で。舞台以外に名所はないの?」
は?名所っつってもねぇ……、ここ以外だったら2箇所くらいかしら、有名なところと言えばね。
「音羽の滝と仁王門くらいしかないわよ?」
あたしがそう言っても、皆きょとんとしていたわ?え、知らないの?
「仁王門ってのはまあ、想像つくが、音羽の滝ってなんだ?普通に滝か?」
友則の言葉に、あたしは溜息をつく。マジで言ってんのかしら?普通に知ってるレベルのことだと思うんだけど?
「音羽の滝ってのは、3つに分かれて落ちてくる滝のどれか1つを柄杓ですくって飲むと、その滝に対応した祈願ができるってのよ」
この清水の舞台からも場所によっては見える。一旦、ここを出て、階段を下っていけばすぐにある。時間帯によっては修学旅行生で混むから早い目にやらないと時間待ちすることになるのよ。
「対応したってどんなことに対応しているんですか?」
何で鷹月まであたしに聞いてくるのよ。
「延命長寿、学業大成、恋愛成就の3つよ」
右から健康、学業、縁結び、となっているわよ。
「へぇ、そんなのがあるんだぁ」
あんたら知らなかったのね!
「ちなみに飲むのは一口ね。二口飲むと半減、三口飲むと3分の1になるわよ」
とりあえず知っていることだけを教えていくわ。
まあ、何やかんやで音羽の滝から仁王門と行って、店が並ぶ坂道に着たわ。店だらけよ?ホント、右も左も。
あ~、買い物ってのはだるいわね……。はやてを鷹月と友則に押し付けて、あたしは1人、坂を下りきったところにある駐車場のところにあるトイレで用を足して、ソフトクリームを買い、ベンチで食べながら過ごすわ。
あ~、このまったりとした空間で、濃厚なミルクの激甘な味が溜まらんわね。まあ、この辺、排気ガス臭いけど……。
「丹月、はしゃぎすぎよ?」
あたしの座っているベンチの近くで、そんな声がしたわ。女の声ね。どうやら、男女のリア充カップルらしいわね。
「せやかて、京都ん方なんてあまりこーへんから」
ドン。べチャ。
男がぶつかってきて、あたしはアイスを落としたわ。等価交換で首を落としてもいいかしら?
「あっ!すんまへん。大丈夫でっか?」
ウザイので殺しても大丈夫かしら?
「だから言ったでしょ、はしゃぎすぎって」
だから言ったでしょじゃないわよ!あぁん?とっとと弁償してほしいんだけど、それが出来ないなら死ね。
「あ、俺、真柴丹月って言うんや。よろしゅー」
何なの、この男。
「こら、変に京都弁使おうとせんといて。あっ、私が弁償します。冥院寺姫穿です」
言葉の端々に妙なアクセントがあって、関西の人間だってことはよく分かったわ。それにしても彼女に金を払わせるとか最低の男ね。死ねばいいのに。
「んあ?冥院寺?……、ああ、じゃあ、貴方が冥院寺の長女ね」
長女と次女が婚約者を見つけたとかどうとかって不知火が言ってたわね。てことは、この男が……。
「な、何で知ってるんよ?」
妙にたどたどしいわね。って、そんなことはどうでもいいわよ。
「貴方、男の趣味悪すぎね。もうちょいマシなのいなかったの?」
流石にこんなふざけた男を夫に迎える奴の気が知れないわ。大丈夫かしら、この姫穿って子。
「あ、あんさんに男の趣味をとやかく言われる筋合いはありまへん。そ、それに律姫もどうせ、ろくなの連れてきまへんよ」
律姫ねぇ……。やっぱ、そうなのね。はぁ、てことは面倒ながらも、結局、紳司は……。
「人の弟をろくでなし呼ばわりとはいい度胸じゃないのよ」
あたしはそう言った。だって、どう考えても、律姫って子の婚約者ってのは紳司っぽいのよねぇ。
「え、あんさんの弟やて?」
この姫穿って子も充分変な子ね。
「ええ、あたしは青葉暗音。貴方の妹の律姫ちゃんが選んだ青葉紳司の姉よ」
そう名乗る。すると姫穿は、はてなを頭に浮かべていた。
「あ、そっか、まだ会ってないのね?まあ、名前は青葉紳司よ。本人に会ったら確認してみなさいな」
あたしがそう言うと、姫穿は頷いたわ。
「ええ、今夜確認させてもらいますけど」
へぇ、今夜会うのね。
「あっと、もう行かなきゃあきまへん。アイスの代金は、弟さんに預けておきますんで、今度貰ってください」
え、今返すんじゃないの?!
「ほら、行くわよ、丹月」
2人は言ってしまったわ。




