84話:奇襲SIDE.GOD
【神刀・桜砕】の透き通るような煌く桜色が人気のない駐車場にて解放された。俺は、神経を尖らせ、全てを感知できるように意識を周囲に集中する。また、《守りは命》を使っているんだろう。俺の眼にノイズが走る。
「あそこか……」
俺は、ひとまず結界を破壊するために、目印となる丸を囲むように多重の四角形が並ぶチョークで描かれた図を攻撃する。
「まずは、起点を潰す」
おそらく6ヶ所にある図を潰すことに専念しようとするが、気配が迫るのを感じる。俺は、守りの態勢に入る。
――キィン!
【神刀・桜砕】の刀身に、何かがぶつかった。ノイズを生じさせながら攻撃をしてくる敵に、俺はどうにか対応する。
「っ、青葉君、上です!」
静巴が叫ぶ。上かっ。咄嗟に鞘を上に突く。しかし、当たった感覚はない。避けられたか……。
鞘を捨てて、手を振り払う。
――むにゅ
……あっれぇ?
この感触、どこかで感じたことがあるような。何回めだろうなぁ……。あぁ……、もう、まちがいなく、おっぱいじゃん。
「……、いや、すまん」
もう、これだけの回数やっていると慣れてくるもので、サッと手を離して囁く。そして、カノンちゃんがわなわなしながら固まっている状態で現れた。
「……ふ、不潔!」
ごふっ、カノンちゃんの膝蹴りが腹にクリーンヒット。めちゃくちゃ痛い……。
「な、なな、何なのよ!毎回毎回、あんたはもう!」
いや、ホントね、俺も知りたいよ。俺の手には、見えない相手でもおっぱいを自動的に感知して揉む能力でも備わってるんじゃないかって思うくらいの命中率だよ。
「い、いや、ねぇ、俺も不思議に思ってるよ?宴といい君といい、何で毎回見えないのに的確にあの部位に手が行くのか」
再びカノンちゃんから蹴りが飛んでくるが、それを転がり避ける。結構な勢いで踏みつけてきたよ?当たったら結構やばかったって。いや、まあ、当たっても……我々の業界ではご褒美です!って状態なんだがな。
「それは、あんたが天性の変態だからよっ!」
さらに踏みつける攻撃!俺は、再び転がり避け、その勢いで立ち上がる。カノンちゃんは何がしたいのだろうか?
「ねー、紳司君ー。そっちでじゃれあってるならアイス買ってきていい?暇なんだけど」
秋世がそう声をかけてくる。じゃれあってねぇよ?!
「こっち戦ってんの!じゃれあってねぇから!」
秋世に怒鳴る。しかし静巴が、「ふーん」とも「へー」ともとれる妙な声を出してから言った。
「いや、だって、ぶっちゃけ《古具》使わないとか、舐めプしてるじゃないですかー」
舐めプとは舐めたプレイの略称である。いや、女の子を舐めまくるプレイじゃなくて、相手を舐めて手を抜いたプレイをすることな。
「いや、してないよ?これガチバトル。てか、秋世、お前も戦え!普段何もしないんだから!」
秋世はもうタクシーとしてしか役に立ってないじゃないか!ええい、もう、面倒な!しかたない、舐めプって言うなら《古具》を使ってやろうじゃないか!
「……って、俺、《古具》持ってないじゃないですか、ヤダー」
危ない、秋世の前で《古具》使うところだった……。てか静巴、誰にも教えるな的なことを俺、言わなかったっけ?
「あ、まだその設定続けてたんですねー」
何か静巴が棒読みな上に、俺のことを雑に扱っていらっしゃるんですが、何故ですか?!何がそんなに気に食わなかったんですか!
「何をグダグダやってるのよ。てか、あんたこないだ弓……」
カノンちゃんが何か言い出したが、途中で止まっているのは俺が口を塞いだためである。そして、カノンちゃんに囁く。
「いいから持ってないの。そういうことなの。分かったか?もし分からないって言ったら胸揉みしだくぞ」
もはや脅しである。てか、何もそこまでして秋世に《古具》が使えることを隠匿する必要もないのだが……。
必死にコクコクと頷くカノンちゃんはちょっと涙目だ。可愛い。てか、そんなに胸揉まれたくないのか……。
「……っ」
とりあえず揉んでみた。わなわなと震えている。どうらやかなり怒っているっぽい。怒り心頭に発する、とまでは言わないが……。ちなみに怒り心頭に達すると間違える人が多いけど怒り心頭に発するが正解。
「もがもがっ……んー!」
口を押さえているので上手く喋れない。カノンちゃんが声を出せないのをいいことにさらに揉んでみる。
「むぅーむぅー!」
「痛ぇ!」
カノンちゃんが俺の足を思いっきり踏みつけた。マジ痛い……。思わず手を離してしまった、どっちからも。
「変態!この変態!」
おぅふ、罵ってる。これはこれでいい。我々の業界では……。
「はっ、罵っても喜ぶ変態なんだった!何よ、これ、どうすればいいのよ!」
失礼な、番人に罵られて喜ぶわけではない。可愛い子、綺麗な人に罵られてこそ「悦ぶ」のだ!
「青葉君、変態さんなんですか?」
静巴からの冷たい視線が飛んでくる。秋世は既にソフトクリームを買いに消えていた。て、おい秋世!
「変態じゃないよ?」
一応否定するが、現状証拠だけで充分だよな。相手の口を塞いで胸を揉む男は変態以外の何者でもないだろう。あと、罵られて悦んでいるのも変態だし。
「変態だ」
「変態です」
2人揃って俺にそんな評価を下した。……まあ、変態なんだけどさぁ……。そりゃ、男だしねぇ。
「いいじゃんか、別に。てかカノンちゃん、兄姉はどうした?」
結衣さんと裕太は見当たらないな。結衣さんに会いたかったのに。
「ふふん」
胸を張った。俺は揉んでやろうと手を伸ばすがあっさり避けられてしまった。チッ、避けるなよ。
「危ないわね……。ユイ姉はあんたの姉ちゃんのところに、ユタ兄は不思議な気配の女を追ったわ」
不思議な気配……?女で、不思議な気配を持っているのは……、もしかして、七星佳奈か?!
「おいおい、裕太には悪いこと言わないから引かせたほうがいいぜ」
もし、七星佳奈を追っているなら最悪死ぬかもしれないな。なんたって、聖騎士にして筆頭騎士、ナナホシ=カナだからな。
「はぁ?何言ってんのよ?ユタ兄がやられるはずないでしょ?」
ああ、普通の相手ならな。しかし、こっちサイドで女で不思議な力を持っているのは、静巴、秋世、姉さん、紫炎、桜麻先生を除けば七星佳奈くらいだろう。静巴と秋世はこっちにいるし、姉さんには結衣さんが、桜麻先生は今日は旅館で学生受付を担当している。つまり、七星佳奈だけが空いているのだ。
「まずいんだよ、七星佳奈だけは」
俺はそう言ったが、カノンちゃんは意見を変える気はないようだ。
「ナナホシ=カナは仕掛けてこない限り大丈夫だと思うんだが……。仕掛けられた瞬間、あいつは本気で殺しにくるぞ?」
おそらく、そうだろう。俺を含め、こちらの陣営の中で姉さんに並んで強いはずだ。いや、もしかしたら姉さん以上かも知れない。能力の上限が全く見えないからな。
「……大丈夫、ユタ兄は負けない。それは絶対だから」
そう言って、カノンちゃんは走り去った。俺は、裕太が大丈夫か本格的に心配になってきた。
「青葉君、七星さんも《古具》使いなんですか?」
そういえば、その話は静巴にしたことはなかったな。かいつまんで話すとするか。
「いや、《死古具》使いだ。だが、それ以外にも色々力があるっぽい」
そう、《死古具》のほかにも聖騎士の力がある。それがどんな力があるかは分からないが、おそらく最強だろう。
「強いんですか?」
静巴の質問に俺は一言。
「強い」
そう、強いんだ。
「まあ、殺しはしないだろうから、大丈夫だ……といいな」