83話:自由行動SIDE.GOD
朝、色々あったので、結局のところ、俺と静巴が落ち着いたのは、朝の6時くらいだった。色々の主な原因は秋世にある。現在は8時45分。9時から班別自由行動が始まる。4人1班で京都を巡るものである。
俺は、静巴と秋世が班のメンバーである。分かっていると思うが念のために言っておくと秋世は教師である。普通、教師と生徒が一緒に自由行動する、などと言うことはないのだが、秋世の「一緒にいたほうが何かあったときに便利」と言う言い訳を仕方なしに承認して今に至る。
まあ、ようするに、1人で京都の町に繰り出すのは寂しかったからってだけの話なんだけどな。
自由行動の主な移動手段は徒歩かバス、タクシーとなる。徒歩は距離が限られるので、ほとんどの班がバスかタクシーを利用する。タクシーは移動に利用すると金がかかるが、まあ、三鷹丘学園の生徒なのでタクシー代などはポンと出せるのだが。
一般生徒は、市バス・京都バス一日乗車カードを500円で購入して一日乗り放題するのである。
なお俺たちはタクシーだ。正確には秋世である。一緒に来ることを了承したのだからそれくらいやってくれるだろう。これで、移動費用は浮く。しかも移動時間短縮だ。
なお、班別自由行動が9時からの理由は、金閣寺の開園時間が9時からだから。
金閣寺……、正確には鹿苑寺。金閣と言うのは舎利殿であるとも言われている金箔の貼られた建物のことだ。昔、放火などで焼け、建て直されている。
鹿苑寺の見所は、金閣だけでなく、陸舟の松や夕佳亭など様々ある。移動時間が短縮された分、見て回れる場所が増えたのは嬉しいな。
と、まあ、そういうことで、さっそく《銀朱の時》で、金閣寺近くに転移した俺たちは、受付に行く前に、門を入って右手にある庫裏を見上げた。庫裏ってのは所謂、台所。ここ金閣寺では写経場も付いているけど。庫裏の前には桶とかが積まれている。これは台所では水を使うから火事になったときのためだろう。
で、何で庫裏を見上げたのかと言うと、屋根についている鬼瓦だ。鬼の顔が付いた瓦のことだが、この屋根の鬼瓦は、目が刳り貫いてあって、空が穴越しに見えるようになっているからだ。先を見通せるということで縁起がいいとかどうとか。
次に門を潜って左側にある受付に行く。
「あの、大人3人です」
受付の人にそう言うと、にこやかに対応してくれる。
「大人3人ですと、大人1人400円ですので、1200円になります」
とりあえず、俺が1200円払う。ここで3人が財布を出して400円出すというのも手間だからだ。そのうちここも混みだすはずだから、混む前に金閣のところで写真を撮りたいのだ。
「よし、行くか」
なお、俺たちは現在私服である。俺はいつものジーンズにシャツ着て上に軽く羽織っている程度。
静巴は、白の胸元の少し開いた服に、黒のスカート。シンプルだが気品のある服だと思う。そして、何故か手に持つ長い布に包まれた棒状の物。
秋世は……、何と言うか、50歳とは思えない若い服だ。いや、まあ、見た目は全然若いから違和感はないが……。
受付を通って入ると、すぐに鏡湖池と、そこに反射する金色の建物が見える。鏡のように反射するから鏡湖池。そう呼ばれる池が前面にある金色の建物こそ、金閣である。
金閣は、室町幕府の第三代将軍、足利義満によって造られたことが有名な舎利殿である。鹿苑寺となる前は、北山弟と言う山荘だった。かつては、義満がこの山荘に暮らしていた。
しかし、キラキラと煌いて凄いな。
「これが……金閣、ですか」
静巴が驚いていた。まあ、初めて見たら驚くのも無理はないかな。インパクト強いからな。
「へぇ……、凄いわねぇ」
秋世がそんなふうに言った。いや、秋世くらい年なら金閣くらい見たことあるだろう。まあ、昔は、うちの学園の修学旅行、なかったり、海外だったりしたらしいからな。
「今、年なのに初金閣かよ、とか思わなかった?私アメリカにいた時間が長いから日本の名所はあんまりなのよ」
アメリカね……。そういえば、エリア51に行ったことがあるんだろうか?
「あそこは、本当にだるいわよ。あ~、あれよ、教師やりながら、暇なときは、エリア51で《古具》の軍事利用に関する研究を見て、手伝うのよ」
なるほど軍事利用ね。アメリカは、軍事利用って感じなのか。イギリスは聖王教会が中心に神聖化しているみたいだし、日本は隠匿してる。つまり国によって特色があるってことか。
「って、こんなところで、そんな情緒のない話はやめましょうか。ほら、写真撮りましょ」
そう言って並ばせるが、俺はツッコむ。
「いや、写真撮るなら向こうな」
集合写真を撮る場所、と言うのは金閣の見える位置から2ヶ所ほどある。ってなわけで、そっちに移動して写真を撮る。
集合写真を撮った後、夕佳亭の方へと向かう。道中、右の方に陸舟の松が見える。ほとんどスルーだったが、まあ、ようはただの松だし。
そして、夕佳亭で、軽く見つつ、貴人榻っていう、夕佳亭近くの椅子の形をした椅子に腰をかけたりして時間を過ごした。
その後、階段を降りて、トイレに立ち寄り、中々出てこない女2人を待って、出てきたので金閣寺を後にすることにした。
「じゃあ、こっちが出口か」
出口付近の売店では、お茶や八橋などが売られていた。通りかかかると、売店の人が声をかけてくる。
「ほら、これ、試飲してみんさい」
お茶を小さなコップに入れて、押し付けてくる。仕方なく受け取って、飲んでみる。
「あ、うまい」
俺も静巴も同じ感想だったようだった。ただ、秋世は、渋い顔をしていた。いや、抹茶ぐらいで……。
「ほら、八橋も」
売店の人は、半分に切ってある八橋に爪楊枝を刺して、こっちに渡してくる。受け取って食べてみると……。
「うまい」
「おいしいですね」
「あ、ホントね」
俺と静巴、そして秋世も一緒の意見だったらしい。こっちは秋世も食べれたようだ。てか、ほぼ押し付けるように試食を渡してくるな。
「とりあえず、買っておきましょうか」
秋世は、八橋を買う。それも普通の味からチョコ味、抹茶味など、全てを1箱ずつ買っている。
「買ってくれるのはありがたいけど、持って歩けるのかい?」
売店の人も心配しているじゃねぇか。おいおい、秋世、大丈夫かよ。って、心配するまでもなく、袋を受け取った瞬間消している。おそらく自室に飛ばしているんだろう。
「おぉ、手品かい?」
売店の人は手品だと思っているが……
「おい、人目のあるところで《古具》の使用は控えろよ」
俺は一応、注意しておく。まあ、秋世に注意したって無意味だろうけどな……。
「大丈夫よ、大丈夫」
そう言って、ちゃっちゃと買っていく。豪快だな……。さて、そろそろ、次の場所へ移動するか……。
そう思って、秋世を引っ張っていこうとしたそのとき、声が響く。
『信司様!敵がっ』
その声は、【神刀・桜砕】のものだった。どうやら、本当に敵らしい。俺の方でも気配を捉えた。
「カノンちゃんだな」
気配から誰かを気づいた俺は、秋世と静巴を引っ張って、早々に出口の方へ向かう。そして、なるべく人気のない方向へ行く。
「おい、秋世。敵だぞ!」
軽く走りながら、秋世に言うと、秋世は、慌てて対応する。そして、秋世が聞いてきた。
「敵の数は?」
俺は、もう一度気配を探って確認してから言う。
「1人だ」
そういいながら、俺は、静巴の持っている長い布に包まれた棒状の物をひったくるように借りる。
「あ、青葉君、結局それはなんだったんですか?」
静巴には、何も教えずに持たせていたからな、その反応は当然だろう。だからこそ、布を取り去る。
「行くぜ、【神刀・桜砕】」
煌く桜色の刀身の刀が解放されたのであった。
え~、京都に来たので名所のひとつでも、と思い書いてみました。
鬼瓦は中学の修学旅行のときにタクシーの運転手さんが教えてくれたので……。かなりうろ覚えで、正しい地形かどうかも怪しいですが、もし間違っていた場合は、パラレルワールドの金閣寺だから、とか、未来の金閣寺だから、って考えてください(←適当)