82話:2日目SIDE.D
あ~、何か随分とあたしの出番がなかった気がするけれど、まあ、いつものことだらいいわ。もう、気にしないわよ。
え~と、どこから話せばいいのかしらね?
まあ、昨日は、紳司とシャワーを浴びたあと、鷹月と友則の部屋に行って馬鹿騒ぎをした。馬鹿騒ぎとは具体的に言うと、あたしの全裸ショー……ははやてに止められたので、枕投げをしたのよ。
枕投げは、古今東西修学旅行でする定番の遊びよね。でも、まあ、実際にすることってあんまり……。ぶっちゃけ埃が舞うのと隣から苦情が来るっていう。
えと、そんなことをして、昨日が終わって、今日、修学旅行2日目。あたしは、起きると5時だった。え、起きるの早すぎない?
確か、朝食が7時だからあと2時間は余裕があるわよね。とりあえず、身だしなみを整えましょうか?
洗面所に行って、顔を洗って、寝癖をチェックして、軽く化粧を整えて、と。ざっと20分。大して時間を潰せなかったわね……。
暇、暇、暇すぎんよ。流石に紳司も寝てるでしょうし、特にすることもないのよね……。しゃーないからグラムあたりと話をしますか。
「ちょいグラム」
あたしは窓辺の椅子に腰をかけながら、グラムに呼びかけた。すると、すぐに返事があったわ。
「いいのか、声に出して」
グラムがそう言う。ああ、そういえば忘れてたわね。あたしにしか聞こえないのよね。妙な存在だこと……。
「いいわよ。どうせはやてもしばらく起きてこないでしょうし」
そう言って、あたしはグラムとの会話を続けることにした。
「それで、ちょっと聞きたいんだけどさ、天使ってこの世にいるもんなの?」
父さんの相棒……サンダルフォン。天使よね。だから、もしかしたら天使ってものが存在するんじゃないかって思ったんだけど。
「ああ、存在することには存在するが……。かなりの種類があるな」
種類がある……?それって天使の位階序列ってこと?熾天使とか智天使とかってやつ?
「ああ、いや、階位ってことじゃないぞ?」
確認を取る前に先にグラムに言われてしまった。どうやら、位階序列ではないらしいわね。じゃあ、種類って何よ?
「シンフォリア……かつての小世界群に存在した1世界の住人達、シンフォリアの天使たちが進出して現れた新天使」
小世界群ってのは世界が集まって1つの世界になっていた世界って認識でいいのよね?その中の1つだった世界が出てきたってこと?そんでそこの住人だった天使たちがいるってのよね?
「次に、第四翼人種と言う数列種である存在だが……、この場合、鳥人などもこの部類に入るから明確な定義がない分、天使と断言し難い」
よくわかんないけど、数列種ってのがあって、そん中の第四翼人種って羽の生えた奴等のことも天使に入るらしい。けど鳥人間との明確な差がないってこと。
「最後に、【彼の物】の眷属か、だな。眷属は4体。【彼の物を封ずる者】、【彼の物を起こす者】、【彼の物を壊す者】、【彼の物を狩りし者】だ」
エルシア……って、前に聞いたことがある気がするわね。確か、紅蓮王の妻だとか言っていたような……。
「エルシアって、前の話で出た紅蓮の王の妻ってことでいいの?」
あたしの疑問に、グラムは答える。
「ああ、そうだ。それに旧眷属には【彼の物に背きし者】、【彼の物を見通す者】、【彼の物を汚せし者】、【彼の物を選びし者】なんてのもいた」
へぇ……いっぱいいるのね。
「他にも天使と呼ばれる存在は多くいるが主だったものは、そんな感じだな」
グラムはそう言って話を一旦切る。しかし、その後、グラムはあたしに尋ねてきた。
「それで、なんだって、そんなことを言い出したんだ?」
まあ、突然言い出したようなもんだからそりゃ、疑問にも思うわよね……。仕方ないから理由を説明してあげるわ。
「うちの父さんの中にいるのが何なのか気になったのよ」
正確には何かいるであろう、その正体。いない可能性もあるんだから……。まあ、おそらく何かいるのは確実でしょうけど。
「サンダルフォン……。よもや【断罪の銀剣】のサルディア・スィリブローではあるまいよな」
いや、あるまいよな、とか言われても知らんし。まあ、どうでもいいわ。別に修学旅行明けに教えてくれるって話だったしね。
「あ、暗音ちゃん、さっきからブツブツ怖いよ?」
あら、はやてが起きてたみたい。てへ、失敗。なんて気持ち悪いことやってる場合じゃなかったわ。
「別になんでもないわよ。ただ、幽霊的な何かと会話をしてただけだから」
あたしがそう言うと、はやてはホッとしたように胸をなでおろした。何、胸の自慢かしら、それ。
「よかった……ただ幽霊さんと……って、幽霊?!」
ノリツッコミ、ではなく天然なのがはやてなのよ。ド天然姫はやてちゃん。ドがつくほど天然なのよね。
「ああ、嘘よ。ほら」
そう言って、スマホをはやてに見せる。これではやては、誰かと通話していた、と思うでしょうね。
「あ、何だぁ……。おどろかさないでよぉー」
はやてに関しては簡単に誤魔化せるからいいわよね。そういう単純なところ、好きよ。あと可愛いところも。
「ねぇ、はやて。貴方は超能力とかって信じる?」
あたしは試しに聞いてみた。すると、はやては、ん?と首を傾げて、暫しの間考えている。
「ねぇ、暗音ちゃん、超能力って、どーゆーの?」
子供かっ!とツッコミたくなるような言動にあたしは一瞬何もいえなくなったけど、まあ、《古具》で知ってるのを例にあげるわ。
「未来予知とか」
十月の《古具》を例に挙げてみたわ。まあ、一番分かりやすいでしょうし。
「未来、予知……?」
あら、はやての反応が少しあれね。何かしら、まさか思い当たる節があるわけじゃないでしょうに。
「え、あ、うん。もしかしたら、あるんじゃないかなぁーって思うよ」
はやてが超能力を肯定した、ですって?まあ、夢見がちなはやてならありえないことではないでしょうけど、その前の反応が引っかかるわね。
「もしかして、未来予知できるの?」
あたしは、微かな疑惑を持ち、はやてに聞いてみた。するとはやては、またも首を捻り、考える。
「えっと、昨日、変な夢を見たの」
は?急に昨日の夢の話?訳が分からないわね。
「ほら、昨日、ここについたらすぐ寝ちゃったでしょ?そのとき、何か、大人になったわたしの夢を見たの」
へぇ、それは面白いじゃない。大人になったはやて、ね。まあ、今と全然変わらなさそうよね。
「トモ君と娘と一緒に暮らしてる夢……。雷無がいて、トモ君が転勤になって、わたしはそれを知っていて、雷無を残して、トモ君と海外に行く夢」
雷無ってのは娘の名前でしょうね。そしれにしても、それが予知なのか、それとも妄想なのかはあたしには判断しづらいわね。
まあ、妄想の可能性がないわけじゃないでしょうけど、可能性としては本当の未来予知の可能性もあるわね。それも十月のとは別の。未来を見たのならブレるはずだけどブレていないなら別の手法よね。もしくは、それが絶対的確定事項、どの未来でも確定的に起こる出来事であるのか、ってこと。
「それにしても、大人、ねぇ。あたしが大人になったらどんな感じなんだろ?」
あたしの呟きにはやてが言う。
「うーんと、わたしの夢の中でわたしが言ってたけど、暗音ちゃんは全然変わってないみたい。あと、ウチの娘が暗音ちゃんそっくりだったけど、何か影響を与えたりしてないよねぇ?」
知らん。未来のあたしが影響を与えたかもしれないけど、そんなことは未来のあたしに言って欲しいわ。
「て、あ、話してるうちに、もう6時じゃない。外出れるようになったからちょっと出ましょうか」
あたしは、ご飯前に、ちょっと外の空気でも吸おうと思い提案したわ。まあ、外の空気っつっても、街中だから排気ガスたっぷりの汚い空気なんだけど……。
「あ、暗音ちゃん誤魔化したぁー」
誤魔化してないっつのよ。
こうして、あたし達の2日目は始まったのよ。




