08話:生徒会
三鷹丘学園生徒会。それは、他の部活や同好会、委員会とは異なる独自のルールを保有する特殊な機関である。
なんていうのは大げさだが、事実、他のところとは全く違う成り立ちをしているのは有名だ。
生徒会は、一般的な高校だと立候補者から生徒選挙によって任命されることが多いと聞く。けれど、ウチの学園には、そう言った制度は存在せず、生徒会がない年もある。任命権は顧問にのみあり、前顧問は、空蔵先生だったはずだ。今は、秋世が新しい顧問に就任し、俺と静巴を任命した。
この任命基準は、一般生徒に知らされていない。ほとんど顧問の独断と偏見らしい、ともっぱらの噂だった。
だが、俺が昨日得た情報から総合するに、
異能力を保持している
異能力の知識を有している
この二つの条件があると思われる。だから、おそらく俺のような任命のされ方は稀なのだろう。
そういえば、40年くらい前には、顧問が不在だった時期があるって話も聞いたことがあるが、その頃は、会長に任命権があったらしい。会長の任命は、学園長と理事長の2人ともの合意が得られれば任命される。
そう考えると顧問は学園長と理事長、2人と一部でも同等の権限を持っているってことになるんだよな。あれ、秋世って実は凄い?
天龍寺家は名家だからってのもあるのかも知れないが……。
天龍寺家ってのは、かなり前からある旧家で、この近辺ではかなり権威のある一族らしい。政財界にも顔が利くという。
今は確か彼方って人が当主だったはずだが、滅多に顔を見せずに、世界を放浪してるとか。
その天龍寺家は、有名な政治家がいた立原家とも親交があったらしいと言われている。その政治家は、総理大臣になった境出総理と2大議員と呼ばれていたほどだ。
さらに、天龍寺家、立原家とも親交があったってのが「花月グループ」だ。そう、花月静巴の家だと思われる「花月」だ。
今では、割りと普及した医学精密機器の開発を礎に、ロボット方面での飛躍的進歩の大元だとも言われている「花月グループ」。今は、アンドロイドやガイノイドの開発を中心に活動しているらしい。
こうやって考えてみると生徒会って凄いよな。
名家の出身の顧問である秋世。
ロボット開発の大手の跡継ぎだと思われる静巴。
京都の旧家出身のユノン先輩。
海外から留学してきた金髪グラマー美女のファルファム先輩。
凡人の俺。
やっぱ、何か、俺だけ浮いてないか?凡人だぜ。しかも、知識があるだけって、何の役に立つんだよ。
「まあ、なんつーか、今日から生徒会なんだよな?」
俺は、生徒会室へ向かう廊下で、前を歩いていた秋世に声をかけた。秋世は、振り返りながら俺と会話する。
「ええ、そうよ。まあ、紳司君の心配はしてないからいいわ。静巴さん、緊張してない?」
俺の心配はしてないって、失礼な。俺でも緊張はするぜ。
「大丈夫、緊張してないよ。青葉君は大丈夫ですか?」
秋世と静巴。2人の関係は、案外深いようだ。先ほども言ったように、天龍寺と花月は昔から親交のある家なので、知り合いでもおかしくないだろう。
その仲のよさは、ある程度把握できた。まず、静巴は、基本的に、誰にでも敬語を使う。俺に敬語で話しているのがいい例だ。しかし、秋世は例外らしい。それが仲のよさの証拠とでもいえようか。
「ああ、問題ない。こう言うのは癪だが、秋世の言うとおり心配されるような神経はしてないさ」
俺は、あっけなくそう言った。すると、静巴は、俺の顔を覗きこんできた。愛らしい顔をしている。
「本当に緊張していないようですね。凄いです」
どうやら俺の顔色で、真偽を見極めようとしていたらしい。こういうのは何だが、俺は、思ったことと顔が一致しないことが多いらしい。だからそれはあまり信用ならんと思うが。
「静巴さんは、私と同じで、昔からパーティに顔を出している所為で、人の顔色には敏感なのよ。でも、静巴さん、青葉の人間を顔で判断するのは止した方がいいわよ。顔と内心が一致しないこともあるから。この人たちに無意識ってものはないのかもしれないわ」
酷い言われようだった。それにしてもよく知っている。まあ、青葉の人間と言っても、姉さんは思ったことが顔に出るタイプなのだが。
「そう?青葉君は、比較的に分かりやすいタイプに見えたのだけれど……」
静巴、お前も案外酷いな……。
「まあ、個人差はあるものだけど、でも、基本的に顔に真実を出さないタイプだと思ったほうがいいわよ」
秋世がそんなことを言うのだった。
「そういえば話は変わるのだけれど、紳司君って私にタメ口よね?」
「何だ、敬語で話してほしいのか?」
俺は秋世の言葉に、即時に返答した。すると秋世は、溜息をつきながら俺に言う。
「別にそういうわけじゃないわよ。ただ、清二さんは、ずっと姉さんに敬語遣いっぱなしだけど、王司君は敬語を一切遣わなかったのよね。だから、やっぱ個人にも特色が出るのね~、と思ってたんだけど、紳司君は王司君似ね」
父さん似か。……、ふむ、そう言われて悪い気はしないのだが、今の話を聞く限り違うと思うな。
「いや、俺、別に目上の人間には敬語を使うぞ?今日も会長や副会長に会ったが敬語だったしな」
あれは無意識だったが、キチンと敬語を遣っていたはずだ。あと、言っておくが、俺も人間なので無意識はある。無意識を有ると言うのもおかしな話だが。
「え?じゃあ、何で私はタメ口なのよ!」
憤慨していた。あるいは激怒していた。これに関しては、年上らしからぬ秋世にも非があると俺は言いたい!
「知らん。お前が悪い」
そんな風に言ってみた、真剣じみた顔でな。
「なるほど。真剣な顔をしていますが、ふざけてますね……。こういうことよね、秋世」
静巴は、冷静に俺の顔を見て判断していた。
「あ、そうそう、そういうこと。王司君なんか、もっと分かりにくいけどね。心が通じ合ってる……、これは、文字通りの意味でね、心が通じ合ってる七峰さんが羨ましいくらいだわ」
文字通り心が通じ合う?それはつまり心が読み合えるという意味でいいのか?確かにウチの両親は、阿吽の呼吸、何も言わずに通じ合ってる部分があるけれど……。
「あら、知らなかったの?七峰さんの生まれつきの力、だと思うんだけど、弟さんと王司君だけ、心を読めるらしいの。王司君も七峰さんの心が読めるようになったらしいから、それで互いに通じ合ってるのよ」
なるほど。それであの意思疎通か。
「っと、生徒会室ね」
話をしている間に、生徒会室に着いたようだ。生徒会室は、校舎の一角に位置し、近場に流し台とトイレ、自動販売機がある。これは、多忙な生徒会役員のためのもの、らしい。
「それじゃ、入るわよ」
生徒会室はかなり広い。一般的な教室よりも広く、応接スペースと作業スペースがしきりで分けられている。応接スペースはソファと小さな机。作業スペースは長机と少し高めの椅子だ。この高め、と言うのは、値段が、と言う意味である。通常の教室に配備されている授業用の椅子よりも高価で、キチンと肘掛とクッション素材ありの学園長室にありそうな椅子だ。それと、なぜか、窓のところにドアがある。なんだろうか?開けて一歩でたら地面に落下だろう。何階だとおもってんだ?
「失礼するわよ~」
秋世はそう言って室内に入った。部屋の中では、作業スペースでユノン先輩とファルファム先輩が書類仕事をしていた。
「どうぞ」
作業をしながら顔を上げずに2人はそう言った。俺と秋世と静巴は、作業スペースへと向かう。向かうとか言いつつ数歩分しかないのだが。
そして、俺は、ユノン先輩の書いている書類を盗み見ながら、あることに気づく。
「あ、市原先輩、そこ間違えてますよ。その場合は、先輩のサインはもう一つ上の欄ですね」
その指摘をユノン先輩はキチンと聞いてくれたらしい。
「あ、ホント、ありがと……う?」
そこで初めてユノン先輩は、書類から目を離して顔を上げた。そして、観察するようにまじまじと俺の顔を見た。
「……?青葉、紳司君?」
「はい、そうですよ、市原先輩。今朝ぶりですね」
そう言って微笑む俺。どうかしただろうか。ユノン先輩は、なぜ俺がここにいるのか分からない、と言った様子だった。
「なぜ青葉紳司君がここにいるの?」
目をパチクリとさせ、本気で分からない、と言う様に疑問符を浮かべる。
「あ、言い忘れてたわ。静巴さんのついでに紳司君にも生徒会入りしてもらったのよ」
言い忘れていたのか、秋世。使えないな。
「今使えねぇなコイツとか思ったでしょ」
秋世ににらまれる。鋭い……。
「えっと、て言うことは、説明してないのか……。このたび生徒会の……確か会計でしたね、会計に任命されました、青葉紳司です。知識量だけを頼りに任命されたので、アドバイスや提案を積極的に行っていく所存です。皆さんのような異能の力は持ち合わせていませんのであしからず」
一応、軽い自己紹介を織り交ぜた挨拶をする。するとファルファム先輩が、一瞬きょとんとした。
「異能……って《古具》のことでしょ?」
アーティファクト……、そういえば母さんも言っていたな。なるほど、ここにいるのは、そのアーティファクトってのを持ってるってことか。