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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
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79話:死闘の果てにSIDE.GOD

 明津灘(あきつなだ)大地(だいち)。紫炎の兄にして、次期、明津灘家の当主である。【明津灘流古武術・剣派】を極めた剣の鬼才らしい。剣技に関しては、他の明津灘流古武術の人間の追随を許さないほど突き抜けている。【明津灘流古武術・剣派】にある26の剣技を極め、一般人の域を裕に超えているとされる。


 妻の守劔(するぎ)は、どこかの有名な旧家の出身らしく、《古具》の域を超えた謎の存在を追って家を空けているとか……。えと、か、烏……なんちゃら家だったか?


 そんな大地の情報を、俺は、最後の試練の部屋へ向かう道すがら聞いたのだった。流石に《古具(アーティファクト)》の情報とかは勝負に不平等をきたすので聞いていない。


 そして、最後の試練の部屋に辿り着いた。俺は、一応、【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】を携えるものの、基本的な戦闘は《古具》を使って行う気だ。

 木製の扉が開かれる。畳の敷かれた部屋に一人の男が胡坐をかいて座っていた。男はどことなく紫炎にも似た雰囲気だが、明らかに強い闘気を放っている。


「お前が最後の試練に挑戦する者か……」


 そう呟く男こそ大地なのだろう。厚い胸板、筋骨隆々と言った体付き。まさに鍛えている……鍛え続けているのだろう。日夜、己を磨くことに情熱を注ぐ、生まれながらの武道家に違いない。


「ああ、そうだ」


 しかし、彼に1つ言わなくてはならない。――上には上がいる、と。

 どんなに懸命に努力したところで、とてもではなく届かない、そんな破格の人間達は、いつの世にもいる。

 例えば、静葉がそうだった。天性の剣の才のみで剣帝の座を得た彼女のように、どのような努力も届かない存在がいることを教えなくてはならない。


「そうか……。お前は、それを抜いたのか……」


 俺の携える【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】を見て、そう言った。おそらく、彼にはこれが抜けなかったのだろう。


「ならば、全力の勝負でもよさそうだ」


 木硫相手には、木硫が有利な条件で、手を抜いたと言っていた。しかし、俺相手には本気で来るらしい。


「お前もそれでよかろう?さあ、互いに名乗って、戦いを始めよう」


 試合の前には互いに名乗りあう。武道の礼儀と言うやつか……。俺は、いつでも《古具》を呼び出せるように準備をした。そして、大地が名乗る。


「【明津灘流古武術・剣派】皆伝(かいでん)明津灘(あきつなだ)大地(だいち)


「【天冥神閻(てんめいしんえん)流剣術】奥伝(おうでん)六花(りっか)信司(しんじ)


 互いが名乗る。この試合は、本気で打ち合う、その覚悟から俺は、青葉紳司ではなく六花(りっか)信司(しんじ)を名乗った。


 どうやら大地はまだ極伝(ごくでん)ではないらしい。おそらく当主を継ぐと同時に秘奥を教わり極伝となるのだろう。


 一方の、俺の言った【天冥神閻(てんめいしんえん)流剣術】とは、剣王・八塚英司の生み出した剣術で、俺は、刀を造る傍ら、時折、その剣を教わり奥伝まで至った。


 この極伝や皆伝、奥伝というのは、剣術等の伝位だ。極伝(ごくでん)ならば、その流派の秘奥までを極めた。皆伝ならば、その流派の奥義を全て伝授された。奥伝ならば、その流派の奥義を伝授された。そして中伝、初伝と伝位が下がっていく。


「《機帝の四剣(マキナ・フォース)》」


 大地の周りに4振りの大剣が生まれた。赤い剣、白い剣、茶色い剣、錆色の剣。それらが大地の《古具》なのだろう。


「《神々の宝具(ゴッド・ブレス)》。《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》」


 【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】を抜かずに《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》を呼んだ。手元に現れた大剣をしっかりと握り締め、構えを取る。【天冥神閻(てんめいしんえん)流剣術】独特の逆手横構えで。


「む、珍しい構えだな」


 大地は、そう言いながら、白い剣を掴み、投げ飛ばしてきた。豪速で飛んでくる剣を俺は、身体を捻りながら逆手に構えた《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》で弾き飛ばす。


「なるほど、体の回転で、重い剣の威力を上げると同時に、位置を固定して回転させるから負担を減らしている、ということか」


 一瞬で、この構えの理由を見抜かれたな。まあ、当たり前か……。剣のことを考え続けて生きてきたような奴だ。その程度は造作もなく見抜くのだろう。


「つまり、その剣術は回転が要となる、と言うことか」


 そう言って、錆色の剣を掴み、投げ飛ばす。そして、俺に当たらず、地面に刺さった。俺は警戒する。何が目的なんだ?


「《朽ちろ》」


 大地は一言、そう言った。その瞬間、錆色の剣の刺さった周囲から徐々に腐ったように畳が腐敗していく。


「安心しろ。人間には害はない」


 人間に害はないってったって、安心できるかよっ!とツッコミたいところだが、集中を乱さないためにもツッコまない。


「これで回転は使えまい」


 しばらくして、大地はそう言った。……そういうことかよっ。

 簡単な話だ。回転をするには、足を踏ん張らなくてはならない。ならば、踏ん張れないように足場を腐らせればいい、とそういうことだろう。


「おそらく、その【天冥神閻(てんめいしんえん)流剣術】とは大会などの演舞として用いられる方に重点を置いた剣技だ。それゆえに、障害の多い場所での戦闘は不慣れと踏んだが、どうだ?」


 大地が俺に聞く。確かに【天冥神閻(てんめいしんえん)流剣術】は、剣帝大会が開かれる前の剣舞大会で剣王を名乗っていた英司が生み出したものだ。それゆえに、戦闘のため、と言うよりも、演舞に近いだろう。


「【天冥神閻流】……奥義」


 俺は、逆手の構えから上段の構えへと変える。上段の構えでは回転を必要としない。そして、この構えを使ってこそ放てる剣がある。


一式(いっしき)


 踏み込むと同時に剣を振り下ろす。大降りで、隙の大きな一撃。もちろん、その隙を狙って大地が攻めてくることは分かっていた。


尖魔槍(せんまそう)


 だから、振り下ろしたと同時に踏み出したほうと逆の足を引いて剣を後ろに引き下げる。それを突き出した。

 それこそ【天冥神閻流】奥義一式《尖魔槍》だ。大降りの剣で隙が出来たように見せかけて、敵に突きを放つ技。


「チッ」


 大地はそれを避けた。なるほど、アレを避けるか……。観察力はかなり高いらしい。だが、まだ、技は残っている。


「奥義三式《返光突(へんこうづき)》」


 照り返す光の如く、突きを返す、故に返光突(へんこうづき)と名づけられたこの技。避けられた瞬間に、逆手に握りなおして自分の側に引く。


「なっ」


 大地は避けきれず肩に一撃当たった。しかし掠めた程度だ。流石の反射神経だな、明津灘の次期当主は伊達じゃないな。


「十式其之一(そのいち)華炎(かえん)》」


 剣が発火する。しかし、それに大地が茶色い剣をぶつけると炎は消えてしまった。チッ、打ち消されたか。


「十式其之四《月光(げっこう)》」


 技を使う。十式は其之一から其之九まである。唯一の魔剣技である。


「グッ……、流閃花(りゅうせんか)


 明津灘の方の技だろう。赤い剣を握り、俺へ向けて振り下ろした。ヤバイ、流石に技を使った後に、剣を振りきった状態ではカバーできない。


「【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】!」


 咄嗟に《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》から左手を離し、左手一本で【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】を抜刀する。態勢が態勢だけに、抜ききることはできないが、桜色の刀身が、大地の赤い剣を受け止めた。


「ほぉ、それが、あの刀か……。美しい色合いだ」


 そりゃどうも。この色合いを出すのは割と難しかったんでね……、そこを褒められるのは嬉しいな。《無敵の鬼神剣(アスラ・アパラージタ)》をしまう。


無劔(むつるぎ)!」


 手刀を使った攻撃である無劔で、大地の腹を打つ。しかし、大地は寸前で回避行動を取った。そこへ【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】叩き込む。


「奥義……特式(とくしき)


 腐った畳を思いっきり蹴り上げて、周囲の足場を無理やり作り出す。幸いにも畳の下までは腐っていなかった。


桜彩百花(おうさいひゃっか)


 刀が霞む程全力で抜刀し、斬る。その【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】の薄紅の刀身の残光がまるで桜のように輝いて見える。


「まいった」


 切っ先が大地の喉を捉えていた。大地は負けを悟り、《古具》を解いて両手を挙げたのだった。

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