72話:夕食SIDE.D
あたしとはやてが地下1階にある宴会場2に着くと、クラスメイトの大半が座っていた。しかっし、あたしは、部屋にいる間にトイレに行くこともなかったので、尿意をもよおし、お花摘みに行くことにしたわ。
ちなみに、お花摘みって、確か、登山とかのときに、事をしている体勢が花を摘もうとしゃがんでるようにも見えるからそういわれるとか聞くけど、本当なのかしらね?
まあ、そんなどうでもいいことは置いておいて、あたしは、はやてに一言断りを入れてトイレに向かうわ。幸いにも、宴会場のすぐ近くにトイレがあったので迷うことはなかったわ。
あたしは、空いている個室に入ったわ。てか、3つしかないからちょっとズレてたら外で待つ羽目になってたわね。ちなみに男子、女子トイレがよく混んでいるのは、個室の数が少なく、用足しの後の処理なんかも色々あって、さらに手洗い場でメイクなどをする必要が有るからなのよ。
最近のいいトイレだと個室が広くてさらに鏡がついていたり、生理用品関係の物が備品として置いてあったりする至れりつくせりなところもあるのよねぇ。
あと芳香剤。安物のやつだと強い香りで無理やり消そうとしてるじゃない?そういうんじゃなくて、きちんとしたやつだとそこまで強い香りが出ないし、気にならない程度なのよ。
あと用足し中の音消し。水を流して音を隠していたけど、最近じゃ、音楽とか、あとは個室自体が完全防音みたいなのも出てきてるみたいだしね。まあ、そういうのって、かなり高級なレストランとか、大きなデパートとかじゃないとないけどね。
なんて事を考えているうちに、あたしは用を足し終えたわ。まあ、と言うか、足し終えてから、様々な処理を終えて、今、って感じね。
そして、手洗い場で軽く手をかざして水を出す。あっ、これって、大抵の場合がフォトインタラプタって素子を使ってるのよ。あー、ようするにセンサー?物がないと、光が返ってこないから「物がない」って判断して、物にぶつかって光が返ってくると「物がある」って判断するってこと。手をかざしても反応しないときは、距離が正しくなくて的確に反射できてないってことよ。
まあ、フォトインタラプタも透過型と反射型ってあって、今言ったのが反射型の方ね。
ってそんな話はどうでもいいのよ。何で、あたしは長々とトイレについて語ってんのよ?
と、あたしが手を洗っていると別の個室から制服の女子が出てきたわ。制服って事は紳司んとこの学校の子ね。てか、何で制服の上に上着来てんの?流行?
小柄ね……。なんていうか、人形みたいな子。チラっと見て、あたしは、息を呑んだ。吸い込まれるような綺麗な目をしていたのよ、彼女は。
紅玉の様に綺麗な紅の瞳。そして、逆の瞳は、藍玉の様に綺麗な蒼色の瞳。
綺麗な顔立ちはまるで天使のようだったわ。なるほど、この子が花月静巴。紳司が言っていた子ね。
「……?」
あたしが凝視していたことに気づいたのか、花月ちゃんが、疑問符を浮かべたような顔であたしの方を見ていた。
「どうか、しましたか?」
あら、可愛い声ね。ふむ、紳司が気に入るのも納得の可愛さじゃない。しかも、この子、化けるタイプね。元がこんなに可愛いのに、化粧をすれば大人っぽく化けられるタイプの顔つきなのよ。紳司はギャップに弱いかんねぇ……。
「ああ、大丈夫よ、花月ちゃん。ちょっと驚いてただけ」
そう言って、あたしは私服のポケットからハンカチを出して、手を拭きながらちゃっちゃとトイレを出た。
「ふぅ。ご飯にしますか」
あたしは、そんなことを呟きながら宴会場2へと戻ったわ。
座敷へと戻ると、はやてが女子座りでペターンと座ってちまちま夕食を食べていた。え、てか食べるの遅っ。冷めるわよ!
まあ、あたしがいえた話じゃなくて、あたしのご飯も冷めちゃってるけど……。てか、魚かぁ……。まぁ、嫌いじゃないからいいんだけど。
「そういえば、はやて」
あたしがそう言葉を切り出すとはやてが、口の中の物を飲み込んでから、あたしに言ってくる。
「もう、暗音ちゃん。食べながら喋るのはお行儀悪いよ?」
んなこと言ったって、ねぇ。あたしは基本的に気にしないからねぇ……。ま、はやてとかは礼儀正しいところがあるから気にするんでしょうけど。
まあ、そこまできちんとした礼儀がなっているわけでもないけど、一般人から見て礼儀正しいって感じよね。
「いいのよ。んなことより、あんたさぁ。今日の夜、友則の部屋とか遊びに行くの?」
友則は鷹月と相部屋になってるはず。ま、はやてと友則がラブラブするだけなんでしょうけど。
「ふぇ?私はシャワー浴びたら行こうかなって」
あー、なるほど。シャワーね、シャワー……って、あ、忘れてた!
「ヤバッ、あたしのシャンプーとか全部紳司のバックの中なんだった!」
今思い出したわ!しっかし、取りにいくのも面倒よね。だったら紳司に持ってこさせるんだけど。
「へ?暗音ちゃん、シャンプー忘れたの?」
はやてがあたしの言葉を聞いたのか、そんな風に声をかけてきたわ。でも、残念ながら忘れたわけではないわ。
「違うわよ。弟のバックに間違えて突っ込んできたのよ」
そう言うとはやては一瞬きょとんとして、あたしに問いかけてきた。
「どうやったら間違えるの?」
どうやって間違えたかって言われても、まったく覚えてないわね。確か、準備してて、あたしの鞄の隣に紳司のもあって、……。
「あ~、適当に突っ込んだとき、あれ、あたしのバックってオレンジだったような……とか思ったのよね」
ちなみに、紳司が青色のバック。あたしがオレンジのバック。全く同じバックの色違いを使ってるのよ。
「キチンと確認しなきゃダメだよ。私の貸してあげようか?」
はやてがそんな風に提案してきたけど、ゴメンね。無理なのよね。まあ、少々ワケありと言うか、
「ゴメン。あたし、いつものシャンプーじゃないと無理なのよね。リンスも洗顔とかも全部。まあ、紳司に連絡して後で届けさせるわよ」
そういうと、はやてが変な顔をしていた。どうしたのかしら。何か変なことと言ったっけ?
「え、三鷹丘からわざわざ弟さんに持ってきてもらうの?」
ああ、なるほど、そこね!そういえば、はやてには言ってなかったわね。思いっきり近場にいるっての。
「紳司なら、たぶん隣の宴会場1でご飯食べてるんじゃない?隣は三鷹丘学園の夕飯の場所になってるから」
って、あたしが言うと、はやては目を真ん丸くしていた。どうやら、向こうが三鷹丘学園だとは知らなかったみたいね。
「む、向こうって、あっちの学校、三鷹丘だったの?」
やっぱり。てか、入り口に看板立ってたんだけどね。まあ、注視しないわよね……。そんなはやてに、あたしは言うわ。
「まあ、ってなわけで、あたしは、あんたがシャワー浴びた後に、紳司に持ってこさせてシャワー浴びてから友則と鷹月のとこに行くわ」
あたしがそう言うと、はやては、「う~ん」と悩ましげな声を漏らしたわ。何なのよ。
「先に私が浴びていいの?」
あ~、あれ、風呂に入る順番とか決まってる系のやつ?あたしは全然気にしてないし、かぶったらかぶったで紳司とだったら一緒に入るし。
「別に構いやしないわよ。てか、効率的なことを考えると、そっちの方が断然いいわよ。あんたが入ってる間に紳司に持ってきてもらえば時間は節約できるし。もし、紳司があんたのシャワー中に持ってこなかったとしても、あんたは、先に友則のとこに行けるでしょ?あたしが先に入るのに紳司が中々持ってこなかったら、あんたも入れずあたしも入れずで困るじゃない」
そうあたしが言ってもはやてはなんだか妙な顔をしていた。まあ、どうでもいいわよ。あたしとしては、シャワー浴びれればいいんだから。
「そういや、紳司って、確か、さっきの花月ちゃんと相部屋とか言ってたけど……、まあ、まさか一緒にシャワー浴びるなんてことはないわよね」
うん、いくら紳司でもそれはない……と思いたい。けど、それがないと言い切れないのが紳司って子の恐ろしいところなのよね……。
まあ、流石にないわよね。
「う、うう……。じゃ、じゃあ、私が先に入らせてもらうけど」
はやてはそんなことをいいながら食事を再開したわ。って遅っ!あたしももう食べ終わるわよ!
「てか、はやく食べなさいって。消灯時間までの時間がなくなってくわよ!」
あたしが急かすとはやてはご飯をもくもくと食べ始めた……んだけど、一口の量が凄く少ないのよ。
「あんた、……」
ああ、もういいわ。あたしからは何も言わないわよ。
ちなみにだけど、現在時刻は7時過ぎ。消灯時間は10時半。それまでは自由行動として基本的に、この建物内から出なければ自由に部屋の行き来ができるのよ。
「それにしても、市原、それと天姫谷……。さぁて、2つの家をどうしてあげましょうかね」
あたしは小声でそんなことを呟きながら、はやての食事が終わるのを待った。