70話:部屋SIDE.D
SIDE.HURRICANE?
私、篠宮はやては、親友の青葉暗音ちゃんと宿泊先の部屋の606号室に入りました。暗音ちゃんは、部屋の中をサッと見るとベッドに寝転がっちゃいました。
私達の宿泊する部屋は、結構広い部屋で、真っ白な壁紙が清潔感を醸し出していました。そう暗音ちゃんに言うと、「清潔に見せるためのホテル側の考えよ」と言いそうなので、私は口には出しません。
私のお母さんは、よく「店員の考えだとか何だとか考えんのよりももっと楽しいことを考えるべきなのよ」と愚痴を零しますが、全くの同感です。
ちなみにですが、お母さんの親友の方にも暗音ちゃんと同じような考えを持たれている人がいらっしゃるそうで……。親友、と言うより幼馴染、とも言っていましたか?王司さんと言う方らしいですが。他にも祐司オジさんや八千代お姉さん、ルラお姉さんなんかがお母さんの知り合いですけど、王司さんと紫苑さんだけは合ったことがないんですよねぇ……。
あっ、祐司オジさんが「オジさん」なのに八千代お姉さんやルラお姉さんが「オバさん」でないのは、本人に言われたから、と言うのもありますが、見た目がお若いからです。お母さんも随分若いから、私もお母さんと姉妹によく間違われるんです。
暗音ちゃんのお母さんも若いらしいので、暗音ちゃんが「よく姉妹に間違われんのよ」と言っていました。
……正直、暗音ちゃんのお母さんってどんな人なんでしょう?やっぱり暗音ちゃんに似て、頭のいい方なんでしょうか?
あ……、言い忘れていましたが、お母さんの名前は、篠宮真希と言います。
さて、と、暗音ちゃんがベッドに横になってスマホを弄っているので、私もベッドに横になることにしました。今から、夕食の時間までしばしの休息です。暗音ちゃんはバスでもずっと眠そうにしていたので、この後、きっと寝ちゃうので、私は起きてないと……。
そう、起きて……ないと……。
気がつけば、私は、まどろみの奥にいました。どうやら寝てしまったみたいですね……。暗音ちゃんを起こさないといけないのに……。えっと、見てる人が夢だと分かる夢を、なんていうんでしたっけ……?確か……、「明晰夢」、と言いましたか?
ここは、どこでしょう?私が夢で見ているのは、どこかのリビングのようですね……。あっ、微妙に物や配置は変わっていますが、私の家のリビングですね。
あら、誰かが入ってきました。あれは……、私、ですか?雰囲気は違いますが、間違いなく私ですね。何でしょう、老けた、と言うより育ったと言いますか、20歳くらいですかね?
一緒に入ってきたのは男の人です。……もしかして、私の婚約者ですか?!
いえ、20歳なら、まだ恋人?でも相手の男の人は30過ぎに見えますが……。もしかして、年上ですか?いえ、でもどことなく見覚えのある顔なんですが……。
「それで、トモ君。話って?」
トモ君?!って、あのトモ君?!
ふぇ……、私が20歳くらいでトモ君が30歳くらいってトモ君が老け顔だったのかなぁ……。
「ああ、はやて、聞いてくれ。実は、ウチの会社の方針でな……、俺の海外勤務が決まったんだ」
トモ君が、今のトモ君からは考えられないような重い口調でそう言いました。私……、おそらく未来の私、ですが、私は驚いていませんでした。
「ええ、まあ」
私は、ただ、頷いているだけでした。どうして、そんなに驚いていないんでしょうか?実際、私がそんな風な告白をされたら驚くでしょうけど……。
「何で驚かないんだよ。はやてらしくないな」
未来のトモ君はそんな風に言っています。確かに私でも私らしくないと思いますし……。どうしたのでしょうか?
「え~っと、まあ、ねぇ。トモ君、私知ってたんだ、トモ君がアメリカに転勤になること」
え?今、私はなんて言いましたか?アメリカに転勤、ですって?私は、今、「海外勤務」としか聞いていなかったはずなのに……。
「お、おぇ?俺、アメリカ勤務って言ったっけ?」
未来のトモ君も同じことを思ったようで、未来の私にそんな風に聞きます。未来
の私は、ちょっと微笑んで言います。
「ううん、修学旅行のときに知ったんだよ?」
修学旅行……、あっ!つまり、未来の私は、今見てるこのシーンでトモ君の転勤を知ったんだぁ……。
「修学旅行?!20年くらい前じゃねぇか!」
に、20年前?!ってことは私、36歳くらい?!うわぁ……若く見えても老けてたんだぁ……。
「あぁ、それにしても、お前って、あの頃からあんま変わってねぇよな」
そんな風に呟くトモ君。どうして私は老け難いのでしょうか?嬉しいことではありますが。お母さんのことを考えると遺伝でしょうか?
「青葉も鷹月も変わらねぇし」
暗音ちゃんも鷹月君も変わらないみたいです。そんな中トモ君だけは……。ま、まあ、トモ君にもそのうちいいことがあるよ。
「別に、私は、アメリカに行ってもいいと思ってるよ」
私(36歳)がそんな風にトモ君に言いました。トモ君はそれでも渋い顔をしています。て、言うか、トモ君、渋い顔できたんだ……。
「でも雷無のことを考えると、な」
雷無……?それって、十月ちゃんの言っていた嫌いなものを無くす名前って考えた名前ですよねぇ。
「うん、でも、雷無なら、きっと一人で大丈夫だ、なーんて思っちゃうのよ」
私(36歳)はそう笑らいます。娘を一人にして大丈夫って言うなんて、本当にこの人、私ですか?!
「おい、はやて!雷無はまだ高校生なんだぞ!」
トモ君も怒っています。高校生を一人暮らしさせようだなんて……。まあ、実質、私も両親が旅行に行くことが多いから一人暮らしみたいなものですけど。
「んぁ、あたしが何ですってぇ~」
寝惚けた声で、欠伸交じりにボサボサの肩より上くらいまである髪を掻きながら、一人の少女がリビングに入ってきました。
年の頃は高校生くらいでしょうか?と、言うことは、この子が雷無。私の……、私とトモ君の子供。
「あ~、何ていうの?空気で察したわ。そうね……、何かあって、あたしを一人にすることになっちゃったけど、あたしが高校生だからどうするかって話よね?それで、母さんは置いていくって言って、父さんがそれに反対した流れかしら?」
何て言いますか、この子、私の子供、と言うより、暗音ちゃんの子供って感じがしますよね……。こう、頭の良さが。
「その無駄に察しがいいところ、どっちにも似てねぇな……。まるで青葉に似てやがる」
と、トモ君も言っています。ウチの子、雷無は、本当に見た目の印象も雰囲気も暗音ちゃんによく似ているんですが……。
「何の話よ?まあ、いいわ。あたしなら一人で大丈夫だってのに……。父さんは心配性ね」
雷無はそう肩を竦めます。おどけているように見えて、しっかりした子なんだなぁ……と私は思いました。
「本当に大丈夫なのか?」
トモ君はそう雷無に問いかけます。雷無は、それを笑いのけます。鼻で笑うとも言いますが。
「ハッ、大丈夫に決まってるでしょ?」
その自信満々な様子は、本当に暗音ちゃんを前にしているときのようでした。暗音ちゃん、そして、雷無。もしかして、どちらも、血が繋がっているのでは?何て思ってしまうくらいには。
実は、おじいちゃんに聞いたことがあるのですが、私の先祖には、凄い人がいて、その人とおじいちゃんの友だちの先祖が子供を産んでいたことがあるって言っていたので、もしかしたら、暗音ちゃんの家と私の家がそういう関係だって言う可能性もあるのかも……。
「そもそもあたしは、大抵のことはこなせるし、仕送りさえしてくれれば何の問題もないわよ」
私の考えなんて他所に、雷無はあまり大きくない胸を張って、そう言いました。凄い子だなぁ……。
「暗音ちゃんや帝ちゃん、鷹月君みたいに、子供を一人にして仕事をしている人はいっぱいいるし、きっと大丈夫だよ。もし、心配だったら、西野さんのとこに連絡して面倒を見てもらえばいいんだし」
西野?確か、親戚の人の名前だった気がします。何県か忘れましたが、滝島って島で暮らしている金子お姉さんと銀次お兄さん。ああ、それと本土の方にも銀お兄さんと黄お姉さんがいるって。
「緋君や翠ちゃんも雷無と同い年だしね」
私(36歳)がそんな風に言いました?どちらも聞き覚えのない名前ですけれど……。おそらくお兄さんやお姉さんの子供達でしょう。
「何でもいいわよ。あたしは、一人暮らしできるし」
雷無が自信満々にそう言い切って……。
「はやて。はやて!」
私は私を呼ぶ声で目を覚ましました。この声……、暗音ちゃん?
「あっ、やっと起きた。はやて、もう夕飯の時間よ?珍しいわね、あたしよりも先に落ちるなんて」
どうやら、寝てしまって暗音ちゃんに起こされたみたいです。うぅ……暗音ちゃんに起こされるなんて……。
「ゴメン、暗音ちゃん。ちょと寝ちゃってたみたい」
私はそう謝りながら起きます。気づけば、ワンピースでそのまま寝転がって、寝返りをうった所為でショーツが丸見えになってしまった見たいです。すぐに裾を直しながら、ベッドを降りて夕食が用意されている部屋へ行く準備をします。
「さて、じゃあ、はやて、行こっか」
そして、私は、夢で見たことを全て胸の奥へ秘めながら、暗音ちゃんと夕食へと向かうのでした。
また一日空けてしまいまして……。今回ばかりは言い訳を。
本来、この話は暗音ちゃんの視点で書かれるはずで2/3くらいはそれで書かれていたんですが土壇場であたしがそれをはやて視点に変えてしまい昨日に間に合わなかったのです。
ちなみにはやて視点に変えた理由は、今回の話で考えていた部分はあまりにも暗音ちゃんの昔に対して展開が早すぎる、と思ったからです。もう少し延ばそうかと。
まあ、そういった個人的言い訳でした。