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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
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69話:部屋SIDE.GOD

 俺と静巴は、706号室に入った。部屋は割りと大きく広い部屋だった。2人なら充分なくらいの広さで、入ってすぐ右手にトイレとバスルーム。まっすぐ行くとベッドのある部屋があり、大きなベッドが2つあった。


 明るい部屋で、壁紙は白色。窓からは京都の町並みが見える。俺と静巴は早速荷物を降ろして、くつろぐことにした。


 さて、荷物をちょっと整理するか……。


 俺はバッグのジッパーをおろしてバッグの中身を軽く整理しようとして、見慣れぬ袋が入っているのに気づいた。


「なんだ、これ?」


 別に怪しいものではないだろうけど、ちょっとあけてみるか……。


 袋を開けると、シャンプー、リンス、ボディソープ、洗顔の美容液、乳液……。これ、姉さんのじゃん!中身が明らかに姉さんの物なんだけど……。姉さんめ、間違えて俺のバッグに突っ込んだな?


「まったく仕方ないな……」


 同じ宿だということが分かっているから届けられるしな。もし、違う宿だったらどうする気だったんだ……?

 まあ、同室の子に貸してもらえるんだろうけど……。


「どうかしました、青葉君?」


 静巴が俺の様子を見て声をかけてきてくれた。しかし、静巴としばらくこの部屋

で暮らすことになるのか……。割りと……、いや、凄く嬉しい。


「いや、何でもないよ。それよりも静巴、今から夕食までは室内待機だっけ?」


 俺が記憶している「修学旅行のしおり」の内容を口に出して確認してみる。すると、静巴は頷いた。


「ええ、そうですよ。テレビでも見ますか?」


 ちなみに、部屋に付属している冷蔵庫の中身や飲んだり、テレビを見たりするのに料金はかからない。全てが支給品になっている。

 テレビも普通のテレビで見れるものから衛星放送まで見れる。冷蔵庫には、果汁100%ジュース、ミネラルウォーターなどが数本入っている。

 それに無線LANも完備してあり、宿泊客用に使用することができるようになっているのだ。


 さて、静巴と2人きりだというのにテレビを見て過ごす、と言うのはあまり得策ではないだろう。それよりも静巴ともっと色々したいな……。


「テレビはいいかな。それよりも静巴と話がしたい」


 俺は、思ったとおりのことを言ってみた。すると、静巴は、少し頬を赤らめながら頷いた。その光景にどこか既視感を覚えた。ノイズのように脳裏にチラつく。






 静葉(しずは)花月(かげつ)静巴(しずは)ではなく、七峰(ななみね)静葉(しずは)。そして、信司(しんじ)青葉(あおば)紳司(しんじ)ではなく六花(りっか)信司(しんじ)


 何気なく脳裏に浮かぶ情景。照れる静葉(しずは)と、その横に座る信司(しんじ)。そして、静葉(しずは)の正面に立つ英二(えいじ)。……。信司が英二に密かに嫉妬している、そんな光景……。いつの光景かも、誰の光景かもよく分からない。けれど、明確に脳裏に映りこんだノイズの様な光景。







 俺は、自分に信司を、静巴に静葉を投影してしまう。そして、思わず、俺は、静巴をベッドへと押し倒してしまった。


「あお、ば、くん……?」


 真っ赤な顔で俺に押し倒される静巴。甘い吐息が俺の顔にかかる距離。静巴の綺麗な肌が、深紅(しんく)青蒼(せいそう)の双眸が俺の顔を映しこむ。


「しずは」


 俺の口から出たのは「静巴」だったのか、それとも「静葉」だったのか。どちらにせよ、俺は、流れに身を任せるように、彼女の赤い唇へと顔を近づけていく。


 静巴の唇は、ぷっくりとしていて、赤く濡れて、艶のある唇だった。


 もう、俺の頭で何かを考えるのは、そこまでだった。そこで、全ての考えを、思考をやめ、無我夢中で静巴の唇に、自分の唇を重ねていた。


「んふっ……」


 俺と静巴の間に、熱い口付けが()わされる。息が漏れ、こんな声とも息とも判断のつかない音が漏れる。熱い息が俺の頬に当たる。それはお互い様なのかもしれない。


「ふぁっ……ぁん……」


 静巴が恍惚(こうこつ)とした表情で、俺とのキスを交わし続ける。もう、意識などせず、無意識に、相手の口内に舌を入れ、舌を絡めていた。唾液(だえき)が互いに交わされあい、混じって1つになる。

 もう俺も静巴も口の周りは(よだれ)でベタベタになっているが、2人とも全く気にしていない。


「ぁあん……」


 ベッドの上で抱きしめあい、ディープな口付け(キス)を交わし続ける。

 どのくらいの間、そうしていただろうか……。かなり長い時間に感じた。ずっと、そうしているように感じるくらい、長かった。


 それだけの長い時間、交わって、ようやく俺と静巴は離れた。


「あ、青葉君……」


 肌蹴た制服。そこから覗く白い素肌と淡いピンクのサテンパンツ。上も乱れて、涎などでビチャビチャで、パンツと同じカラーのブラが見えている。

 白い素肌が火照って赤みを帯びていた。その柔そうな肌に俺の手が伸びて……


――コンコン


 ノックの音が響いた。その音で俺は我に帰った。俺はなんてことを……。訴えられたら終わりだ。


「ちょっとー、紳司君?静巴さーん」


 秋世の声だった。よかった、秋世にノックするぐらいの分別(ふんべつ)があって。急に《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》で転移されたら終わってたな。


「し、静巴……。その、急に押し倒して悪かったな……。でも、なんて言えばいいんだろうか、なんか、お前と一緒になりたいって思ってさ」


 一応、俺は静巴に弁明を試みる。すると、静巴は、俺の口に「しー」とするように人差し指を当てた。


「大丈夫です。青葉君がその……本気だったのは、顔を見れば分かりましたから」


 そう微笑んだ静巴。その表情は、どこか妖艶で、本当に一瞬、静葉に見えるほどに大人っぽかった。


「さあ、とりあえず顔を拭きましょう。私も青葉君も涎でベタベタですし、ね」


 頬を染めて、少し早口でまくし立てていたのは恥ずかしいからだったのだろう。しかし、俺、あのまま流されていたら、静巴と……。


「ちょっと、紳司君てばー。静巴さーん?」


 秋世がドアをドンドンと叩く。あぁ……もう!鬱陶しいな。静巴は、今この場で着替えるわけにもいかず、私服の上着を羽織っていた。そして衣服の乱れを直している。俺は、ワイシャツだけ脱いで、サッと着替えた。

 そして、息を整えて、いつもの調子に戻してから、ドアへと向かう。


「何だよ、うるせぇな」


 俺がドアを開けると、そこには、秋世と、気だるそうな顔をした男の2人がいた。てか、この男は誰だ?


「ちょっとこの部屋、借りるわよ」


 秋世と男が上がりこんできた。まったく、一体何事だよ。


「悪いわね、邪魔しちゃって。私の部屋、他の先生と相部屋だからあまり裏の話が出来ないのよ。だから一番安全なこの部屋を借りにきたのよ」


 秋世がそんな風に言った。つまりは今から裏の話をする、と言うことでいいんだな?まあ、いい。


「あ~、俺は、鷹之町第二高等学校の教師をやってる廿日(はつか)雨柄(うつか)ってぇもんだ。まあ、その、一応、どっちの高校でも《古具》使いが接触してるっぽいし、念のために情報の交換はしとかねぇといけねぇからな」


 廿日雨柄……。確か、姉さんの担任だったな。なるほど、姉さんから指示を受けて、こっちと連絡を取ってきたってところか。それで、姉さんの名前が出なかったってことは、姉さんが俺との関係で疑心感を抱かせまいということだろうから、こちらも名乗るのは控えたほうがいいな。


「そうか、じゃあ、自由に話し合ってくれ。俺はそれを基本的に聞いているだけで、所々気になることがあったら質問を入れていく」


 向こうが名乗ったが、こちらは名乗らなかったので、秋世が「不敬だ」、と言う目でこっちを見てきたが、俺の顔から何かを悟ったのか、何も言わなかった。


「それじゃあ、まず、こちらで市原家の3人を確認しているのだけれど、そっちでも確認しているって言ってたわね。それは、誰が?」


 秋世が雨柄に聞いた。雨柄は答えにくそうに顔を歪めて、それから面倒臭そうな顔をした。


「あ~、ウチの女子生徒だ。追っ払ったと言っていたが?」


 雨柄がそう言った。明らかに名前をはぐらかしている。やはり、姉さんから名前を出すな、といわれているのだろう。


「ああ、その女子生徒なら、俺も確認している。てか、駐車場にクレーター開けた本人な」


 俺は、秋世にわかりやすい情報を伝えた。秋世が、てっきり市原家が作ったと思っていたクレーターがこちら側の人間の仕業だったことに驚いている。


「まあ、いい。それで、まあ、今回の話し合いの目的は、守りだろ?そっちが生徒の名前を明かさないのは、こっちほど正確に学校内にいる《古具》使いが分かっていないから、秋世を含めたこちらサイドに全員を守ってもらえるようにするため、ってところでいいか?」


 俺がそう言うと、雨柄は驚いた顔をしていた。まあ、姉さんの考えることは大体読めるのでこんな回答が出来るんだが。


「チッ、そちらも随分と頭の回る生徒がいるもんだなぁー。まあ、いいさ。そういうことなんだが、協力してもらえるか?」


 雨柄が秋世にそう言った。秋世はしばし考えているようだったが、まあ、頷くだろうな……。むしろ拒否する理由はほとんどない。

 確かに保護する面々が増えるのは困るが、それ以上に一般人に被害を出すほうがまずいことぐらい秋世にも分かっているはずだ。


「ええ、いいわ。でも、貴方にも手伝ってもらうわよ?」


 まあ、その辺は向こう側も許容範囲だろう。頼んできているんだから当然だ。


「ああ、分かってる」


 雨柄のその言葉で、この日の裏方会議は終わった。


 気づけば、もう、夕食の時間が近くなってきているな……。

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