68話:ロビーSIDE.D
あたしは、紳司と分かれると、鷹之町第二高校の集合場所へと向かう。まあ、ぶっちゃけ、ロビーでの集会をサボったところでどうと言うこともないんだけど。
……てか、今思い出したけど、あたし、シャンプーとリンスとボディーソープと洗顔と……とかもろもろが入ったやつを間違えて紳司のバッグに入れちゃったのよね。後で取りに行こうかしら?いえ、持ってこさせましょう。
あ~、てか、力使った所為でメッチャダルいんだけど……。今は、制服に戻ってるけどさ……。
てか、あの衣装転換って、あんま役に立たないわよね。例えば、風呂入ってるときに敵に襲われて咄嗟に……とか?あたし別に裸で戦ってもいいと思ってるしなぁ……。え?痴女ですって?そうですけど、何か?
それにしても、目がどうのこうのって言ってたけど、どうなってんのかしら?あたしは、スマホを出して、軽く見てみる。
「わぁ……」
これは、アレだわ……。流石に、ちょっと隠せないレベルの色合いの変化だわ。何で紳司はツッコまなかったのよ!
いい感じにイタいカラコンをつけた時の淡紫になっていたわ。えっと、【零】の眼だったかしら?一体、何だってあたしにこんなものが……。
「有るとしたら、先祖に【零】の眼を持った人間がいた、と言うことか?」
グラムがそんな風に言った。なるほどね……。そういう可能性はあるけど、でもあたしの知る限りの先祖にはいないから、もっと前ってことかしら。
「蒼刃に縁のある【零】の眼の持ち主は、……いや、まさかな」
何が「まさかな」、よ。はっきり言いなさいよ。何なの、その中途半端な感じは?そういうのが一番腹立つのよ。言いたいことを明示しなさいな。
「いや、何。確か、七夜の人間が蒼刃の縁者と婚約したことがあった気がしてな……。確か、七夜零斗、と言ったか?」
――トクン
あたしの胸が跳ねる。何、この感じ。まるで、その名前を知っているかのような、そんな……。
零斗……。光……。燦ちゃん……。零祢……。呉菜……。光燐君……。燦檎ちゃん……。呉零……。深兎君……。
知らないはずの名前が頭の中を交錯する。あたしは、知っている?
蒼子さんや蒼衣父さん、火々璃母さん。知らないはずなのに、知っている。あたしの父さんと母さんは、王司父さんと紫苑母さんのはずなのに、されど蒼衣父さん、火々璃母さんと言う2人が頭に浮かんでいるわ。正確には、ほとんど顔は覚えてないけど、名前だけは出てくる。
まあ、名前しか出てこないのは蒼衣父さん、火々璃母さんの2人だけ。
「その、七夜零斗って何者なの?」
あたしは、微かに震えた声でグラムに聞いた。思念ではなく、口に出してしまっていることすら気にしなかった。
「確か……暗闇の暗殺者、と言ったか?」
――トクン
と再び跳ねる。あたしは、その人を知っている。
全てを無にするために、要人を暗殺してまわった最強の暗殺者。そして、八斗神闇音の婚約者。
「なるほど、ね」
あたしは、どこか、この京都での一連の出来事を経て、あたしの力の一片が甦るのではないか、と思うのよ……。
ロビーの端、あたし達の高校の集まる場所には、全員が揃っていたわ。おそらくあたし待ちね。しぶしぶ、気配を消して、あたしは列に入り込んだ。
「まだ揃わないのか?」
えっと、誰だっけ……?ああ、確か教頭だっと思うけど、まあ、どうでもいいわね。そいつがそんなことを言った。
「えっと、篠宮、青葉に連絡は?」
雨柄がはやてにそう言った。そういえば、スマホに着信があったみたいね?てか、現在進行形でまたかかってきた。
「えっと、でません……」
はやてが申し訳なさそうに言ってるわね。それがちょっとかわいそうだから電話にでてあげましょう。
「もしもし?」
あたしが電話に出ると、はやてが嬉々とした顔で雨柄に言った。
「あ、暗音ちゃんが電話にでました」
そんな風に報告して、あたしに電話で話しかけてきた。
「暗音ちゃん、どこにいるの?」
どこにいるのって言われても、ねぇ。貴方の後ろによ、って。
「どこって、ここだけど?」
あたしは、軽く手を挙げ、主張した。あたしのその行動に、周囲がどよめいた。それに注視して、全体があたしがいることに気づく。
「ふぇ?」
はやてもあたしに気づいたらしい。ったく、この程度で驚くなんてまだまだね。
「さっきからここにいたけど、何よ?」
あたしがそう言うと、周りは騒然としていたわ。ま、来たのは今さっきだし、気配を消してたから誰も気づいてなかったけど。
「お前いつから……、あー、まあ、いい。えっと全員そろいました」
雨柄は追及するのが面倒になったのか、言葉を適当に切って話を進めたわ。英断ね。まあ、あたしの所為でごたついたことにはちょっと申し訳ないとは思ってるけど……。
「はい、それでは、今から、各部屋ごとに鍵を配るので、部屋の2人の内の1人が鍵を取りに来てください」
はやてが鍵を取りに行った。その隙を見て、あたしは鷹月のところへ行ったわ。一応、こっちを任せたんだから、結果ぐらい聞かせとかないとね。
「鷹月」
あたしが声をかけると、鷹月は振り返った。鷹月は、少々不思議そうな顔であたしのことを見ていた。
「何よ?」
あたしが問いかけると、鷹月は、やはり不思議そうな顔であたしのことをジーッと見ている。
「いや……、本人かどうか一瞬分からなくなって驚いたんですよ。目の色も違いますし……」
ああ、そういえば、【零】の眼の状態なんだったわね。でも鷹月以外は誰も聞いてこないし、どうなってるのかしら?
「ああ、これ?【零】の眼ってのよ」
あたしは一応、名前だけ教えておくことにしたわ。別にこの目に関しては隠しておくことでもないでしょうし。
「零?」
よく分からなさそうに首を傾げる鷹月はどうでもいいとして、まあ、報告はしておくとしましょうか。って、暇そうにしてる雨柄もいるじゃない。あいつ、マリア・ルーンヘクサを知ってたってことは、多少なら裏に関わってるんでしょ?ウチの部の顧問でも有るし。
「雨柄」
さらに雨柄にも呼び、あたしと鷹月と雨柄で、話をすることにしたわ。コレなら、話は進むでしょ?
「何だ、青葉」
面倒くさそうに寄ってくる雨柄。鍵の受け渡しはいろいろと面倒らしく、向こうは大分時間がかかっているのだから話す時間はまだあるはずよね。
「念のために、ね。まず、さっき外にいた市原家の人間は全員追っ払ったわ。たぶん結構強いほうだから警戒したほうがよさそうね」
雨柄は話が分かっていないみたいね……。まあ、ざっと説明してあげましょうか。そこまで難しい説明はしないし。
「単純に言うと、あたしら《古具》使いを殺そうとしている奴等がいて、それがさっき来たから警戒したほうがいいわよってこと。
雨柄は《古具》使いじゃないにしても裏の関係者で有ることには違いないでしょ?マリア・ルーンヘクサ……《終焉の少女》についても知ってたくらいだから」
あたしの言葉に、雨柄は渋い顔をしたわ。どうやら厄介事が舞い込んだことが嫌で仕方ないようね。
「まあ、向こうの学校も手伝ってくれるでしょうから、その辺はあんたがどうにかしなさいよ、雨柄」
あたしの言葉に、首を傾げた雨柄。そういえば、向こうの学校のことを知らないのかもしれないわね。
「向こうの学校ってのは、なんて学校なんだ。ここの予約に割り込んできたからただの学校じゃないのは分かってたが……」
雨柄がそんな風に言った。なるほどね、ただの学校ではないとは思ってたのね。それだけでも上出来よ。
「三鷹丘学園高等部よ」
その言葉で、雨柄が目を見開いた。どうやら、知っているらしいわね。てか、この反応、知り合いでもいるのかしら?
「なるほど、なら対処は向こうに任せるのが得策だろう。何せ、あの天龍寺秋世が務めている学校だからな。まあ、本人が来ているかは分からないが……」
天龍寺秋世って、確か……紳司の新担任で、生徒会顧問とか言ってたわね。なら、来てるんじゃないの?紳司がいるのに、その担任がいないのは考え難いもの。
「おそらく居るわね、その天龍寺秋世とか言う人。まあ、知り合いなら、その人と連携してどうにかしなさいな。でも、こっちの《古具》使いの人数とか名前とかを明かさないでいたほうがいいわね。
そのほうが、誰を守ればいいのか分からなくなって、結果として全員守ってくれるでしょうから」
あたしがそう言ったのには、2つ理由があったわ。1つは今説明したのの通り。そしてもう1つがあたしと紳司の関係性を疑られないため、よ。
あたしと紳司の関係性ってのは、無論、姉弟だろうが、なんだろうが繋がりがある、と言う意味での関係性よ。
あっ、繋がりって言っても性的直結したかどうかではなくて、情報的に繋がりを持っているか、ね?
まあ、冗談はさておき、繋がりがあると、妙な疑心感を抱かせる原因につながりかねないのよ。それはできるだけ回避したほうがいいわ。仲間同士で疑りあってもいいことはないからね。
「ああ、了解した。俺は、まあ、とにかく、向こうの天龍寺秋世と連絡を取ってみるさ。ってぇこったから、まあ、主だったものは青葉に一任する。俺はあくまでサポート役として行動する」
まあ、サポート役でも何でもいいけど、役に立ってよね?
とか、そんな話をしている間に、鍵の貸し出しが終わったようね。はやてがこっちにやってきたわ。さぁて、と、部屋に戻ってゆっくり休むとしますかね。
最近2日に1話ペースになってしまっているのが悩みです。
どうにか1日1話に戻したい……。
PS.ポケモンORはじめました!