65話:襲撃SIDE.D
バスを降りると、外に整列していく。遠くに、別のバス群が見えた。アレが、金の力で7階から13階に泊まる学校ね。ったくどんな学校なんだか……。しかし、どうやらそれだけじゃないわね……。
この駐車場には、うちの学校と向こうの学校以外に、何かがいるわね。そんな気配を感じるわ。悪寒って言えばいいのかしら?
おそらく襲撃よね。ったく、バスで大して寝られなかったから眠いったらありゃしないってのよ……。この気配……、近くに2人、ちょっと遠くに1人ね。おそらくちょっと遠くの1人は、向こうの学校を狙っているっぽいから、あたしが警戒すべきは近場の2人ね。
周囲を見渡して、ちょっと警戒しつつ、近場にいた鷹月に声をかけるわ。
「鷹月」
あたしの声に反応して鷹月がこちらを見た。あたしは、鷹月の耳元で囁くように伝えるわ。
「敵が2人。おそらく、不知火の言ってた市原家の奴等ね。あたしはそっちの対処に行くから、ここは任せたわよ。もし、気配を消せる奴がいたらあたしが向こうへ行った隙に、あたし等が確認してない生徒が狙われるかも知れないし」
そういうと、鷹月は神妙な顔で頷いた。それを確認したあたしは、気配を消し、周りのメンバーにバレないように列を抜け出して、敵の方へと走る。
――ゴウッ!
瞬間、右方から何かが飛んでくる気配がしたので、あたしは、上体を後方へ反らし、未確認の何かを避ける。
それは炎の塊だった。って、危なっ!こんなん当たったら火傷するわよ?いや、まあ、普通は火傷じゃすまないんだけどね?
「危ないわねっ!」
あたしは、炎の塊が飛んできたほうではなく、あたしの前方を見た。気配はそちらにあるのよ。
「ほう、攻撃に惑わされずに、正確に俺の位置を掴んでいるとは。姿が見えないはずなのによくやる」
……馬鹿なのかしら?姿がくっきりハッキリ見えてんだけど……。まあ、いいわ。とりあえず、この男、たぶん市原裕太でしょ、長男の。
「さぁって、と」
あたしは、裕太(敵だし呼び捨てでいいわよね?)の方へ一歩踏み出す。その瞬間に足元からあたしの服装が変化する。
漆黒のドレスへと。まるで、闇に塗られたかのように全身が漆黒に染まる。黒いシルクの腕を覆う手袋、黒いタイツ、黒のヒールの靴。オフショルダーのフリルのあしらわれたドレス。頭の黒薔薇の飾り。黒い十字のイヤリング。……装飾品が増えてる気がするんだけど?
「《古具》?!」
裕太が驚きの声を上げる、けど、そんな暇が有るなら、きちんと避けなさいよね!そう思いながら裕太に蹴りを入れる。
「ただの蹴り……っ?!」
ただの蹴りだと侮ったみたいね。当然のことながら、あたし黒いヒールの全体に触れた瞬間に切られるわよ。
「市原裕太、よね?」
あたしは裕太に問いかける。まあ、誰であろうと、あたしの中ではコイツは裕太ってことになってんだけどね?
「ああ、そうだ。まさか、位置を特定されて攻撃をされるとは思っていなかったが……。この反応、《古具》使いで相違ないな。やはり、放っている雰囲気が独特すぎる。
去年みたく有名な人物を片っ端から狙うよりも確実だ、ということか?」
なるほど、去年不知火が狙われたのは、地位的に有名だったかららしいわね。で、その近くにいた十月はそれに巻き込まれた、と。
「しかし、今回は、凄いのが釣れたようだな……」
そう呟く裕太。ハッ、釣られたですって?馬鹿じゃないの?とりあえずあたしは、背後からこっそり狙っている気配に対して、高速で回し蹴りを入れる。
――ヒュン
空気を切る音が聞こえた。どうやら避けたみたいね。気配を凄く薄めた女性がそこに膝をついていたわ。……紳司なら惚れるレベルの美女ね。
おそらく長女の市原結衣ね。てことは、向こうの学校の方には三女の華音が向かっているんでしょう。
「馬鹿なっ、《影に形は無い》を使っている結衣に気づいたのか?!」
へぇ、忍び、ね。だから気配があんなに薄かったのね……。まあ、それでも普通に分かったけどね?
「あいにくとあたしは、気配に敏感でね。そっちは得意なのよ」
あたしの言葉にきょとんとする2人。何かおかしなこと言ったかしら?
「馬鹿な。得意、で済まされるレベルではないぞ」
「それこそ、特異ね」
上手いこと言ったつもりかっ!
「ったく、面倒ね……。別に、人には得意不得意ってもんがあって、それを否定される覚えはないんだけど?」
まあ、常人には、天才のあたしのことが理解できないのかも知れないけど?あたしにとっては普通のことなのよね。
「結衣」
裕太が結衣に目配せをする。どうやら、あたしの気を引いて、その隙に裕太が特大のを決めるつもりなんでしょうね。
「チッ」
あたしは地面を蹴る。するとそこから黒い斬撃が生まれて結衣に向かう。結衣は、咄嗟に避けたわね。まあ、当たらない程度に加減してあげてるんだけど。
「今の斬撃、それが《古具》の能力?」
結衣があたしに問いかける。何で敵に素直にバラさなきゃあかんのよ?そんなお人よしじゃあないっての。
「さぁて、どうでしょうね」
無数の斬撃を撃ち飛ばす。結衣はそれを避けるので手一杯ね。でも、まあ、そろそろ裕太が攻撃を仕掛けてくる頃合でしょうね……。
でも、2つの近づいてくる気配があるし、まあ、裕太の攻撃はあの子がどうにかしてくれるでしょうから。
「貰ったっ!《五行は我が手に》!」
巨大な水の塊と土の塊と炎の塊とが、あたし目掛けて飛んでくる。しかし、あたしは、ニヤリと笑う。
「あら、それはどうかしら?」
そのとき、3つの塊を「光の矢」が貫く。そして、3つの塊は塵のように消え去った。裕太の目は見開かれた。
「馬鹿なっ、他の敵は華音が止めているはずじゃ」
あら、そう、あの子は華音って子と対面したのね……。見た目に惑わされずによくやったわね。おっぱい1つで揺らぐから……。時々、妙な女にだまされるんじゃないかって心配になるレベルよ……。
「さてと……、そろそろいこうかしら?」
地面を蹴り、周囲にクレーターを生み出す。って、あ、ここ駐車場なんだっけ?まっ、いいか。
「《黒刃の死神》」
まるで、あたしの言葉に呼応するかのように、クレーターとなった地面から無数の黒刃が現れる。
それは、全てを切り裂く刃神の力。
「刃神グラムファリオ、いえ、宵闇に輝く刃の獣の力、特と味わいなさい」
その言葉に、裕太と結衣は震え上がった。まさか、グラムファリオのことを知ってるわけじゃないでしょうけど、ただ、無数の黒刃には流石に恐れをなすわよね。
「あの目、まさかっ」
目?唐突に何なのよ?そんな風に思っていると、何故だか、目が熱く感じた。まるで誰かの意思が宿っているかのように暖かい。
グラムが掠れる声で呟いた。
「【零】の眼、だと……」
何なのよ、【零】の眼って?絶対遵守の?って、そのゼロじゃないわよね?
「眼の一族、と呼ばれる一族がいて、な。天月。そう呼ばれる一族には、古くから魔眼を持つ者が多くいた。
例えば、天月流元は【一】、その婚約者の威瑠菓は【九】、その娘の沙龍は【六】、息子の雨龍は【四】。沙龍の息子の沫雪は【三】、その息子の驟雨は【五】、その娘の狐嫁は【二】。雨龍は秋雨月霞……先代の《終焉の少女》だが、との間に秋霖と言う息子が生まれ、その子は【四】。ちなみにだが、秋雨月霞の父の天月洞元も【一】だったらしいがな。秋霖は、一ツ橋七恵と言う【七】の女と結ばれて日照雨と言う【八】の子を儲けている。それにその四人の子供は廿日翼紫が【廿】。喜雨が【四】、夜叉が【八】、小夜とが【廿】、と引き継いだ。
その他にも子々孫々、それぞれが【邪】や【紅】、【淫媚】、【宵】、【詠】など多くの眼を持っている。それゆえに眼の一族、などと呼ばれている。
その多くある眼の中で、危険度が高いのが【零】の眼だ。姫埜が持って生まれると言われているが……」
ぶっちゃけ、どうでもいいので聞き流してたけど、裕太も結衣も全然動いてないわね……。てか、眼を見ただけで、それが判断できるってことは、あたし、今どんな目してんのかしら?
「あ~、ったく、何なのよ、この【零】の眼ってのは?」
あたしのその発言で、止まっていた2人が動き出す。やっと我に返ったみたいね。全く、戦いの途中に気を抜くとかアホね。今ので、あの子と、もう1つの気配、おそらく華音が大分近づいてきたわよ?
てか、広いわね、ここの駐車場。
「ぐっ……、結衣、一旦引くぞ!」
「分かってる」
2人は、咄嗟に引こうと、あたしから距離をとる。させると思ってるのかしら?
「ユタ兄、ユイ姉!」
あら、追いついたみたいね。美少女が現れたわ。華音って子でしょうね。
紳司、偉いわ。貴方がこの子に惑わされずにキチンと戦ったことに、今、あたしは激しく感動を覚えているわよ!
「色欲魔が来る!」
……、訂正。思い切り惑わされてたわ。てか、紳司、色欲魔って何したらそんな風に呼ばれるのよ?
「おっぱい揉まれた~」
兄姉に抱きつく妹。ああ、なるほどね。揉んじゃったのね、紳司。……、我が弟ながら、大丈夫かと心配になるわ。
4日ほどお休みさせていただきましたが、今日から復活です!(たぶん)
お休みの理由は、控えさせていただきますが、あたしの人生に関わる選択でした!いえ、ガチで、ね?