63話:襲撃SIDE.GOD
俺が、ノイズを注視していると、七星佳奈が声をかけてきた。どうかしたのだろうか?俺は、振り返る。
「貴方、あれに気づいていますね?私は手を出しませんから、貴方がどうにかしてください。私はこちらであまり剣を振りたくないですし」
そんなことを言われた。つまり、七星佳奈もあのノイズに気づいているってことか?さすがというかなんというか。
「でも、流石ですね。殺気だけで場所が特定できるとは……」
殺気だけ?何を言っているんだ?あんなにもはっきりとノイズが視認できるってのに……。
「あのノイズが見えていないのですか?」
俺は七星佳奈に聞いた。しかし、やはり見えていないらしい。
「何のことかしら?」
そういえば、俺は、春秋宴の《存在の拒絶》に関しても違和感やノイズが時々……。つまり、俺だけってことか?
「なるほど……。まあ、俺だけで対処しますよ」
俺はそう言うや否や、列をそろりと抜け出し、ノイズの走るほうへと足を向けた。どこか見に覚えの有るような感覚に少し気になった。
そして、駐車場の路面にチョークで書かれたマークを見た。塗りつぶされた丸を囲むように多重の四角形がズレて重なっている。
どこかで……。俺は、スマートフォンを取り出して、その模様を写真を撮った。そして思い出す。この形、……、天姫谷がシャワー室のタイルに書いていた模様だ!
「なるほど、結界か……」
なんて言ったっけな。確か、律姫ちゃんがなにやら言っていたような……。
「《守りは命》っつったか?」
なるほどな……。つまり、この図形を崩せばいいのか。なら、チョークだし結構簡単に消えるな。
俺が模様を消そうとした瞬間、殺気が近づき、何かが忍び寄る気配を感じた。
「チッ!」
俺は、咄嗟に後ろに身を引く。すると、俺の眼前を何かが掠めた様な気配があった。蹴りか、拳が、武器か。その判断は出来なかったが……。
ノイズ、違和感。そこから、位置を算出し、そこへと手を伸ばす。って、あれ、よく考えたら全身トゲ装備でもしてたら俺の手がやばいことになるよな……。
しかし、引っ込めるのも間に合わず、俺の腕は、吸い込まれるようにノイズの中心よりやや上に伸びた。
――ぷにゅ
おぅふ、よりにもよって長女が三女の方か……。そうだよな、この感触……。てか、俺は何で透明化している女子の胸を揉むことが出来たんだろうか……。宴の時といい今といい。
「あ~、その、なんだ?スマン」
俺は姿の見えぬ女性に謝った。すると、その少女の姿が見えてきた。その少女は、わなわなと震えていた。
「そ、そんな、結界の中は認識の外へ出ているから誰もここへは来ようとも思わないし、この中を認識できないはずなのに……」
あ、胸を揉まれたことじゃなくて結界が破られたほうに、わなわなしてたのね……。よかった……。
「そういえば、天姫谷の方に貸してたとき、見破られたって報告が……。確か、普通に全てを認識していた女がいたって……」
そう言って俺を見る。どう見ても俺は女には見えないよな。それにしても、たぶんそれ、姉さんのことだよな。そうか、俺はノイズや違和感だけど、姉さんは完全に認識できるのか……、せこっ!
「まあいいわ」
そう言って少女は俺が未だに胸を揉んでいることに気づき飛びのいて、短剣を構えた。俺はというと、もう少し揉んでいたかったという名残惜しさを感じつつも少女に向き合った。
「えっと、……市原華音さん?」
俺の問いかけに、少女は顔をゆがめた。どうやら当たりらしいな。
少女、カノンちゃんは、ユノン先輩に似ている。漆黒の髪をゆるふわセミロングにしている。髪の毛はさらさらで滑らか。姉さんと違ってキチンと手入れしているに違いない!ヤバイ、ちょっと触ってみたい。
目もパッチリ大きくて、睫毛も長い。付け睫毛なんかじゃなく天然物だ。黒の瞳は綺麗だった。
鼻も高く、唇は赤い。多少化粧をしている感じがするので、口紅を使っているのだろう。白い肌、されど頬は薄桃に紅潮していた。
小顔、と言えばいいのだろうか。全体的に顔が小さいのだが、それでも目が大きいのが分かる。
スタイルもそれなりにいい。というか、普通にスタイル抜群だ。あれは、きっと将来、ユノン先輩以上になるに違いない……。
至極端的に言ってしまえば「超美少女」なのだ!
「だ、」
「だ?」
「抱きしめてもいいですか?」
……。無言で殴られた。
「いえ、違うんです。違うんですよ?別に性的な意味ではなく、そう、人形を愛でるというか、犬を愛でるというか、そう言った感情に近い行動であって、決してその胸を鷲掴みにして揉みしだいたり、その豊満な胸に顔を埋めたりなんてことは思っていませんよ?」
敬語になっていた。いや、だって、ねぇ?
「性的に見られないというのもそれはそれでムカつくんだけど」
そんなことを言うカノンちゃん。いや、だって、ねぇ?
「いえいえ、全く性的な目で見ていないというわけではなく、でも、小学生をそんな目で見たら犯罪じゃん?」
と、そんなことを言ったら、またも無言で殴られた。何で?!
「私、中3なんだけど……」
グリグリと俺の胸に拳を押し付け、地味にダメージを与えるカノンちゃん。ホント、地味に痛い。
「す、すみませんでした」
なるほど、ユノン先輩とは3歳差か。それにしては小柄だな……。しかし、俺とは2歳差……。
「何なのよ、あんた……」
呆れられたようなそんな目線を感じた。いや、しかし、な。この可愛さ、姉譲りとでも言うべきか。
「ああ、思い出した。どこか嫌な感じがすると思ったら亞っちゃんに似てるのよ」
亞っちゃん?誰だそれ?
「ああ、市瀬亞月。ウチの分家にいたのよ。私より2歳年上だった」
亞月?……それに「いた」だと?どういうことだ?
「《人工古具》を作るうえで2人の人間が犠牲になっているのよ……。1人は市原結音。私の母よ。そして、もう1人が市瀬亞月。享年13歳」
亞月が死んでいる……?しかも、俺等と別れてから3年後に、だと……。俺のカノンちゃんに対する緩々な感情はふっとんだ。
「待て、犠牲ってどういうことだ?」
俺は思わず声を荒げて聞いた。一応、幼馴染といえなくもない亞月が死んだというのだから声を荒げないほうがおかしいが。
「《人工古具》はね、《古具》を持っていると使えないのよ。正確には、《古具》を持っている人が《人工古具》を持つと、その瞬間に死ぬか、暴走状態に陥るの」
死ぬか暴走するか、ってどんだけ危険なものを作ってるんだよ!
「母さんは即死。亞っちゃんは暴走して、ユノ姉が殺した」
ユノ姉……、おそらくユノン先輩のことだろう。つまり、暴走した亞月をユノン先輩が殺した……殺すしかなかったのだろう。
「亞月は、死んだのか……。そうか……」
俺は思わず呟いてしまった。するとカノンちゃんが怪訝そうに俺の顔を覗きこんだ。なんだろうか?
「あんた、亞っちゃんのこと知ってるの?」
ああ、なるほど。そういう話か。俺は、ハァと息を吐き出し、気持ちを切り替える。そして、カノンちゃんに教える。
「ああ、知り合いだ。小学校のときによく遊んだよ」
俺がそういうと、カノンちゃんは、多少考えるような仕草をしてから言う。
「確か、亞っちゃん、一時期関東の学校に行っとったんよね……。もしかして、」
カノンちゃんが思い至ったらしい。
「ああ、その通り、俺は、亞月が転入してきた小学校の生徒だ」
俺の言葉にカノンちゃんは「やっぱり」と得心のいった顔をしていた。しかし、カノンちゃんの攻撃は止んでいるがどうするか。このまま逃げるのも手の1つだが……。おそらく、向こうのバス。俺達以外のバスの方にも刺客が向かっていることだろう。
「チッ、亞っちゃんの知り合いともなると討つのは考え直しかな……」
そう言って、カノンちゃんは、再び結界の奥に引っ込む。が、俺は、その直後、カノンちゃんの胸を鷲掴むのだった。
「……」
無言の回し蹴りが飛んできた。軽く避けるが、おそらく走って逃げられてしまった。まあ、ノイズで位置が分かるので問題はないのだが……。
「しかし、まあ、あの方向、別の学校のバスが有る方向だよな……」
はてさて、ということは兄との合流か、姉との合流か、どっちともとの合流か。なんにせよ、追いかけたほうがいいかも知れないな。
まあ、なんにせよ、カノンちゃんのおっぱい、柔らかかったなぁ……。
と、そんな風に耽っている場合ではないな。とっととカノンちゃんを追いかけて胸を揉む……じゃない、カノンちゃんを追いかけて未然に犯行を防がなくては!
「待ってろよ!」
俺は、ダッシュでノイズを追いかける。結界の中に足を踏み入れたのだった。特に何の異常もなく、追いかけていく。
「しっかし、……ふむ。妹がアレなら市原会長の姉さんはどんなんだろう」
すっごく気になる。きっと美しいに違いない。おっぱいもこう……バインバインで……、ザ・美人って感じなんだろうなぁー。