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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
58/385

58話:プロローグSIDE.GOD

 俺、青葉(あおば)紳司(しんじ)は、明日から修学旅行である。行き先は京都。三鷹丘学園は一学年でも充分に大人数になっている。何人か欠員もいるけれど、ほとんど参加することを考えると、色々と移動するのが面倒だから、行きは飛行機を貸しきって関西空港まで飛んで、そこからバスで移動する予定になっている。ちなみに、飛行機の席は事前に決めて、俺の隣は静巴になっている。ちなみに前はクラス担任の席なので秋世の席だ。その隣は空席。秋世は、「《古具》関連の話がしやすくていい」って言っていたけどな。


 ちなみに、宿泊は、「楽盛館(らくせいかん)」という高級旅館でするらしい。秋世と静巴の親が手回ししてくれたらしいな。


 先ほどから言っている静巴は、花月(かげつ)静巴(しずは)。機械開発で有名な花月グループの跡取り娘で、今年編入してきてすぐに生徒会書記に任命された。


 秋世は……、まあ、天龍寺(てんりゅうじ)秋世(あきよ)。特に説明することはないな、うん。


 俺の宿での部屋番号は706号室。部屋の前が階段という移動に楽な位置に部屋が取れた。同室は静巴である。


 そう、静巴なのだ。男女で相部屋というのはいささかどうかと思うが、秋世が「いいんじゃないの?紳司君も静巴に手ぇ出したりしないっしょ?」とか言ったことにより受理されたのだ。


 まあ、俺も毛頭、静巴に色々する気はない。合意の上でやるのが俺のもっとうである。だから一回も経験ないんだよ、とか言ったの誰だ!仕方ないだろ!小心者なんだよ!


 まあ、などという話は置いておいて、男女で同じ部屋になる以上、俺は、それなりに対策をするつもりではある。例えば、シャワーが完備されているので、シャワー室から出てきた静巴とバッタリ、なんて事がないように、シャワーを使うときは、事前に俺に言うかシャワー室に札をかけておくことをルールにする、とかな。

 まあ、実際問題、俺は、夜にはこっそり抜け出すことが多くなるだろう。初日は紫炎(しえん)との約束で明津灘(あきつなだ)家へと行かなくてはならないし、二日目は律姫(りつき)ちゃんとの約束で冥院寺(みょういんじ)家に行かなくてはならない。


 紫炎(しえん)とは、明津灘(あきつなだ)紫炎(しえん)のことであり、修学旅行の一週間前に起きた、《聖王教会》のトリスタンとガウェインが襲ってきたときに、俺と一緒にいた所為で巻き込まれた女性だ。俺と同じ三鷹丘学園の2年生である。


 律姫(りつき)ちゃんとは、冥院寺(みょういんじ)律姫(りつき)ちゃんのことであり、俺が《古具》に目覚めた切欠ともなった天姫谷(あまきたに)螢馬(けいま)との戦いの寸前まで食事に行っていたため巻き込む形になってしまった少女だ。俺の後輩で三鷹丘学園の1年生。水泳部に所属している。


 2人と奇妙な約束をしたのは、2人の実家が京都にあることと、俺が《古具》に目覚めていることに関係している。


 ちなみに、だが。俺が《古具》に目覚めていることを知っているのは、今のところ姉さんと律姫ちゃん、天姫谷、紫炎の4人だけなんだよな。

 生徒会のメンバーであるユノン先輩、ミュラー先輩、静巴、秋世は、まだ俺の《古具》の能力はおろか、目覚めていることすら知らないはずだ。一回目に能力を使ったときは、近くに律姫ちゃんと天姫谷、天姫谷の手下しかいなかったし、二回目に能力を使ったときは、紫炎と一緒に《古具》で対抗していたけど、秋世の《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》の光が見えたときには、俺は《古具》を引っ込めていたから。


 おっと、話が逸れたな。えっと、2人と妙な約束をした理由について、だったか。まあ、2人とも実家が京都に在って、実家が《古具》使いを欲しているとかどうとかで、それに関係しているんだろう。

 まあ、部屋を抜け出すときに静巴にどう言い訳をするべきか、今の内に考えておくべきだよな。見つからずにいけるのがベストなんだが……。


 秋世はチョロいから簡単に騙せるんだが、いかんせん、静巴は妙に鋭いし目端が利く。いや、秋世もところどころ鋭いんだがな。どの辺が、かと言うと、俺の考えていることが読める当たりだ。おそらく、だが、俺の父さんやじいちゃんの相手をしてきたことで、俺の考えていることを顔から読み取れるようだ。


 秋世も何だかんだ言って美人なのである。が、性格が残念すぎるので残念美人というカテゴリーだろう。

 見た目だけで言えばミュラー先輩が一番よく、次に静巴、ユノン先輩、秋世がそれぞれ同じくらいである。ちなみにミュラー先輩よりも姉さんの方が美人。

 性格を考えると静巴が一番よく、次にミュラー先輩とユノン先輩が同じくらいで、秋世が最下位。姉さんを混ぜたら、姉さんは秋世より下である。

 あくまで俺の主観であり、他の人から見たら評価は全然違うのかもしれないが……。


 そんなことはどうでもいいので、この話は横に置いておくが、まず、部屋を抜け出した後、どうするか、ってのは、まあ、紫炎や律姫ちゃんと相談するにしても、戻ってくるときも考えておかなきゃならないよな。施錠時間なんてものがあったら入れないし。

 まあ、財界や政界の大物が利用するだけあって、おそらく24時間取り次ぎをしてくれるだろうとは思うのだが。


 その他にも考えなくてはならないことがたくさんある。そもそも、向こうに着いたら市原家の人間に襲撃されるかもしれない、という情報をくれたのが姉さんであって、肝心のユノン先輩からは何も聞かされていないというのが一番の問題だと思うのだが。


 というわけで、俺は、現在、生徒会のメンバーを秋世を含めて全員呼び出している。集合場所は、生徒会室だ。


 呼び出してから数秒。眩い銀朱の光とともに、秋世が現れた。相変わらず便利な能力である。《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》は瞬間移動能力だからな。まあ、俺は、タクシーとして利用させてもらっている。


 しかし、今日は一段とお洒落な格好をしているな……。真っ赤なドレスだった。真っ赤、というより真紅(しんく)のドレスだった。腰元に赤薔薇のコサージュがあしらわれたものだ。


「何の用よ。一応、これでもパーティーに出席中だったのよ?」


 そう肩を竦めて呆れる秋世。しかし、本当に綺麗だな。意外だ、意外すぎる。これは、一応褒めておくべきか。


「すまなかったな、忙しい中。それと、似合ってる。綺麗だ」


 俺の顔から、本心であることを悟ったのか、秋世は頬を真っ赤にしていた。ふむ、褒められなれていないのだろうか?


「来たわよ」


 そのとき、ユノン先輩が生徒会室に入ってきた。学校に用があったのか、制服を着ていた。どうやら、学校に向かっている途中に集合の指示を見たようだ。


「って、あら、先生、顔が真っ赤ですけど……。てか何ですか、その格好」


 ユノン先輩の指摘に、顔が真っ赤な秋世は慌てて答えた。


「ち、違うわよ。これは、お酒の所為よ、お酒の!」


 何に対して違うと否定したのかは分からないが、まあ、お酒の所為で顔が紅いらしい。昼から飲むなよ。


「何よ、昼から酒飲むなって顔して……。パーティーにゃ、ワインも普通に置かれてるのよ。飲まないほうが失礼よ。まあ、子供にはジュースが配られるけどね」


 そういうもんなのか?まあ、パーティーなんて行くことはないんだろうから別にいいんだが。


「それで、なんのために呼び出されたのよ?」


 ユノン先輩が俺に聞いてきた。俺は、少し溜息交じりに言う。


「まだ全員揃ってないので、もう少し待ってもらえますか?」


 まだ、ミュラー先輩と静巴が来ていないのだ。その言葉に秋世が目を丸くしていた。そして、俺に言う。


「あれ?もしかして静巴も呼んでた?あの子、私と同じパーティー会場にいたわよ?」


 何と使えない教師なのだろうか。そのくらい考えて、つれてきてくれてもいいだろうに……。


「何よ、コイツ使えねぇなみたいな目で見て……。分かったわよ、つれてくるわよ。つれてくればいいんでしょ!」


 秋世が銀朱の光とともに消えた。と思ったら、また銀朱の光とともにやってきた。僅か数秒だった。


「つ、つれてきたわよ」


 そう言って秋世がつれていたのは、静巴だった。いつも静巴とは違い、化粧をして着飾った綺麗な静巴だった。


 真っ赤に塗られた唇、アイシャドウで際立った大きな瞳、薄く紅潮した頬。頭には、蝶をかたどった髪飾りがしてある。紫のドレスは、背中が大きく開いた扇情的なデザインだった。


「お……、おぉ……」


 俺は言葉が出なかった。大人っぽい格好の静巴は、いつもの可愛らしさとは違い、俺の胸にグッと来た。ギャップ萌えという奴だ!

 これは、ヤバイ。目に焼き付けておくべきだ、と脳が咄嗟に判断するレベルに良かったのだ。


「どうかしましたか、青葉君?」


 静巴が俺に向かって話しかけてきた。いつもどおりの敬語。それが、今の大人っぽい見た目では一層大人っぽく聞こえてしまう不思議!


「お、おぅ、その、何だ。……に、似合ってるな。てか、うん、似合ってるな」


 何を言っていいのか分からず、何か無理やりいいところを答えているようになってしまった。もっと、こう、言葉で表せない言いたい言葉がいっぱいあるんだよ!


「どうやら、この格好、結構気に入ってくれたみたいですね?」


 俺の杞憂もなんのその、静巴は俺の本心が分かったらしい。まあ、今の俺は、俺史上類を見ないほど顔に出てるからな。


「あ、ああ」


 ヤバイな。俺も秋世のことを言えないくらいチョロいのかも知れない。しかし、そんなことより、静巴がエロ可愛い。


「ちわーっす!」


 そのタイミングでミュラー先輩がやってきた。ミュラー先輩は私服だった。露出の高い極ミニスカート、露出の少ない上の服。そのアンバランスさが逆にいい。特に、ミュラー先輩は足が長いスラッとした体型だからミニスカートから除く生足が……ごくり。


「ねぇ、シンジ君、何の用?てか、こっち2人は何でおめかし(メイク)してるの?」


 俺は、ミュラー先輩のその言葉でようやく本題を思い出したのだった。危ない危ない。静巴の色香に飲み込まれるところだった……。


「ああ、そうだった。今日、ここに集まってもらったのは、まあ、本題として関係しているのは、俺と静巴、秋世、市原先輩なんですが、一応ミュラー先輩も呼ばせていただきました」


 その言葉に、みんなが首を傾げた。まあ、最初の3人だけなら修学旅行の件って分かるがユノン先輩が追加されれば分からなくなるよな。


「市原先輩、お聞きしたいのですが、京都で、今、貴方達《古具》使いにとって大変なことが起きていますよね」


 俺達、ではなく、あえて貴方達、と表現したのは、前述の通り、俺が《古具》に開花していることを誰も知らないからだ。この場でそれを追及されても面倒なので、それを避けるために、あえてそういう言い方をしたのである。


「っ……」


 ユノン先輩は、息を呑んだ。俺が知っていたことに驚いたのだろう。だから、俺はあえて、踏み込んで聞く。


「市原裕太(ゆうた)。市原結衣(ゆい)。市原華音(かのん)。この三人が活動している、違いますか?」


 市原家、長男の市原裕太(ゆうた)。長女の市原結衣(ゆい)。三女の市原華音(かのん)。この三人が《人工古具(オーパーツ)》を持っていることは、天姫谷との戦いの前に律姫ちゃんから聞いていた。名前は、姉さんが天姫谷兄妹から聞いたらしいけど。


「どうしてそれを?」


 ユノン先輩は真剣な顔で聞いてくる。俺は、姉さんのことを伏せるとして、それ以外を打ち明ける。


「冥院寺律姫。ウチの学園の一年生です。彼女からの情報と、今帰省している天姫谷螢馬の2人からの情報ですね」


 俺の言葉にユノン先輩が意外そうな顔をした。ちなみに律姫ちゃんを呼び捨てにしてしまった何とも言えない感覚がある。


 天姫谷螢馬が帰省中というのは、一応休学扱いで実家に戻っているからだ。ウチの学園では、そう言ったことも認められており、休学中にテストが行われる場合、教師がテストを持って行きテストを受けさせ、点数が低い場合は、補習も行うという規則だ。研究などが忙しい特殊な生徒がいるから仕方のない規則らしい。


「冥院寺……、それに、天姫谷……。なるほどね……。そこからの情報かぁ……。ったく、紳司の情報網は広すぎね」


 だいぶナチュラルに俺の名前を言えるようになったユノン先輩。しかし、まあ、俺の情報網ってのはあまり広くはないんだが……。むしろ、狭く深くって感じだよな。


「まあ、その通りよ。ウチの人間が京都で《古具》使い狩りなんて事を始めて、京都は結構危険な状態にあるのよ。言うか言わないか、だいぶ悩んでたけど……、まあ、バレたならしかたないわね。

 危険だからこそ、まあ、先生はともかくとして《古具》の能力が不明な花月さんも《古具》に目覚めてない紳司も狙われないし、喋って逆に見つけて倒そうなんて考えられても困るから黙ってたのよ」


 まあ、そんな無謀なことはしないけどな。突っ込むなら姉さんと一緒に突っ込むだろうし……。


「まあ、詳しいことは説明できないんだけどね……。説明できないってか知らないのよ。こっちに出てきてからは向こうと連絡取ってないし。詳しいことは何も。ただ、《古具》使い狩りをしているってことだけは聞いていたけどね。去年は会ってないし」


 どうやら、ユノン先輩は説明しなかったんじゃなく出来なかったっぽい。しかし、まあ、ウチの学年には、狙われる恐れがあるのが3人もいるんだ。警戒のために情報くらい流してもらいたかったもんだ。


 無論、狙われる恐れがある3人は俺と静巴と紫炎だ。教師を含めたら、秋世も入れて4人になるんだが……。


「教師を入れると4人、かしら?狙われるのは」


 秋世が言った。正直、秋世が紫炎を認識していることには驚いたが、さすが伊達に年喰ってないと言ったところか。


「何か、とてつもなく不本意な視線を感じたんだけれど。まあ、私を含め、教師が2人。未開花だけど紳司君、開花してるけど詳細不明な静巴。これが襲われる可能性のあるメンツよね」


 訂正、紫炎のことを認識しているわけではなかったようだ。使えないな。まあ、教師にもう1人、《古具》使いがいる、と分かっただけマシか。


「教師にもう1人って誰だ?」


 俺の問いかけに、秋世は、「あれ、言ってなかったっけ?」と首をかしげながら答えた。前置きいいからはよ答えろ。


桜麻(さくらま)由梨果(ゆりか)先生。私の前に紳司君の担任だった先生よ。前任の生徒会顧問でもあるけど」


 なぬ、あの人、《古具》使いだったのか?初めて知ったぞ。ってことは5人じゃないか。まったく、この学園は《古具》使いが多いな。


「じゃあ、5人だな」


 俺が言うと、皆、きょとんとした顔をした。しかし、ユノン先輩だけは、何かを悟ったようだった。


「なるほど、明津灘の子ね」


 どことなく親しみのありそうな言い方だな?向こうはユノン先輩のことを「市原会長」と呼んでいた気がするが。面識が以前にもあったのか?


「ああ、あの子とは昔、私がまだ市原の家の人間だったころに仲良くしていたのよ。『ゆの姉ぇ~』って呼んでくれて、よく懐いてたわ。1歳しか違わなかったけど、ほんとしーちゃんは甘えん坊だったから。

 まっ、そんなことは、とっくに忘れてたし、見た目も全然変わってたから、前回はほとんど初対面みたいな感じになったけどね。先週の木曜日に偶然、彼女が部活に行くところにバッタリ再会して思い出したのよ」


 そんな会話をしながら、修学旅行前日が終わっていく。


 そして、明日から、怒涛の修学旅行が幕を開けることを、俺はこのとき、仄かに予感していたのだった。

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