52話:裏方の会話
SIDE.RAIN
ったく、面倒なこと抱えやがって……。なんて、俺が言えた義理じゃあねぇか。まあ、ガキの探し人は青葉に任せとくとして、俺は俺で、奴を追うとしようか。あんとき、あいつが逃げんのをわざと見逃した青葉は、俺がいたの分かってたみてぇだしな……。
ハァ……、これだから頭の回る奴は嫌ぇなんだよ。しかも、それが年下で教え子ってぇのが辛ぇよなぁ……。
あぁん?俺が誰か分かんねぇ?まあ、そうかもな……。改めて名乗ろうか……、いんや、今まで名乗ってもねぇんだけどよ。
俺は廿日雨柄。その、なんだぁ?青葉や篠宮、小暮の担任てぇいやぁ分かるか?
もしくは、《古代文明研究会》の顧問って言ってもいいかぁ?まあ、名ばかり顧問ってやつで、全然関わっちゃいねぇがな。
まあ、嫌なもんは、とっとと終わらせんのがいいか……。
俺は、タバコの煙をフッと吐き出すと地面に落として足で消す。音雨の奴からもタバコは身体に良くねぇから止めろて言われてんだけどなぁ、どうにも止められねぇな。
「よぉ~、お前さんが今回の黒幕かぁ?」
俺は、そこに佇む真っ黒な髪の女児に声をかけた。ああ、ありゃ、将来、きっと美人に育つに違いねぇな。しっかし露出しまくりだなぁ。こっちも一応教師なもんで、子供の将来を考えて助言しなきゃなんねぇわけよ。
「あぁ~、念のために教育者として言っておくが、そんな露出の多い服を子供のうちから着るのはよくねぇと思うぜぇ」
その言葉を聞いた女児は笑った。どうにもおかしな感じだぜ。中身と見た目がちぐはぐってか?教師やってっと、その辺の見る目は良くなるもんだぜぇ?
「貴方も、私が見えるのね……。おかしな人たち。でも、どこかで見たような……?」
どうにもおかしなことを言う女児だ。見た目は小学生だが、口調は全然小学生らしからぬというか……。
「……っ、雨罪?!」
あぁん?誰だそりゃ?ってまあ、俺のひいじいさんの名前なんだが?この女児、ナニモンだぁ?
「待ちなさい、何であんたがこんなところにいるのよ?《罪深の魔法使い》っ!」
魔法、使い?何言ってんだ?小学生が中二病を発症しているのか?ったく、面倒な……。そもそも、魔法使いってなんだよ、魔法使いって。
「でも、《罪深の魔法使い》だからと言って、私が見えるわけじゃないわよねぇ。何が……」
何って言われてもなぁ。たぶん、目、だろうぜ。こんなしょぼくれたオッサンだけど、人とは違うとこがある。それが、目だ。
「【廿】の眼、か。なるほど、廿日の……、そして、眼の一族天月と死の一族雨月の力、それらが集まった結果、目覚めたのね」
【廿】の眼ってのか、こいつは。確か、音雨は【四】の眼ってやつだって言われてたしな。俺のは良くわかんなかったらしいが。
ちなみに、今、この女児の言った雨月ってのは、俺の家の親戚だ。それと九龍ってのもある。
雨月は知らんが、九龍はこの近辺に家が有るらしい。まあ、行ったことはねぇどころか交流すら一切ねぇんだがよぉ。
「悪ぃが俺は廿日雨柄だ。雨罪はひいじいちゃんだぜ?」
俺の言葉に驚いたように女児が眼をまんまるにした。もともとでっかい眼がさらに大きく見開かれた。
「そっくりすぎて気味が悪いわねぇ。はぁ……キモ……」
キモってゆーな、キモって!なんだ、この女児。
「しかし、私が秋雨月霞だった頃の怨敵だったから、まあ、一言で言えば嫌いよね。あんたのこと」
「初対面なのにか?!」
俺は思わず叫んでいた。いや、初対面の女児に嫌われたらそりゃ叫ぶだろ、教員だもの。教師が子供に嫌われてどうすんだよ?
「チッ、しゃーないわね。あんたのひいじいさんと私の因縁について、ちょこっと話してあげましょう」
そう言って女児は語りだした。悠々と夢のようなおかしな話を。
SIDE.MARIA
※あくまでこれはマリア・ルーンヘクサの語っている文章です。文中の「」の言葉は全て雨柄の発した言葉でマリアの言葉は「」に囲まれていません。
そうね、語らうに当たって、一つだけ注意事項として言っておくけれど、そう、あくまで私の視点であって、あなたの曽祖父がどう思っていたか、なんてことはあたしが知る由もないことよ?
そう、まあ、一つ、重要なことを言っておくなら、その頃の私はマリア・ルーンヘクサなどと呼ばれる最強最悪の魔女ではなく、九頭龍の巫女と呼ばれる由緒ある秋雨の血統であり、あんたの曽祖父とは親類であった、ということよ。
ああ、心配しないで、親類、と言っても直接の血縁関係はなかったわ。単に、私と雨月羽龍の子である雨月秋霖が一ツ橋七恵との間に生まれた雨月日照雨。その日照雨の二人の夫のうちの一人が、あんたの曽祖父、廿日雨罪だったってだけよ。
もう一人の夫、廿楽菊花は「廿」を冠する己が家の名を捨てて、雨月として。あんたの曽祖父は、「廿」を冠する己が家の名を持ち続け、廿日として。
それぞれ子をなすのだけれど、4人のうちの1人が貴方の祖母、廿日翼紫。残りの3人が菊花との間に出来た子等で、喜雨、夜叉、小夜と名づけられたわ。
まあ、子供の名前、なんていうのは予備知識程度に考えておいて。しかし、でも、余談に過ぎないのだけれど、一人、私の力を持ったものに呪われた九龍彩陽って子は、まあ、ある意味必然だったのかも知れないわね。あの子達は、弟だ何だ、って言う共通点で勝手に見極めをつけてしまったみたいだけど、まあ、本当に必然、あるいは偶然なのだから仕方ないわね。
しかし、彼女は、私の血縁でもあった。だからこそ、彼女は、私の力に引かれた……いえ、ブリュンヒルデこそが私の血縁に引かれた、とでも言うべきかしら。
「一つ、質問いいか?」
あら、なにかしら?別に質問ならいつでも受け付けるわよ?
「何を言っているか、さっぱり分からないんだが、何なんだ?」
あら、だから、あんたの曽祖父と私の因縁について、だけど。ここまで前提と蛇足、余談でかなり時間を取ってしまっているけれど、その事実に関してはキチンと伝えていたわよね?
「いや、そういう意味の分かんねぇってことじゃねぇが、まあいいか。続けてくれよ」
何か嫌に適当な対応ね。まあ、いいわ。それで、まあ、九龍彩陽に関しては、さっきも名前をだした小夜の子孫よ。小夜の子の幾魔がスライムとの間に産まれた幽魔。
「スライム?ってーとあれか?あのRPGだと雑魚中の雑魚の?」
実際遭遇すると結構強かったりするものよ。まあ、そのスライムとの子、幽魔は九龍沙綾って言う九つの龍を殺し呪われた一族の娘と結婚して綾花って子を産んだの。綾花は心優しい子でね、一人の子を養子として預かったのよ。名前を雨月無限。襲名した名前は「夢幻」。名匠、六花神が手がけた8本の刀の一本、夢月【縁】を持った若き天才。一族抹殺事件で生き残った2人の雨月のウチの一人よ。
一族抹殺を謀ったのは、親類の天月果林って女だったわ。まあ、綾花はそんな養子の子が巣立つと同時に、誰との間に出来た子かは知らないけど彩陽を産んだ、というわけよ。だから、遠縁だけど私と彩陽は血が繋がっているってこと。
「まあ、どうでもいんだがよぉ~、俺のひいじいさんの話がどっか言っちまってんだが」
ここからよ、あんたの曽祖父との因縁はね。
あれは、私が九頭龍の巫女として龍の気を静めていたときの話よ。一人の男が、龍の祭壇に立ち寄ったの。ヨレヨレのローブを着たオッサンだったわ。てか、ローブを着たあんたよ、あんた。
「俺?って、ああ、つまりは、それが雨罪ひいじいさんだったってわけか」
そうよ、まったくもってその通り。あのクソ野郎、私を見て、おエッロい巫女さんだこと。巫女って神聖な存在でしょ?そんな格好でいいの?とか言ってきたのよ?
誰が好き好んで禊で濡れたままの服でいるってのよ。儀式中だからに決まってんでしょうが!
「巫女ってどこからどう見ても巫女には見えねぇんだが」
そりゃ、私はマリア・ルーンヘクサだからよ。巫女だったのは秋雨月霞なんだから、違うに決まっているでしょう。
秋雨月霞のプロポーションは、ボンキュボンなんて言葉じゃ表せないわよ。
「っと、悪ぃな、俺の発言で話が逸れたな。続けてくれ」
何よ、メンドクセェ女だな……、みたいな目で見て。まあ、あんたが続けろって言うなら続けるわ。だから、そんな目で見ないでって。
そうね、まあ、巫女として気を静めるとか言っても分からないでしょうから、そこから少し補足しておこうかしら。
九頭龍の巫女は、秋雨家に生まれた女の宿命とも言える役目よ。秋雨の家に女として生まれた時点で、それは九頭龍の巫女であるのよ。
九頭龍、と聞いて、あんたは何を想像するかしら?
「そりゃ、まあ、日本人だったらヤマタノオロチじゃねぇの?」
アホね。ヤマタノオロチは九頭龍ではなく八頭龍よ。ヤマタノオロチ……八岐大蛇のマタは八つの峰、八つの谷にまたがるほど大きいってところ岐を表してるのよ。ほら、二股の道って何本よ。二本でしょ?それと一緒よ。八つの首と八つの頭、八つの尾があるのがヤマタノオロチよ。
「え?マジで……?」
マジよ。てか、あんた、どっかの昼寝と射的とあやとりだけが得意の小学生と同じこと言ってるのよ?
「あんな青狸を頼る様な奴と一緒のこと言ってんのか、俺」
まあ、あんたのことは置いとくとして、まあ、九頭龍、有名なもので言えば八大竜王のナンダとかヴァースキとかそう言ったのね。
「いや、聞いたこともねぇが?」
八大竜王くらいは知っているでしょ?そうよ、仏教の。まあ、そのほかにも、九頭龍はいくつもいるのだけど。
その中に、昔の私の故郷、秋雨の里【茜秋村】の【茜秋神社】を中心に九つ龍脈が流れ、そこに封じられた九頭龍がいたのよ。
その龍脈の活動を静める巫女こそ秋雨の女、九頭龍の巫女だったのよ。