50話:休日のお買い物
唐突ながら、あたしは、はやてと修学旅行の消耗品を買いに行くことになったわ。修学旅行の一週間と一日前。つまり今日が8日前ね。日曜日ということもあって、前々から計画していたのよ。《魔剣》こと《存在しない剣》を持った少女の襲撃から2日後の今日、あたしは、その子の目的である「明日咲現水の家族探し」をサボっていた。だって、そう簡単に見つかるとは思えないし。
まあ、修学旅行前には片付けたいから明後日あたりに紳司でも引っ張ってきて無理やり探させるかな……。
そうこうしているうちに待ち合わせをしていたはやての姿が見える。
今日は紳司を同行させていないわ。あたしは別に構わないけどはやてなんかは体裁を気にする子だから、あまり男子連れで動くことをしないのよね、友則は別だけど。
そもそも、今日買いに行く消耗品とは、いわゆる「生理用品」や念のために「下着」、というそう言ったものを買いに行くわけであって、そうなると一層はやては男連れを嫌がるでしょうね。
そういったこともあって、前もって紳司には「はやてと生理用品含め買いに行くんだけど、あたしは良くてもはやては良いって言わないと思うから、今回はダメ」と言っておいたわ。紳司はちょっと残念そうにしていたけど。てか、残念そうにすな。
あ~、あとついでに、紳司をからかおうと「そういえば、あたしはナプキン派だけど、はやてってタンポンかしらナプキンかしら。あ、でもキツイ日は、あたしどっちもするし、どっちも買っとくってのもいいわね。一応、重い日とは重なってないから大丈夫だと思うんだけど……」なんて話をしたら全力でスルーされた。
あたしは月の真ん中に来る……んだけど、今月はちょっと早かったのよね。環境の変化で結構変わるって言うけど、《古具》使いになったからかしら?正確には《古具》に目覚めたから、っていいかでいいのかしら?
といつまでも「女の子の日」の話なんてしててもしょうがないから、あたしははやてに声をかける。
「おはよ」
あたしが声をかけると、のほほ~んとしたはやてがぽわぽわしながら振り返った。どうやらまだ眠いらしいわね。
「おはよ~」
半分寝惚けているはやての今日の格好は白のワンピース。それとブーサンね。ブーツサンダル、ブーツっぽいサンダルね。色は白ね。全身白ファッション?それ汚れが目立つからあんま着たくないんだけど。ほら、ワンピースだとひらひらして地面とか壁とかについて汚れるのよね。
一足早い夏ファッションって感じよ。
「あれ、暗音ちゃんは、今日、てゆーか、いつもそんな感じのファッションだよね?
もうちょっと気を遣ったら?せっかく可愛いのに」
はやてにそんなことを言われた。ちなみにあたしの私服は、黒のシャツにデニムの短パン、白に赤のラインの入ったスニーカーって感じよ。
「気ぃ遣えっつっても、何着ろってのよ?」
実際問題、紳司にあたしに似合う服を聞くと「姉さんなら何でも似合うよ」と言われるので、母さんの買ってきたものを適当に着てるわけだけど。
「ドレスとか似合うんじゃない?」
ドレスとか、普段着にならんでしょーに。普段からドレス着て歩いてるなんで、どこのお姫様よ。頭おかしい奴じゃないの?
「あたしは普通の服でいいわよ。妙に着飾ったのはあんま性に合わないし」
そら、着飾るときは着飾るけど、普段から着飾るのは面倒って話よね。ほら、結婚式はウェディングドレス、成人式は着物とか、そう言ったやつじゃきちんと着るんでしょうけど、普段からってのはねぇ?
「そう?暗音ちゃんならフリフリの服とかいいと思うんだけどなぁ~」
ふりふりって……。あたしあんま好きじゃないのよね。いや、ほら、フリルでもさ、うっすーい生地のネグリジェとかあるじゃない。あの透けてるやつよ。あーゆー、もう、完全にほとんどマッパと変わらないよ、みたいのだったらいいんだけど、何か着てるとあんま落ち着かんのよね。だったらまだ、肌に密着してるようなズボンとかの方がいいのよね。こう、自分の身体にくっついてるのに自分の感覚で把握できないってのが嫌いなのよ。
「まあ、似合うかどうかはさておき、ちゃっちゃと買いに行きましょうか。ホントは荷物多くなりそうだから男手が欲しかったんだけどね」
下着も生理用品も買い込むと結構かさばるのよね。あたしは、別によく持ってもらってるから紳司に持たせてもなんら問題はないんだけど……、
「だ、ダメだよぉ~。し、下着を男の子に持ってもらうなんて、は、恥ずかしいし……」
ぶんぶんと首を横に振る。ついでにおっぱいも揺れるわ、ワンピースの裾は捲れ上がるわ……。周囲の男がたった今はやての下着を見ていっただろうけど、これでも持ってもらうのが恥ずかしいのかしら?ちなみに白。ホント全身白色コーデね。
「ちなみに、その白いショーツってさ、友則の好み?」
あたしの言葉に、はやてが真っ赤になった。
「さぁて、んじゃ、まあ、買い物に行くとしましょうか?」
真っ赤になっているはやてを引っ張って進む。
下着売り場にやってきたわ。前に紳司と来たときは、ちらちらとあちこちの下着に目をやってたわね。今あたし達がいるランジェリーショップは、ショッピングモールの中に入っている店だけど、店の奥に、完全個室の専用試着室があって、そこは割りと広い上に鍵完備、呼べば店員が一から懇切丁寧に教えてくれる、と評判の店よ。
「ん~、どうしよ……」
はやては下着で迷っているらしい。まあ、友則が白のショーツが好みってんだからね……。白ってあんまりこういった店にないのよね……。ないことはないんでしょうけど。どちらかというと大人っぽいセクシーなものが多くて、清楚とか子供っぽいのは置いてないわ。
「超透け下着・カラー:白」ってのはあるけど。マジでスケスケね。あと「極紐パン白」ってのもあるけど。ま、ほぼ紐だから白い紐なんだけどね。そう、この場合の紐パンとは紐で結ぶタイプのパンツのことではなく、紐でできたパンツである。てか、こんなん履いてる奴いないでしょ……。いないわよね……?
後は柄物が多いからねぇ。白ってのは無理じゃないかしら。単色なら赤、紫、黒が多いわね。他のもいっぱい有るんでしょうけど。って、あ、白あった。あら?意外とあっちこっちに、でも色違い系列で並んでるやつね。あっ、でもこれエロカワイイ。
「うわっ、これ、ちょー布少なっ」
そうやって物色するあたしとは違って、どれも納得いかなさそうに見るはやて。う~ん、はやてもスタイルいいからなぁー。おっぱいはそこまでないけど。
「いいなぁ~、暗音ちゃんは、セクシーなのが似合って。私は全然だもん」
……、その胸で何を言うか。確かに、あたしと比べりゃないけど、それでも充分なもんよ。
「つってもねぇ……」
はやては、一応純真無垢を売りにしているわけだし?あえてギャップで黒とかいってみるのもいいんじゃないの?ほら、あんなに純真な子が色っぽい黒の下着を着けてたらグッと来る、みたいな?
「あのぉ~、お客様ぁ~」
そのとき、店員の少し可愛子ぶった甘ったるい声が聞こえたわ。ちょっとイラっとくるやつね。あの、紳司を前に必死にアピールする奴等みたいな?
「お客様ぁ~、下着をお求めでしょぉ~かぁ~?」
ウザイ。てか、下着をお求めでないのに何故ランジェリーショップに入るんだってことになるから下着をお求めなんですよ。
「はい。でも自分にあったものが分からなくて」
はやては素直ってか、純真ってか、普通にこの店員と会話を始めたわね。その辺はある意味流石よね。
「それではぁ~、試着室でぇ~、ちょこっと試着してみましょぉ~かぁ~?」
はやてとあたしの背中を押して、ぐいぐいと試着室に押し込む店員。超ウザイ。店員が客の気持ちを蔑ろにして強引に試着室に引っ張り込むとか、強引な勧誘をして引きずり込む水商売の店と一緒よね。
噂に違わず広い試着室で、あたしとはやてが入っても大分余裕があるわ。更衣室をイメージしてもらえれば分かりやすいかも知れないわね……。
大きな鏡には全身がすっぽりおさまる。ふむ……、どうすればいいかしら?とりあえず、脱ぐ。
「お客様ぁ~……って準備いいですねぇ~。でもぉ、わたしが入るときに外から丸見えになってしまうのでぇ、なるべく扉の前に立ったままで脱ぐのはぁ~、やめていただけるとぉ~、うれしいですぅ~」
あ~、なるほど、外に見えんのね。まあいいんだけど。
「別に構いやしないわよ」
あたしがそう言うと店員がパンと手を打って言った。
「ああ~、露出狂の方ですかぁ~」
ぶん殴ろうかと思ったけど、否定できないのでやめたわ。年中全裸で家の中をウロツキ、かつ、別に下着で外に出ても構わないという考えを持っている女は、まあ、露出狂よね。百歩譲って家の中はいいけど、下着で外に出たら捕まるっつの。
「ええ。まあ、そうね。それで、お勧めの下着は?」
「残念ながらクロッチオープンやトップレスブラは置いてないので……」
「誰がそんなもん求めてるっつたっけ?!普通のもってこい!」
いや、まあ、露出狂ならそんなもの探してるのかな?って思ったのかもしれんけど……。あいにくと修学旅行のときに使うのよ。そんなもん持ってけるかっつーの。
「あぁ~でしたらぁ~、う~んとぉ~、黒と紫、どっちがいいですかぁ?」
黒か紫ね……。
「黒がいいわ」
「黒ですねぇ~。じゃあ、これなんてどうでしょぉ~」
店員が出してきたのは、薔薇の刺繍っぽいのがあしらわれた黒い下着セット。ふむ、悪くないわね。
「ふむ……」
あたしは早速着けてみる。中々にいいけど、サイズが合わないわね……。小さいわ。もう一サイズ大きいのが欲しいわね。
「もう一個でかいのある?」
あたしが言うと店員が「まぁまぁ~」と声を上げた。
「一般的なサイズなんですけどねぇ~。もう一個大きいとEカップになっちゃいますよぉ~?」
うげっ、またでかくなったんか……。正直邪魔なのよねぇ……って言うとキレられるし、別に邪魔ってわけじゃないけど、重いわよねぇ。まあ、だからこそちょっとキツメにしてるんだけど、流石にこれだと小さすぎよ。
「う~ん、微妙ね。オーダーメイドとかにすりゃピッタリなんでしょうけど、高いし。まあいいわ。もう一個大きいサイズの持ってきて」
「えぇ~、ですけどぉ~Eって、数が減ってきちゃうんですよねぇ~。まあ、まだあるほうですけどぉ~」
そういうことよね。しかも高くなってくるし。サイズがないと数がないだけじゃなくて、色とか模様とか柄とかも全然減ってくるのよ。まあ、もっと大きい人だと国産のじゃ全部ダメで、海外で扱ってるような奴になって、しかも可愛い柄ないとかって悩みが有るらしいから、この程度で済むだけましよね。
ちなみに水着はもっと酷く、しかも海外の水着のセンスはいまいちで、微妙で無難なものを選ぶしかない、ってことらしいわよ。あと水着の中でも上下くっついてる競泳水着とかだと、多少の伸縮性があるから着れないことはないけどかなりキツイとかそもそも着れないとかあるらしいわね。その所為で、結局ビキニしか着れないとか……。
あたしはまだギリギリ着られるくらいよ?たぶんね。着たことないからわかんないけど……。
「ホント、大きいって困りものよね。ねぇ、はやて。はやて?」
気がつけば、はやてがぷるぷると震えていた。な、なに?あたしのおっぱいが大きいからって怒ってんの?
「そ、そんなことより、早く中に入ってきて扉を閉めてください!」
はやてが叫んだ。ああ、そういや、入り口のとこでずっとやり取りしてたけどドア開けっぱだったわね……。