48話:考察の時間
あたしの出番って、毎回別の奴に掻っ攫われてるわよね……。まあ、いいわ。あたしは、あたしは、微かに感じる違和感を胸に、グラムに問いかける。
(ねぇ、グラム。筆頭騎士とか《終焉の少女》とか言ってたけど、それって何なの?)
全く訳分かんないのよね。【終焉の少女】も説明してるようで全然説明になってなかったし。意味不明すぎるわ。
「う、うむ……。奴等のことはあまり口にしたくないのだが」
そう言って口渋るグラム。何よ、いつも訳分かんないことペラペラ喋るくせに、今日はやけに喋りたがらないわね。
(何よ、そんなに喋りたくないわけ?)
あたしの言葉に、グラムはギチギチと刃を鳴らす。どうやら、喋れないわけではないらしい。
「仕方ない。話してやろう。しかし、その前に、根本的なことを聞くが、魔性という言葉に聞き覚えがあるか?」
魔性?普通、その字は、別の読み方をする。
「魔性じゃなくて?」
あたしみたいな女のことを魔性の女という様に、魔性には、「人を惑わす」や「悪魔みたいな」ということを表すのよ。
「やはり知らぬか」
そう唸るグラム。何よ、知らないのが悪いってか?無知は罪とでも言いたいのかしら?別に知らないことが悪いわけじゃないでしょ。説明しなさい。
(何でそんな上から目線なのよ?ま、いいわ。とっとと説明なさい)
あたしの文句に、グラムがしぶしぶと言った様子で語りだす。
「神の属性、あるいは神の加護を受けた性質をなんと言うか、分かるか?」
グラムの言葉に、あたしは、一瞬で答えを導き出す。すぐに思い至った。て言うかまんまよね?
(神性じゃないの?)
あたしの言葉に、グラムはキンキンと音を鳴らしながら頷いたのだろう。あたしは、溜息交じりにグラムに続きを促した。
(それで?)
あたしの促しにしたがってグラムは言う。
「その神性と対となるのが魔性だ。元来、この属性は、持つものなぞいない属性だ」
持つもののいない属性?どういう意味よ。神と対立する何かなら、そう例えば悪魔とかは宿していそうなものじゃない?
(悪魔は違うの?)
あたしの疑問に、グラムは言う。
「悪魔は悪魔だ。何も宿していやしないさ。《魔神》ですら神性を持っている。だから誰も持っていない。しかし、神が神性を持っているのに、その対になる物が存在しないとどうなると思う?」
対になる物がないとどうなるかって?そりゃ、バランスが……、あっ、そっか。
(なるほど、均衡が保てなくなんのね?)
あたしの言葉に、グラムは満足したようだった。何でこんなまどろっこしく話してんのかしら?
「つまり、そう言うことだよ。神性の対がなくて世界のバランスが崩れないように、神性を持つ全ての力の合計と同じ分の魔性を一人の少女に宿した」
なるほど、それが……、
(それが《終焉の少女》ってわけね)
あたしの言葉にグラムは頷く。
「その通り。そして、神話の逆側に位置する《終焉の少女》が持つ剣こそ《存在しない剣》であり、彼女の罪こそ《八つ目の大罪》である。
そして、死んでも魂は次の《終焉の少女》へ引き継がれ続ける。一度《終焉の少女》になれば、永遠に逃れることの出来ない。
でもな、本来なら、《終焉の少女》の力は、一人しか持つものがいない。今で言うならマリア・ルーンヘクサだ。
しかし、実のことを言えば、《終焉の少女》の力を持つものは複数確認されているんだ」
は?いないはずなのに複数確認されているってどういう意味よ?意味不明なんだけれど……。
「【黒騎士】と呼ばれる騎士、神から神性を奪われて地に堕ちた戦乙女、神の手によって造られた未完成の人形。特に後ろ2つ、第五楽曲魔境神奏・第五典神醒存在【炎柱で眠る姫騎士】と第一未完成人形は、現役で生きているからな。
【黒騎士】は死んだが……、奴の逸話は大量にある」
なんか、また、よくわかんないのが出てきたけど、まあ、とりあえず今はスルーしておきましょう。
(それで、まあ、《終焉の少女》については分かったけど、マリア・ルーンヘクサと筆頭騎士は謎のままじゃない?)
あたしの言葉にグラムは、少々渋る。そんなに言いたくないことなのかしら?それとも別の理由?
「マリア・ルーンヘクサは偏屈な少女だった。森の奥の家に篭り誰とも交流を持たない、一説には魔女、一説には悪魔、一説には死神。周囲では不幸の象徴として扱われたものだ。まあ、それも魔性を持って生まれた《終焉の少女》の転生体ゆえか」
なるほど、それがマリア・ルーンヘクサね。それで、もう一人、日本人っぽい名前の方は?
(ナナホシ=カナは?)
あたしの言葉に、グラムが答えた。
「筆頭騎士、天龍騎士と呼ばれた日本人の転移者だ。その力の強さは最強ともいえる。あくまで騎士として、だがな。それでも七星にふさわしい力の持ち主だったよ。
いや、だったという言い方には御幣があるか。今でも生きているはずだからな。まあ、どこで何をしているやら。昔、アメリカで宿主が死ぬ直前に会ったことがあったか?
そういえば、《死古具》を持っているといっていたか……。《殲滅の斧》を持っていたか?」
《死古具》?《古具》とは違う何かなのかしら?ったくややこしいわね。
(何よ、《死古具》って)
あたしの苛立つ声に、グラムはしぶしぶ説明をする。
「ダリオス・ヘンミー。蒼刃蒼天と競っていた男だ。あいつも今やどこにいるやら。まあ、奴が蒼天をまねて作った4つの武器、それこそ《死古具》。剣、槍、斧、鎚の4つだ。
今、剣を持つのが青葉清二、槍を持つのがダリオス、斧を持つのがナナホシだとすれば、鎚も誰かが持っているのだろうな」
青葉、清二……?清二おじいちゃん?
「青葉清二、奴は蒼天の直系だからお前の親戚か?《切断の剣》と《殺戮の剣》。その2つを揃え、《蒼天の覇者》の剣である《蒼王孔雀》を手にしたのだからな」
おじいちゃん、何やってんのよ?まあ、いいけど、今度は《蒼王孔雀》って何よ?専門用語多すぎよ。
(《蒼王孔雀》ってのは?)
あたしの疑問の声に、グラムが答える。
「前に言った、戦争で神の座へと至った3人の持つ伝説の剣。その中の1つが《蒼王孔雀》だ。蒼天が持っていた大剣だな。
《緋王朱雀》というのが、最高峰の回復能力を持っていた少女、緋葉の託された大太刀だな。
《琥珀白虎》。最強の武神である天辰流篠之宮神初代、篠宮無双の託された大太刀に見える二刀仕込刀だ」
篠宮?随分とありきたりな名前ね。あたしの知り合いにも同じ苗字の人間がいるくらいよ。無論、はやてのこと。
「中でも無双は、……、いや、この話はやめよう。背筋が寒くなる。まるで、お前と向き合っているときのようにな……」
最後のは悪口かっ?
流石に向き合うと背筋が寒くなる、なんてのを好意的に取れるほどポジティブに生きちゃいないわ。
「蒼天の馬鹿、緋葉の良識、無双の天才だからな。まあ、尤も、馬鹿と天才は紙一重だ、ということがよく分かったが。あの3人なら、どいつもコイツも、ある意味天才で、ある意味馬鹿だったんだろうな。
例えば、蒼天は、人のために動く天才ではあったが頭脳はいまいちだった。というか馬鹿だった。
例えば、緋葉は、その医療、治療、回復の技術は天才であったが誰彼構わない治療馬鹿だった。
例えば、無双は、頭脳も武道も全てにおいて天才だったが、後先考えないことに関しては馬鹿だった。リスクを承知の上で、それで面白くなるなら、という理由で攻撃を仕掛ける、アホ女だったらしいな」
へぇ、なるほどねぇ……。
と、そんなことを話している間に、7時を過ぎていた。
「十月、予知」
あたしは、十月に投げやりに指示をしたわ。すると、十月が予知をして、5箇所の位置を指示した。
「ひがしまちのこうえん、みなみまちのじゅうたくがい2ちょうめ、ひがしまちからえきへのみちのり、えきまえ、きたまちのさんかんじ」
東町の公園と、南町の住宅街2丁目、東町から駅への道のり、駅前、北町の参貫寺。駅前で暴れられてたまるかっつの。
「じゃあ、十月は行きたいとこに。あ~、東町の公園担当と駅前担当は悪いけど、東町から駅への道のりを半分ずつ担当してね。あとは、それぞれ」
そう指示をする。あたし達は4人、予知したのは5箇所。正しい指示のはずよね。そして、十月が選んだのは……、
「みなみまち2ちょうめ」
つまり、一番危険なのが南町2丁目ということかしら?少し遠くて、北のやつは確実に助けに入れないわね。
「じゃあ、あたしは東町の公園」
「では私は駅前に」
「えっと、じゃあ、俺が参貫寺?」
こうして、あたしたちの持ち場が決まったのだった。
たぶん明日からしばらく更新できないと思います。
明日更新していたら、テスト勉強サボって書いてるな、この人、と思ってください。




