46話:プロローグ
あたし、青葉暗音が、いつものように部活動、《古代文明研究部》に顔を出して、すぐのこと。
「さて、君たちは《魔剣》と聞いて何を思い浮かべる?」
開口一番に、何の脈絡もなくそう言い出したのは、《古代文明研究部》部長にして、大財閥、不知火財閥の次期当主、不知火覇紋よ。てか、相変わらず訳分かんないわね。
それで?《魔剣》、だっけ?
魔剣。魔剣って言っても、定義は様々あるわよね……。
例えば、《聖剣》の対になっている「魔」の力を宿した剣、故に《魔剣》。
例えば、魔法で作られた強力な剣、故に《魔剣》。
例えば、《聖剣》が何らかの影響で闇堕ちしてしまった、故に《魔剣》。
例えば、悪魔が使う剣、故に《魔剣》。
例えば、悪魔が創った剣、故に《魔剣》。
例えば、……とこんな風に、いくつも《魔剣》と呼べるものはある。それに、神話や物語の中には無数、と言っていいほどに《魔剣》が出てくるわ。
グラム、ティルヴィング、レーヴァテイン、ダーインスレイヴ、カラドボルグ、アロンダイトなどなど。
一概に、何を思い浮かべたとも言えないわね、あたしのこれは……。それと、言ってしまえば、あたし《黒刃の死神》も魔剣と言えないこともない。
「それで、まどろっこしい導入から入ってないで本題は?」
あたしは、不知火の言葉をそんな言葉で突っぱねた。面倒な導入はいらないわ。本題だけで充分だっつの。
「はなしはさいごまできく」
片言、というか、ひらがな文体で話をする、不知火の後ろに控えている女子生徒、背が割りと低く、身長は145から150センチくらい。前髪で顔が隠れているその少女は占夏十月。不知火の侍女らしいけど詳しいことは知んないわ。
「いや、いいさ。さて、《魔剣》についてだ。私が知っている《魔剣》を保有する組織は《魔堂王会》と呼ばれる欧州を中心に活動す組織だ。しかし、最近、その《魔堂王会》以外に《魔剣》を持つとされる奴がいるそうだ。そして、それが、この鷹之町付近でも確認されているそうでね」
不知火がそう言った。その言葉に、あたしは違和感を覚えた。「持つとされる奴」、と言ったということは「奴」、つまり1人だけだということになるわ。そして、そんな1人に、こんなにも警戒している、というのがどうにもひっかかる。
「そいつ、そんなにも危険なの?」
あたしは、少々真剣に不知火に聞いた。するとあたしの正面に座っていた鷹月が、疑問そうな顔で声を上げた。
「というより《魔剣》なんてものが本当に存在するんですか?」
まずはそこから、ということらしいわ。まあ、どちらかというと、《古具》も持っていたし京都の名家とも関わりがあったらしい鷹月だけれど、《古具》という言葉も知らない素人だったから仕方ないのかも知んないわね。
「少なくとも40年くらい前になるが、三鷹丘の地に《魔堂王会》の《魔剣》使いがやってきたことが確認されている。私が知らないだけで、もっと何かあるのかもしれないけどね。とにかく、その際に、この地にいた《聖王教会》の聖騎士王が《魔剣》の存在を確認しているし、欧州の方では、それ以前から《魔堂王会》の《魔剣》使いのことは話題に上がっていたらしいしね」
不知火の話を聞いても鷹月はいまいちよく分かっていない様ね。まあ、いいけど。あたしにはその分情報が入ったし。
「まあ、その話は置いといて《魔剣》を持つとされる奴が持ってる《魔剣》ってどんな《魔剣》なのよ」
《魔剣》の種類とかが分かれば対策も立てられるし、どんな奴が相手なのかも分かるかも知んないし。
「それが分からないんだ」
不知火は、言った。分からない?分かんないってどういうことよ?
「じゃあ、何で《魔剣》なのよ。剣の名前が分かんなきゃ《魔剣》なんて呼ばれやしないでしょ」
あたしの言葉に、十月が首を横に振った。どうやら、名前が分かんなくても《魔剣》と呼ばれるゆえんが有るようね。
「48にん……、それがぎせいしゃ」
48人?犠牲者ってなんの?
……待って、48人。確か先月の初めにヨーロッパのどこだったかしら?どっかで48人が崩落事故かなんかで……。
「あの崩落事故が、事故じゃなく《魔剣》によって引き起こされた、人的災害だってこと?」
あたしの問いかけに不知火が深刻な顔で頷いた。つまり、そういうことね。それってかなりヤバイんじゃ。
「一説によると【魔神】の剣、故に《魔剣》とらしい、とか」
ま、じん?まじんって魔神よね。もしくは魔人。この場合はおそらく前者。でもヨーロッパで剣を持った魔神?そんなんいたかしら?
「剣の形と色だけは聞いているが……」
そう言って不知火は、剣の絵を見せてくれた。歪な刀身。禍々しいと思うくらいに奇妙な形をした剣ね。それに、刀身は黒。だけれど、柄の方から切っ先にかけて紅い線が入っている。鍔は黄金。柄は純白。しかし、その純白の柄に血が垂れたかのようにところどころ紅い模様が入っている。
「《魔剣》ってより《奇剣》ね。そんなんで切れるのかしら?」
形が歪すぎて切れないんじゃないのかしら?そんなことを思ってしまうような刀身よ。
「これは……っ!」
そんな時、あたしの頭にキンキンと音を鳴らしながら声が響いた。元刃神のグラムファリオよ。あたしの能力と関わっていて、あたしの中にいるらしいわ。
「馬鹿なっ、《終焉の少女》の《存在しない剣》が何故っ」
どうやらグラムファリオ……グラムは何かを知っているらしいわね。しかたないから少し聞いてみますか。
(何よ、何か知ってんの?)
あたしの思念での問いかけにグラムは、ガチガチと体中の剣を鳴らして、何かに恐怖するように言う。
「恐怖……いや、畏怖か。まさか《終焉の少女》が持っていたとされる《存在しない剣》の姿を思い出すはめになるとは。気をつけたほうがいい。持ち主が魔性に呑みこまれれば、世界を破壊するなど造作ないぞ」
グラムがこれほどまでに言う相手ってのは一体……。
(そのルーンヘクサってのは何なのよ?)
あたしの問いかけに、グラムは思い出したくないものを無理に言うように、あたしの疑問に答えた。
「ルーンヘクサは最も新しい名前だ。マリア・ルーンヘクサ。【最悪の魔女】、【最後の魔女】、【終焉の少女】。そんな風に呼ばれていたな。まあ、最も新しく転生した【終焉の少女】だろう。まあ、かつてのあの女についてもあまり語りたくないがな。まあルーンヘクサの方も筆頭騎士の奴が前に酷い目にあったとか。
まあ、一つ言えるのが関わらないのが一番いい。もし関わったなら諦めろ。そんな奴だよ」
ナナホシ=カナ?日本人、よね?漢字で言えば七星佳奈、かしら?ありきたりな名前ね、苗字は特殊だけど。
(何か注意すべき点とか、分かりそうなことないの?)
あたしは、グラムに聞く。するとグラムが「あー」だの「うー」だの唸ってから言う。
「午後八時に注意しろ、それだけだ」
8時に注意しろってどういうことよ?8時に何かあるってこと?しゃーないわね。
「十月、ちょっと聞きたいんだけど、今から3時間後、午後8時って予知できる?」
あたしが聞くと、十月はこくんと頷いて、予知を始めた。しかし、あたしが何故こんなことを言い出したのか分からず不知火と鷹月は首をかしげていた。
「……っ!」
十月がなにやら予知をしてヤバイものを見たらしい。驚きの表情を浮かべていたわ。いや、よく見えんけど。髪切れ。
「なんで……」
十月が、ポツリと呟く。
「なんでわかったの?《まけん》つかいが、はちじにうごくって」
ということは、8時に何かが起こると考えていいのだろう。しかし約3時間後だ。十月の予知も鮮明ではなかっただろう。
「《まけん》だけがせんめいにうつったから、ひゃくぱーせんと、《まけん》つかいはうごく」
なるほど、確定事項なのね。あたしは、不知火の方を見る。
「ってわけで8時に動くみたいだからパトロールね。もう1時間したら十月、アンタもう一回予知して大体の場所を割り出しなさい。そこを手分けしてパトロールしましょ」
あたしの言葉に、不知火は頷いた。8時が分かった理由を聞いてこないのは、まあ、お互いに踏み込んではいけない領域があるのを知っているからだろう。
「十月、そいつと戦う可能性が最も高いのは、この中の誰だい?」
十月に不知火が聞いた。十月は、自分のことを指差した。どうやら、十月の予知では十月がそいつと戦っていたのだろう。戦えんの?
「だったら、補助に回ったほうが」
「まりか」
不知火が補助に回ると言おうとしたが、とまった。十月が一言呟いたからだ。不知火は驚愕の表情で十月を見たわ。
「どういうことだい?」
不知火の問いかけに、十月は笑う。
「たしかに、みた。わたしは、……」
それだけだったわ。
そうして、あたし達は、《魔剣》という騒動に巻き込まれていく……。修学旅行までにはとっとと片さないとね!
2014/10/19[編集]
タイトルを他の章にあわせて「魔剣騒動」から「プロローグ」に変更しました。