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《神》の古具使い  作者: 桃姫
聖剣編 SIDE.GOD
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45話:新たなる騒動へ

 盛大な遅刻をして登校をすると、どうやら、授業は秋世が担当だったらしい。黒板にカッカッとチョークで文字を書く音だけが響いていた。ミュラー先輩は、別の階にある三年生の教室へと照れくさそうにしながらとっとと行ってしまった。


 昨日は、母さんが夕飯時に一応声をかけようとしたが、俺とミュラー先輩がベッドで抱き合っているのを見て撤退した、と笑っていた。ちなみに「最近の子は手がはやいですね~」とオバサンのようなことを言っていたので、凄くイラついた。


「おはよ~ございま~す」


 俺は、シーンとしている教室に、前のドアからそんな風に声をかけながら入っていく。すると、その瞬間、秋世から鋭い殺気とともにチョークが飛んでくる。飛んできたチョークを人差し指と中指で挟み止めると、投げ返した。


「危なっ!」


 秋世がかろうじてしゃがみながら避ける。そのときに足が滑って盛大にスカートが捲れ上がったが、前のドア、つまり秋世と対面しているのは俺だけで、あとは教卓に隠れて見えなかっただろう。俺と同じく見えたであろう、廊下側縦2列横最前列にいた女子は見てしまったらしいが、一瞬、俺の顔を見ただけで、特に気にした様子はなかった。


「どこの学校に、教師が投げたチョークをそのまま投げ返すような奴がいんのよ!」


 俺の存在を全否定されてしまった。まあ、そもそも、そんなに勢いが強く飛んできたわけじゃないし。


「ここにいるが……?てか、何でいきなりチョークだ。昨日の一件で疲れてんだから無駄な体力を使わせんでくれ」


 俺の言葉に、「うっ」と言葉を詰まらせる秋世。流石に、「昨日の一件」を持ち出される、秋世も何もいえないのだろう。


「そりゃ、まあ、昨日の功労者は紳司君でしょうけど、それでも遅刻してくるのはお勧めできないことよ。てか、さっき『おはよ~ございま~す』とか言って入ってきたけど、もう昼だから。5限だから!『こんにちわ』だから!」


 秋世が、もはや後半テンション上げすぎて何を言っているのかよく分からなくなっていたが。


「せんせー、昨日の件ってなんですかー?てか、昨日、青葉とせんせーが一緒にいたってことは、そーゆー関係ってことでいいんですかー?」


 そう聞いたのは、確か新聞部に所属していた高木さんだ。その発言に秋世は、「あ~」と暫し困ったようで懐かしいように溜息とともに声を吐き出してから言った。


「ったく、新聞部ってか高木家っていっつもこんなんね……。確かに昨日一緒にいたけど、生徒会の仕事。変な関係じゃありません」


 秋世はそう言って、高木さんを静めた。妙に慣れた態度だったな……。先ほどの発言といい、高木さんの親にもあったことがあったりするのか?50年生きてりゃ、そういうことも有るんだろうし。


「っと、危ない」


 再び飛んできたチョークを避けてから秋世を見た。どうやら、またも50年生きてりゃそういうことも有るよな、的な俺の考えを読んで、「50歳50歳連呼すな」と思ってチョークを投げてきたようだ。


「ほら、さっさと席について。授業を受ける準備しなさい」


 秋世に睨まれながら促され、しぶしぶ俺は、席についた。その瞬間、チャイムが鳴り響く。秋世がこめかみをヒクヒクとさせながら、バンと教卓を叩いて言う。


「号令」


 苛立った秋世の声に、号令係は「ヒィ」と怯えながら、慌てて号令をかける。


「き、きりーつ!きをつけ!礼!」


 いつもよりだいぶ大きな声で号令をかけ、5限の授業は終わったのだった。俺は、いろいろと思い出しながら、教室を出た。なにやら静巴がこちらを見ていたようだが、あまり気にしないことにしよう。








 2年生の教室連。三鷹丘学園には1学年に単純計算で200人程度。1クラス40人で割ったとして5クラス存在する。まあ、実際は6クラス存在するんだが。

 2年A組からE組までの5クラスが通常学科。X組、通称「特科」。特殊学習クラスと言って、まあ、この三鷹丘学園において天才と称される一部の人間が所属しているクラスだ。


 全学年に共通して存在するXクラス。例えば3年生で言えば、春秋(しゅんじゅう)(うたげ)。特別免除生なので、確実にこのクラスに所属しているはずだ。他にも、1年のリュイン・シュナイザーや2年の七星(ななほし)佳奈(かな)なんか有名だ。まあ、一つの学年に2、3人しかいないのでほとんど所属している生徒はいないんだが。


 まあ、そんなX組に用はなく、俺は、自分のいるA組を出て、B、Cと教室をチラっと見て、中にいる人物を確認する。そして、D組にて、お目当ての人物を見つけて、半開のドアをノックする。


「お~い、紫炎(しえん)。ちょっといいか?」


 俺が声をかけると、D組中が俺の方を見た。いやいや、お前等、紫炎じゃないだろ……?当の紫炎は、なにやら少し慌てた様子で、さっきまで弄っていたスマートフォンをポケットにしまい、俺の方へやってくる。


 D組の女子が、ヒソヒソと俺と紫炎を見て話しているが、なんだろうか?ああ、あれか、俺と紫炎が付き合ってるかどうか、みたいな邪推だろう。


「あ、青葉君。な、なんですか……?」


 紫炎が、クラスメイト達の方をチラチラと見ながら、俺に小声で聞いてきた。それに対して、俺はというと。


「いや、昨日、話は後日ってことにしたじゃん。それで、今から生徒会室で、話をしないかなぁと思って。授業なら生徒会の手伝いってことにしとくから心配ないぞ?」


 俺の方を見て、暫し、紫炎は考える。そして、何か思いついたように、顔をハッとさせた。


「分かりました。行きましょう」


 どうやら俺に相談、てか交渉があるらしい。まあ、事件に巻き込んじまった俺が断れないってことを考慮したうえでの交渉のようだし、なにやら厄介ごとのようだな。


「じゃあ、そういうわけで、紫炎を借りていくから。えっと、D組の次の授業は……っと、秋世が担当か。まあ、秋世には、A組の青葉が紫炎を拉致していったとでも伝えといてくれ」


 そう言って、俺は、紫炎の手を握り生徒会室へ先導していくのだった。僅かに汗ばむ柔らかな……武道を嗜む者とは思えないほどに滑らかな、怪我も、怪我の跡も、たこも、肉刺(まめ)もない綺麗な手を握って。


「武道家の割りに、凄い綺麗な手だよな、紫炎って」


 なんとなく、そんなことを口にしてしまった。まだ休み時間なので、移動教室などで廊下を歩く生徒が多い中、手を繋いでいたら目立つのだろうが、俺はあまり気にしていなかった。


「えっ?そ、そうですか?」


 紫炎は、繋いだ手を見ながら、照れ笑っていた。普通に美少女だよな……。


「ああ、切り傷も擦り傷も、怪我したような跡も、たこも、肉刺とかもないよな」


 俺の言葉に、紫炎は、「えへへ」と軽く笑ってから、声のトーンを下げて、俺の言葉に返してくれた。


「ウチの【明津灘(あきつなだ)流古武術】は、いくつか種類がありまして……。【古武術】の中でも合気道や柔道などが織り交ざったものを私は使っています。他にも剣術主体の【明津灘(あきつなだ)流古武術・剣派】や槍や棒が主体の【明津灘(あきつなだ)流古武術・槍派(そうは)】、手裏剣や角手(かくて)などの暗器(あんき)が主体の【明津灘(あきつなだ)流古武術・忍派】など、もはや【古武術】の域を超えたものが多く有るんです。私は基礎の【明津灘(あきつなだ)流古武術】だけでいいんですけどね」


 そう言って、なにやら深い問題を抱えていそうな紫炎が、嘘笑いをした。全然笑えてない。少なくとも、俺が見て、嘘笑いだと見抜けるほどだ。

 それほどの何かを紫炎は抱えているのだろう。だとしたら、今回、何を頼まれてもすんなり受けるしかないな。


「さて、生徒会室に着いたぞ」


 そう言って、生徒会室のドアを開けた。誰もいない、二人きりの生徒会室で、俺と紫炎は、ほぼ無意識、といってもいいように応接スペースのソファに腰をかけた。無論、テーブルを挟んで対面するように、だ。


「さて、と、まあ、先日の秋世の件は、まあ、いまさら、特に話す話でもないだろうから、置いておこう。それで、俺に頼みでもあるんじゃないのか?」


 俺の言葉に紫炎が、目を見開いた。どうやら、見抜かれていることに驚いているらしい。いや、まあ、あの状況でオーケーを出すってことはそういうことだ、と誰でも分かるんじゃないのか?


「正直に驚きました。流石は、あの青葉君、ですね。頭の回転と柔軟さ、そして知識量だけならX組に最も近いってみんなに噂されているだけのことはあります」


 そんな噂されてんのか……?酷いもんだ。宴には悪いが、X組を一般人と称するのは難しい。イカレてると言っても過言ではない連中だ。それに近いって、割りと悪口だぞ。


「その酷い噂、誰が流してんだ?まあ、いい。それで、本題に入ろう」


 俺の言葉に、紫炎は少し迷っていた。どうやら、俺を巻き込んでいいものか悩んでいたのだろう。


「……。巻き込めよ。俺くらいならさ、巻き込む、巻き込まない、なんて考えてないでさ、巻き込んじまえよ。俺は、絶対、お前の頼みを断らねぇから。だから、……巻き込め」


 俺の言葉に、紫炎の片目からツーと涙が落ちた。


「青葉君……」


 その顔は、どこか吹っ切れたような乙女の顔をしていた。そして、紫炎は、俺に頼みごとをする。


「青葉君。修学旅行の1日目、私とともに、私の実家へ来てもらえませんか」


「ああ、いいよ」


 即答だった。何が何でも引き受ける、と言った以上、引き受けないわけにはいかないだろう。だから、あえて即答した。


「お前の実家だろうとどこだろうと、行ってやるよ」


 そして、俺と紫炎は、6限を生徒会室でサボるのであった。








 放課後。秋世に激怒され、秋世が手の施しようがないほどにキレてたので、生徒会にでず、それに関しては、秋世には言っていないが、ユノン先輩とミュラー先輩は許可をだしてくれた。ユノン先輩は、「昨日の件で疲れてるだろうし」と、ミュラー先輩はまだ昨日の夜から今日の朝にかけての全裸でベッドイン事件が恥ずかしいのか、あまり目を合わせなかったが許可してくれた。

 そんなこんなで、昇降口を出ようとしたところで、後ろから声をかけられた。


「あ、せ、先輩っ!」


 その聞き覚えのある声に、俺は振り返った。その声の主は、律姫ちゃんだった。天姫谷の一件でも少々縁のあった後輩。


「あー、ちょっ、りっちゃん、また抜け駆けー?」


「リツ、ズル~い」


 同じ「水泳部」の面々であろう律姫ちゃんの友だちが、律姫ちゃんをからかうように言った。


「やあ、律姫ちゃん。どうかしたのかい?」


 俺が律姫ちゃんに返事をした。すると、なぜか色めき立つ。一体なんだというんだ?まあ、いいか。


「あ、あの……、今からちょっとお話しませんか?」


 水泳部は自由出席、というか、来たい日に来たい人が行く方針なので、……まあ、滅多に行かない人もいないんだが、そういうことなので、律姫ちゃんが部活に行かないのは問題ないのだろう。


 しかし、この感じ、どことなく、さっきの紫炎と似通った感じがある。つまり、またも、俺に対する依頼、というかお願いか……。


「ああ、いいよ。俺もちょっと律姫ちゃんに話があったんだ。いっこっか?」


 俺の微笑みに、律姫ちゃんは、少しタジタジになりながらもひょこひょこと俺の横に並び、俺についてきた。






 紫炎とお茶をしたカフェに来ていた。無論、律姫ちゃんと一緒に、である。俺は、律姫ちゃんが座って、店員に俺が「コーヒー」、律姫ちゃんが「カフェオレ」を頼むと、さっそく本題に入った。


「さて、と、話があるってことだったけど、何かな?」


 俺の言葉に、律姫ちゃんは、少し慌ててから、水を飲んで、気を紛らわせながら、俺に言う。


「あ、あの、先輩のお話を先に……」


 何か言い難いことなのだろう。俺は、コーヒーとカフェオレが運ばれてきたのを確認して、店員がテーブルにそれぞれおいて、俺はコーヒーを飲んでから話を始める。


「うん、そうだね。俺の話ってのは、もしかして、律姫ちゃん、俺に言い難い頼み事が有るんじゃないかなーって思ったってことなんだけど、間違ってる?」


 俺の言葉に、驚いて目を見開く律姫ちゃん。そして、律姫ちゃんは、少し迷ってから頼みごとを言う。


「あ、あの……、先輩。あ、あた、わたしの実家に、修学旅行の2日目に来てもらえませんか?」


 なんと、紫炎と似た頼みごとだった。


「あ、あの2日目に、あ、わたしは学園を休んで、実家に戻る予定です。そのときに、一緒に来てもらえないかと……。

 ウチの実家は【殲滅(せんめつ)】の冥院寺(みょういんじ)と呼ばれる京都の名家なんです。それで、少々込み入った事情がありまして、……。

 先輩とデー……お食事に行ったときに、わたしが手を握られて先輩のことを《古具》使いだと見破ったことがあったじゃないですか?あの時、実は、緊張のあまり【殲滅(せんめつ)】力を対異能に常時展開していまして……」


 そこまでで充分だった。2日目なら紫炎との約束とかぶっていない。それなら全く問題ない。


「ああ、いいよ。君の実家に行こう」

 俺は、律姫ちゃんに微笑みかけていた。


 こうして、俺は、来週に控えた修学旅行に、奇妙な日程を詰め込み、熾烈な戦いと縄張り争いと古い仕来りに縛られた8つの家を巡る古都・京都をへと向かう準備を刻々と進めていくのだった。

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