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《神》の古具使い  作者: 桃姫
聖剣編 SIDE.GOD
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42話:赫炎の劫剣

 突如現れた二人に、トリスタンとガウェインは目を見開いた。紫炎も同様だ。無論、俺は驚かなかった。ユノン先輩とファルファム先輩は、俺のことを見て、その後、その周囲を見て、どういう状況かを確認した。俺は、《古具》をしまって手ぶら状態。


「し、紳司。この状況は、一体どういうことかしら?」


 ユノン先輩がいつもの如く、俺の名前を言いよどみながら言った。俺は、とりあえず、ユノン先輩の方を見てから、トリスタンとガウェインを見る。


「こちら、《聖王教会》の騎士さんだそうで……。ちょこっと戦闘をしていたところです。しえ……明津灘(あきつなだ)は、成り行きで巻き込みました。市原先輩も家はご存知でしょう?」


 その言葉で、その場にいる人間のことは大体分かったであろうユノン先輩。一方、ファルファム先輩が《聖王教会》の名を聞いて、ユノン先輩の影に隠れるようになる。


「ミュラー・ディ・ファルファム。あなたを本国へ連れ帰る」


 トリスタンがファルファム先輩にそう言った。その言葉を聞いて、ファルファム先輩に動揺が走る。


「もしかして、シンジ君は、あたしのために戦ってくれたの……?」


 ファルファム先輩が震える声で俺に聞いた。俺が否定する前に、ガウェインが肯定の意味を込めて頷いた。


「アリガト……、《赫哭の赤紅アンリミテッド・レッド》!」


 ファルファム先輩が《古具》を解放した。その瞬間、先輩の周囲は、灼熱の業火に包まれる。深紅の炎。その炎の唸りは、まるで慟哭(どうこく)の様に悲しく響く。そして、おそらく胸にあった薔薇が、身体中に広がっている。腕や首、露出の多い脚などにも紅の薔薇が見えている。


「あたしは、シンジ君を傷つけたことが……、そして、シンジ君に守ってもらっていた自分自身が……、許せないの」


 そして、炎を纏い、金髪が炎の光に反射してキラキラときらめいていた。ファルファム先輩は叫ぶ。


「だから、《赫炎の剣(サクノ)》!」


 ファルファム先輩の目の前に、一振りの剣が突き刺さる。銀の煌く剣は突如、炎を纏う。まるで、その炎は、オレンジ色に輝く始まりの炎のようだった。

 そう、ファルファム先輩が纏うのが悲しみを表した慟哭の炎なら、この剣が纏うのは、全ての始まりを表した希望の炎だ。

 その炎の美しさに、皆、一様に息を呑んだ。橙と深紅の炎が交じり合い業火がファルファム先輩の周囲を舞っている。


「あれが、《聖剣》……」


 トリスタンが呟いた。あまりにも強大な力に、言葉が出ないのだろうか。それとも、ファルファム先輩が呼び出したことに驚いているのだろうか。


「世界の始まりと終わりを司る《炎》の剣……。《赫炎の剣(サクノ)》。原初を司る力の体現」


 そう言ったのは、拙い日本語のガウェインだった。どうやら、ガウェインは何か知っているらしい。


「《魔剣》、《炎を纏う剱(レヴァンティン)》同様、炎を司っているというのに、《炎を纏う剱(レヴァンティン)》とは比べ物にならないくらいに炎の密度が濃い……?!」


 トリスタンがそう言った。《炎を纏う剱(レヴァンティン)》。レーヴァテインと一般的に言うと思う。杖や枝と言われる物だが、スルトの剣やフレイの勝利の剣など、様々な物と同一視されることがある。ゲームなどでは、剣と扱われることが多いし、某魔法少女アニメに登場する守護騎士の一人が同名の剣を使っていたことで剣の印象が強いものと思われる。


「この剣には、炎魔火ノ音の炎が注ぎ込まれているらしいの……。それゆえに、劫火を纏いし剣。轟炎の魔女の業炎を宿す劫の剣。あたしは、この剣に選ばれたの。だから、あたしはこの剣を離さない」


 身体が纏う炎に同化するように、ファルファム先輩の身体が炎に揺らめく。まるで、ファルファム先輩自身が炎になってしまったかのように。


「この剣に伝わる思い……。それを、今……。あたしは、唱える。


 【悠久聖典(アシャノス)第六節】


 ――劫火の章(サクノ)


 ――転節。


 全ての始まり、そして、終焉を告げる【原初の炎】。終息するは白炎。司るは、飛天姫(サクラ)


 【血染眼(ちぞめ)】と【死染眼(しぞめ)】。重なり合う視界の先に【狂った聖女(マリア)】は笑う。


 七つの夜は、終わりを告げ、やがて来る別の孤児(みなしご)へと継ぐ時が来る。


 天から(さか)んに降る炎の雨、――血炎雨(けつえんう)


 さあ、身に纏え」


 まるで、呪文のような文章を読み上げたファルファム先輩。そして、完全に、炎と化す。もはや、人の成せる業ではない。思わず、そう感じてしまう。


「【悠久聖典(アシャノス)第六節】


 ――劫火の章(サクノ)


 全ての始まり、そして、終焉を告げる【原初の炎】。色は、紅。司るは、紅蓮の巨人(ムスペル)


 (セルト)紅炎龍(ベリオルグ)神話(ミソロジー)より聖典(シャノリス)へと書き連ねた紅蓮の炎。


 【氷の女王(キサキ)】と【紅蓮の王(セルト)】。【血塗れの月(ブラッディー・ムーン)】と【血塗れ太陽(ブラッディー・サン)】。【妖精王女(ファントム)】と【ラクスヴァの姫神】。


 幾多の戦士の屍をも焼き尽くす、――死の劫火。


 さあ、死を齎せ」


 そして、次いでまたしても呪文の様な文を唱えた。しかし、物騒だ。死をもたらせ、ときたか……。


 上空に生じた炎がまるで吸い込まれるかのように《赫炎の剣(サクノ)》の中に入っていく。


 それにしても、ベリオルグ……。姉さんに聞いた単語だ。ムスペルも、紅蓮の王(セルト)も。姉さんが言っていたグラム……グラムファリオという刃神が言っていた言葉だ。知らない単語は多いが、どうやらグラムと関係のある何かがファルファム先輩の《赫炎の剣(サクノ)》らしい。


「【悠久聖典(アシャノス)第六節】


 ――劫火の章(サクノ)


 ――三節。


 全ての始まり、そして、終焉を告げる【原初の炎】。発足するは桃炎(とうえん)。司るは、愛桃騎士(クララ)


 【月光神紅(ライア)】と【月龍天紅(シュピード)】。光に満ち溢れた紅の月と混沌に塗れた紅の月が再会するとき【牢獄の女(ウィンザー)】は救われる。


 天光は炎へと変わり【血塗れ太陽(ブラッディー・サン)】は、【月龍天紅(シュピード)】と三度(みたび)剣を交える。前は主のために、後も主のために。


 幾度生まれ変わっても主のために炎を撒く、――流星炎。


 さあ、解き放て」


 三度目の呪文。そして、三節と三度剣を交える、とあったが、おそらく、二度目に唱えた呪文が「何節」とついていないが一番最初なのだろう。最初にも【血塗れ太陽(ブラッディー・サン)】は出ていた。そして、「幾多の戦士の屍をも焼き尽くす」の文から、【血塗れ太陽(ブラッディー・サン)】も死亡したように思える。ということは、二節で生き返り剣を交え、三節でも剣を交えた。故に三度、なのかも知れない。


「これがこの剣の力なの。あたしは、ううん、おそらくあたし以外がこの剣の力を引き出すことはできないの。それが出来るのは、きっと炎魔火ノ音を除けば、(ただ)一人。火々夜(かがや)燈火(とうか)って人くらいって感じかな」


 どうやら、ファルファム先輩は、剣に込められた炎の記憶を読み取っているらしい。それゆえに、様々なことが分かるようだ。


「これをあたし以外が保管するのは難しいの。だから、あたしが持ってる」


 そう言って、全ての力を切るファルファム先輩。いつものファルファム先輩の姿に戻っていた。炎が出ていなければ、模様が身体中に出ているわけでもない。いつものファルファム先輩だ。


「しかしっ!」


 トリスタンが何かを言おうとしたとき、再び銀朱の光が現れる。そして、二人の女性が現れた。一人は、少し紅色に見えなくもない黒髪と紅っぽい黒の瞳の女性。俺も知っている天龍寺秋世だった。


 もう一人は、トリスタンたちと同じローブに身を包んだ金髪の人物。捲れ上がったローブの裾からは黄金に輝く神々しい剣が見えていた。その剣を見た瞬間、俺は鳥肌か立った。それほどまでに神々しい剣だった。


「あぁ……どうやら、間に合ったとは言いがたい微妙なタイミングになったみたいだな」


 男にしては高い、女にしては低い、どちらとも言いがたい声。おそらく、女性だろう、と俺は思った。同時に、こいつが聖騎士王、アーサー・ペンドラゴン、かと思った。話で聞いていたが、随分と若く見える。まあ、秋世と知り合いってことは、まあ同様、見た目どおりの年ではないのだろうが。


「せ、聖騎士王様」


 トリスタンの声で、俺は確信を持った。この女、だと思われるやつこそアーサー・ペンドラゴンなのだ。


「ん?ああ、そうか。君が王司君と紫苑の子、紳司君、か。ホント、そっくりだな、両親にも、祖父母にも」


 毎回言われるな、これ。そんなに似てるか?まあ、いい。て、いうか俺のことばかりで姉さんのことを聞かれた覚えがないな。「君が紳司君か。そういえば、お姉さんはどうしてるんだい?」なんて聞かれたことはない。


「はじめまして、って言ったほうがいいですか?聖騎士王、アーサー・ペンドラゴンを名乗っている人」


 少し挑発まじりの言葉に、アーサーは苦笑していた。どうかしたのだろうか。懐かしんでいるようにも見える。


「敬語は使わないでいいわ」


 鈴の音の様な声で返事が返ってきたので、トリスタンとガウェインとユノン先輩が驚いていた。知っていたであろう秋世とファルファム先輩は驚いていないようだ。無論、俺も驚いていない。


「いやはや、懐かしいわね。まったくもって忘れいてたわ、秋世を使えば一瞬でつけるのだ、ということを」


 肩を竦めるアーサーに、秋世がなんともいえない顔をしていた。どうやら、地位はアーサーの方が上なのだろう。何も言い返せないらしい。


「あまりタクシーのように使ってやるなよ。秋世が可哀相だろ」


 俺がそう言うと、秋世が半目で睨んできた。何だよ、フォローしてやっただろう?何が不満なんだ。


「フォローに見せかけて、俺だけの便利タクシーがあちこちに出張していると呼び出すのが面倒になってくるから出来るだけ目の届く範囲にいて欲しいって顔じゃないの!

 ていうか、メールなり電話なりで連絡すれば一瞬でいけるのに、その連絡すら面倒くさがらないの!」


 秋世に見透かされていた。何故分かったし……。


「ははっ、王司君と同じこと言ってるわ。くすくすっ」


 アーサーが笑う。秋世は拗ねる。父さんは、こんな人たちと一緒に仕事をしていたのか……。


「えっと、さて、それじゃあ、本題に入りましょうか」


 一頻り笑ってから、アーサーがそう切り出した。

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