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《神》の古具使い  作者: 桃姫
終語編
370/385

370話:ファンタジア→トゥルース 前日譚

 放課後の喧騒、運動部たちの気合の入った声、そんなやかましさを無視しながら、俺は俺の城へと向かった。学校内で俺の城などと言う表現をすれば、俺はどのような人間だ、となるが、ようするにただの部室のことである。俺、青葉(あおば)紅司(こうじ)は、この三鷹丘学園高等部の3年生にして文芸部部長でもあるのだ。部室では俺がルール、……つまり、部室は俺の城ってことだ。しかし、俺の城であるところの文芸部という場内国家の国民は、現状、たったの1人である。幽霊国民……ではなく幽霊部員は他に4人もいるらしいが、俺は見たことがない。


 そして、俺は城へと返ったのである。この文芸部と言う部活は、少々特殊な部であり、生徒会に付属しているのだ。母さん曰く、この世界には昔《古具(アーティファクト)》と呼ばれる特殊な力があり、生徒会には《古具使い(アーティファクター)》と呼ばれる者しか入ることができなかったが、今はもう《古具》が存在しないので、一般生徒が生徒会長を務める他無くなった。しかし、すると、生徒会にある莫大な資料をどうにかしなくてはならないのだが、一般生徒に触れさせるわけにもいかず、資料の処理をどうにかするために生まれたのが文芸部である。だが、部に入ることが出来るのが特殊な人間だけか、というとそれは違う。なぜなら、部活動存続には規定以上の人数が必要だからだ。この世の中そうそう不思議な力を持った人間なんていないからな、そんな縛りをしていたら、部活なんて作れるわけがないのだ。


「せ~んぱいっ、遅いッスよ~」


 この馬鹿がその証拠である。唯一の国民であるところの夢野(ゆめの)麻里榎(まりか)。本が好きだからという理由でこの部活に入ってきたが、ぶっちゃけイメージ通りであり、その馬鹿っぽさは逆に尊敬するレベルだ。ケータイ小説しか読んでないしな。いや、べつにケータイ小説を馬鹿にしているわけではなく、文芸部に入ったんだからもっと趣味の幅を広げろという意味である。


 しかし、まあ、俺は俺自身、酔狂だと思うが、こんな馬鹿ことマリカに恋をしているのだ。元々、年下好きではあるのだが、この馬鹿っぷりが逆に愛くるしく見えてくる。ここまでくると俺は重症なのかもしれない。


「ちょっと、青葉、いるかしら?」


 ノックも無しに思いっきりドアを開けて入ってきたのは淡い金髪の女子生徒、生徒会長の三浦(みうら)吉葉(よしは)だ。少し吊り目で、これがツインテールだったら、確実に漫画とかのツンデレヒロインって容姿をしている。まあ、こんな美少女が俺に好意を寄せるわけがないので、普段のツンツンした態度はツンデレではなくツンツンであるのだろう。まあ、俺の思い人はマリカなので気にもしないが。


「どうした、三浦?」


 俺の言葉に、三浦は「ふ、ふん」と急に何もしていないのにそっぽを向いた。なんだよ、人と話すときは目を見て話せよな。こいつはいつもこうだけどな。


「べ、別にあんたと話したかったとかそう言うことで来たんじゃないんだからね。この書類の不備を正しに来ただけだからね」


 別にそんなことをわざわざ言わなくても分かってるっての。まったく、三浦はまじめだな。どうせ不備も軽いものだろうけど、それでもこうやって正しにくるあたり、三浦の生真面目さがうかがえる。本当に細かい奴だけど、これくらいじゃないと生徒会長もやってられないのかもしれないな。


「おう、分かった。どこだ?」


 三浦を長時間、俺のミスで縛るわけにもいかないからな、とっとと直してやろう。書類を奪って、すぐにミスを直す。


「ほら、直したぞ」


「え、ええ」


 どうしたんだろうか、中々部室から出て行こうとしないな。もう用事はないはずなんだがな。忙しいのに、わざわざこんなところにとどまっていなくてもいいんだが。


「どうした、帰らないのか?」


 俺の問いかけに、一瞬ぽかんとした三浦。何を驚いているんだろうか。そんなに驚く要素は今の場面にはなかったはずなんだがな。


「べ、別にそうよね、用事ももうないしね。か、帰るわよ、帰るわよぉおお!」


 バンッと勢いよくドアを閉めて走り去る三浦。走って帰らなきゃならないほど忙しいのか、生徒会も大変だな。でも、生徒会長が廊下を走るのはどうかと思うぞ。


「せんぱいは酷いッスねぇ……。かいちょさんがフビンでしょーがないッスよ」


 マリカがそんなことを言うが、まあ、馬鹿の言うことだ、一々気にしていたらダメだろう。そんなことよりも、マリカの格好の方が問題だ。この馬鹿、今日の最後の授業が体育だったからと言って、体操着のままで部活にいやがる。ここは運動部じゃねぇんだぞ?しかも、馬鹿の癖に発育いいから、その……正直言って目のやり場に困る。むっちりとした体に密着したスパッツのようなハーフパンツに、薄ら透けている体操着の上は桃色のブラがぼんやりと分かってしまうくらいだった。しかも、おそらくマリカは気づいていない。と言うか気づいていて俺を誘惑しているなら相当な策士である。


「どーしたッスか?こっちをジロジロ見ても何もないッスよ?」


 いや、ある。めっちゃある。おっぱ……とにかくめっちゃある。はぁ……改めて思う。なんで俺はこんな馬鹿を好きになってしまったんだろうか。


「そもそもせんぱいはぜーたくモンッスね。かいちょさんのどこが不満なんスか?」


 不満も何も、俺と三浦は、ただの会長と部長と言う関係でしかない。しかもそれのどこにも不満を感じている覚えはない。むしろ不満があるのはお前(マリカ)にだと言ってやりたい。


「そもそも、せんぱいはそんな態度だからカノジョの一人もできないんッスよ」


 うっせーな。じゃあテメェが付きあえよ、とも言えないのがチキンな俺である。はぁ……俺ってやつは、本当に情けないな……。


「そういうお前も彼氏がないだろーがよ」


 俺の言葉に、マリカは「ふふん」と威張るように胸を張る。何だ、もしかして……、俺はまさかの態度に、思わず焦る。これでマリカに彼氏ができていたら、俺は死ぬかもしれん。


「マリカは、パパとママから『マリカはかわいい子だから将来モテモテだよ』って言われてるんス。だから、お金持ちで頭のいい人と結婚するんスよ!タマノコシってやつッス!」


 ああうん、たんなる馬鹿だった。そして親も親バカだった。ん?てーか、金持ちで頭のいい?母方の実家は天龍寺家っていう大金持ちで、成績は学年一位。あれ、……


「じゃあ、俺でもいいんじゃね?」


 思わず素で言ってしまった。俺もきっちり条件を満たしているじゃないか。これは完璧だろう。


「はぁ?せんぱいってお金なさそうじゃないッスか」


 やれやれとでも言いたげなしぐさにめっちゃイラッときた。胸でも揉んでやろうか、と思ったが、流石に自重した。


「あれ、お前、俺の実家知らないんだっけ。まあ、苗字が青葉だから分からないかも知れないが、俺の母さんは天龍寺って家の人間なんだよ」


 その言葉に、ポカンとするマリカ。流石にマリカでも天龍寺は知っているよな?これで知らなかったらあれなんだが?


「テンリュウジってあのTRJの?」


 TRJってなんだよ。そんな略し方されたことねぇよ。何の話をしているんだろうか。馬鹿の思考は理解できない。


「化粧品会社の話ッスよ。KJOって言う化粧品会社だったんスけど、そのテンリュウジって家に社長がとついじゃったから社名をTRJに変更したって言う会社ッス」


 KJO……紅条……?ああ、愛巫さんのところの会社のことか。そう言えばそんな社名だった気もするな。


「そうだよ。他にも政治とかにも関わってるし、最近有名なのは、機械開発かな?花月グループと提携して次世代端末の開発とかしてるってニュースでもやってただろ?」


 俺の言葉に目を輝かせるマリカ。何か物で釣ってるみたいでやだな、この感じ。まあ、いいか。


「てか、さ。俺、お前のことが好きなんだよ。お前の条件も満たしているし、俺と付き合わないか?」


 ぶっちゃけて告白することにした。マリカは、俺の手を取ってハイジャンプ。暴れんな部室で。


「いいッス!最高ッス!せんぱい顔と頭だけの残念男子かと思ったら顔と頭と金っていうちょーハイスペックじゃないッスか!」


 はぁ……、こんなんでよかったのかな?まあ、いいか。金に釣られた馬鹿を俺のもんに篭絡してやるぜ!






「というのが俺とマリカとの付き合った切欠ってやつだ」


 俺は長々とマリカとの関係を話してやった。青汰(しょうた)の反応は何とも微妙なものだった。


「いや~、あのマリカさんが昔はそんなおバカな子だったなんてねぇ、紅司さんのでまかせじゃなかったら事実なんだろうけど信じられないなぁ」


 ふむ、一応、興味を持って聞いてくれたようで何よりである。しかし、でまかせを疑うとは育ての親を何だと思っているんだ。こいつは七峰(ななみね)青汰(しょうた)。事情により、こいつの両親……まあ、俺の親戚でもある金髪馬鹿と金色天使の夫妻から預かっている。


「まあ、俺だったら、その金髪の人を選んだだろうけど」


 やはりこいつは親譲りの金髪好きである。


「でも、俺の周りに金髪なんていないんだよなぁ……、ああ、どっかに俺に告白してくるような金髪巨乳美少女がいないかなぁ~」

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